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2023年に反響が大きかった10の事件、その後どうなった?(下)

前田恒彦元特捜部主任検事
(提供:イメージマート)

 引き続き、2023年にヤフー・ニュースで配信した拙稿のうち、反響の大きかった記事を順に取り上げ、1年の動きやその後の状況について振り返るとともに、刑事司法を巡る2024年の展望を示しました。

【第6位】

 福岡県の老舗旅館が法令に違反して大浴場の湯を年2回しか換えず、県に虚偽の報告をしていた問題も、メディアで大々的に報じられました。2023年2月28日に運営会社の前社長が記者会見で指示を認めて謝罪し、3月8日に県が公衆浴場法違反で刑事告発したころがそのピークでした。

 しかし、3月12日に山道で前社長の遺体が発見されると、メディアの喧騒も一気に静まりました。「申し訳ない」「全ては自らの不徳のいたすところ」「あとはたのむ」という遺書を残しており、自責の念から自死を選んだとみられたからでした。問題の旅館は、外部業者によって大浴場のお湯の入れ替えを毎日行うといった是正計画を明らかにし、ゼロからの再出発を誓いました。

 こうした事態を踏まえ、4月の書類送検後、検察は6月に前社長を「被疑者死亡」で、運営会社についても諸事情を考慮して「起訴猶予」で、それぞれ不起訴処分にしています。非難されて当然の不正ではありましたが、たとえ起訴されて有罪になったとしても、最高で罰金2万円にすぎない事件であり、実に後味の悪い結末となりました。

 人間は実に弱い生き物です。マスコミや社会から集団で強烈なバッシングや心ない誹謗中傷を受け、徹底的に追い込まれると、思い悩み、その状況から逃れるために、あるいは命をもって償うために、自ら死を選ぶ人もいるということを改めて知っておく必要があるでしょう。

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元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

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