アメリカの底流が変わりつつあることを感じさせる大統領選挙
フーテン老人世直し録(209)
弥生某日
アメリカ大統領選挙の候補者選びは予想を裏切る展開が続いて極めて興味深い。8日に行われたミシガン州の予備選挙でドナルド・トランプ、バーニー・サンダースの両候補が勝利した。この結果は誰もが予想しない大番狂わせで、これを見るとアメリカにはベトナム戦争時と同レベルの政治不信が渦巻き、レーガノミクスによる「小さな政府」路線に国民が背を向けつつあることを感じさせる。
予備選の天王山と言われる3月1日のス-パーチューズデーでは、ヒラリー・クリントンとドナルド・トランプの両候補が圧勝した。これまでのセオリーで言えば大統領候補はこの二人に決まったに等しい。ヒラリーは民主党の本命候補で問題はないが、トランプは全く本命でなく共和党にとっては大問題である。
そもそも本命中の本命ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事はスーパーチューズデー前に撤退を余儀なくされ、共和党主流派が推すマルコ・ルビオ上院議員も保守強硬派が推すテッド・クルーズ上院議員も暴言を繰り返す不動産王に敵わなかったのだから深刻である。
共和党はスーパーチューズデーを境に穏健派も強硬派も一斉にトランプ攻撃を開始した。特にブッシュ(子)大統領時代に政権を支えた「ネオコン」は激しく、「共和党を分裂させてでもトランプ候補を認めない」と宣言、メディアもみなその流れに乗った。トランプはこの1週間集中砲火にさらされた。
「ネオコン」がトランプを目の仇にするのには理由がある。ブッシュ(子)政権の前まで共和党員であったトランプは、ブッシュ(子)政権が誕生すると民主党に鞍替えし、ブッシュ(子)政権が終わると再び共和党に戻った。トランプは軍事と金融で世界を一極支配しようとする「ネオコン」の主張を認めていないのだ。
世界を一極支配するより国内経済の再建をトランプは優先する。しかもレーガン以来の「小さな政府」ではなく「大きな政府」を志向する。金持ちには増税、貧しい者には減税して格差を縮め、福祉を充実すると言い、社会主義者を自称する民主党のサンダースと同じ立ち位置を示す。それが貧しい白人の保守層に熱狂的に支持されている。
従ってトランプもサンダースも「小さな政府」が主流になったアメリカ政治への反逆者である。それが国民から支持されているところに今年のアメリカ大統領選挙の見どころはある。そして8日、自動車産業を中心に大量の労働者を抱えるミシガン州でこの2人が大番狂わせを演じたのだ。
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