米国の顔色を伺って米国の対日侮蔑をもたらした湾岸戦争の前例
フーテン老人世直し録(213)
弥生某日
3月29日安保法が施行された。その日、安倍総理は参議院予算委員会で「安保法を廃止すれば、日米同盟の絆は大きく毀損される」と答弁し、自公両党は30日に野党5党が提出した廃止法案の審議を行わない事を確認した。
国民の理解が十分に進んでいない事を認めながら、安倍政権は安全保障問題で国民的議論を封じ込め、既成事実を積み重ねて自衛隊に米軍の肩代わりを演じさせようとしている。
国民に理解させないまま米国に追随する事が、当の米国に対日侮蔑の感情をもたらした湾岸戦争の前例を日本政府は忘れてしまったようだ。
湾岸戦争を巡っては「日本は人的貢献をせずただ金だけ払ったため世界から馬鹿にされた」と言われるが、当時ワシントンを取材していたフーテンに言わせれば、それは一部の人間が作りだしたデマゴーグである。
当時の村田良平駐米大使も認めているように、米国は日本の1兆円を超す支援金を本音では大変に感謝していた。ただ当時は日本経済が米国を圧倒し、米国内にジャパンバッシングの感情が高まり、感謝を素直に表明できる状況ではなかった。
一方で、米国の指導層は日本が米国と肩を並べる大国になる可能性を意識していたが、湾岸戦争における日本政府の対応に大国としてのふるまいを感じさせるものがなかった。
イラクのクウェート侵攻が起きたのは90年8月2日である。冷戦が終わって初の侵略戦争に国際社会はどう対応するか。各国とも夏休みが明けると議会を開いて対応を協議し、その結果、冷戦のために機能してこなかった国連主導の集団安全保障が行使されることになった。ところが日本だけは国会を開かず、日本政府は米国政府に支援金の提供を打診するだけだった。
これを見て米国はどう思ったか。中東の石油は日本経済の生命線である。その地域で戦争が起きているのに国会も開かず、国民に問題の重要性を説明し超党派で対応策を議論する事をしない国の姿に大いなる侮蔑を感じた。
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