対キューバ外交に見るオバマの深謀遠慮
フーテン老人世直し録(211)
弥生某日
オバマ大統領は現職のアメリカ大統領として88年ぶりにキューバを訪問している。この歴史的訪問は昨年7月の国交回復を確固たるものとし、アメリカとキューバの人的経済的交流を加速させる狙いがあると言われているが、これが大統領予備選の真っただ中である事からフーテンはそれ以上の深謀遠慮を感ずる。
深謀遠慮の一つは、レーガン政権以来、反カストロ派のキューバ系を取り込むことでヒスパニックへの影響力を強めてきた共和党の選挙戦略を粉砕する事であり、もう一つはウクライナ情勢で対立するロシアのキューバ接近を防ぐ狙いである。
今回の大統領予備選挙で共和党主流派が期待をかけたマルコ・ルビオも宗教右派が推すテッド・クルーズも反カストロ派のキューバ系である。それが「トランプ旋風」に吹き飛ばされ、また飛ばされそうになっている。一方で2014年のウクライナ危機の際、アメリカが黒海に軍艦を派遣するとロシアはすぐさまキューバに軍艦を派遣した。この二つがフーテンの頭の中にある。
アメリカにとって目と鼻の先にある社会主義国キューバは厄介な存在であった。1959年のキューバ革命以来、アメリカはカストロ政権を転覆するため何度も軍事侵攻や暗殺計画を繰り返したがことごとく失敗し、キューバが旧ソ連に支援を求めた1962年には米ソ核戦争の危機が勃発した。
危機は旧ソ連の譲歩で回避されたが、その後も民主党共和党の別なくどの政権でもアメリカとキューバは敵対し続け、特にレーガン政権は1982年にキューバを「テロ支援国家」に指定、またブッシュ(子)政権は2005年にキューバを北朝鮮、イランと並ぶ「打倒すべき独裁政権」と名指しした。
ところがオバマ大統領は一転してキューバとの国交回復に舵を切ったのである。2009年に「核廃絶」や「イスラムとの和解」など歴代政権とは異なる外交方針を打ち出したオバマは、就任時からキューバとの和解を考えていたと言われているが、国交正常化交渉が水面下で始まったのは二期目の2013年と言われる。
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