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秋風が吹く秋ドラマ、ラストまで見たい3本+配信ドラマ1本 『ライオン』『全域』が2トップ

武井保之ライター, 編集者
TBS金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』公式サイトより

12月に入り、後半戦に入った秋ドラマ。話題作の乏しい今期は、気づいたら見続けているドラマがわずか数本になっていたが、一方、尖った作風の光る作品も出てきた。

とくにおもしろかったのが、NHK土曜ドラマ『3000万』。10月末で放送終了しているが、どこにでもいそうなふつうの家族が、ちょっとした出来心から闇バイトに巻き込まれていくストーリーには、誰もの身近にある暴力と犯罪をリアルに描き、物語の放つ力に圧倒された。間違いなく今期No.1の注目作だった。

ほか、放送中の今期ドラマで、最終話まで目が話せないのは3本。

最注目は、TBS金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』。自閉スペクトラム症の弟と主人公の兄が、平穏な2人暮らしに突然入り込んできたライオンと名乗る小さな男の子に戸惑いながら、周囲に助けられて家族になっていく心温まる物語。それが、DVにまつわるサスペンスフルな展開と平行して描かれてきた。

謎だらけだった登場人物たちの関係性と疾走事件の概要が明らかになり、家族がもとの生活に戻れるかと思った後半だったが、第8話のラストで一気にサスペンス要素が強くなる急展開が訪れた。ラストでの家族の着地点が、ぼんやりと見えてきてはいるが、その予想を裏切る、しびれるような結末が待っているのでは、という期待も高まる。最終話まで目が離せない。

(関連記事:『ライオンの隠れ家』DVから母子を守る家族と社会の闘いの物語

次いで、急展開で一気におもしろくなっているのが『全領域異常解決室』(フジテレビ系)。藤原竜也、ユースケ・サンタマリア、小日向文世の俳優力に惹きつけられて見ていたが、オカルトチックな事件を異端刑事が科学捜査とロジックで解決していく刑事ドラマかと思いきや、第7話で物語がひっくり返された。本物のオカルトドラマだった。

本作の本筋は、現代社会で人間に紛れて生きる、それぞれ特殊な力を持つ神々の闘い。第7話までと、それ以降ではまったく別の物語として映る。それまでの事件の見え方も180度変わり、物語の奥行きが増した。現在と過去の時制の入れ替えも含め、見事な叙述トリックだった。この先のフランチャイズ化も視野に入る、強力なIPが生まれた。

一方、スタート当初からトーンダウンしている感があるのが、TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』。1950年代の端島(軍艦島)を再現した映像美に圧倒される、戦後と現代を結ぶ骨太な社会派ドラマだが、話数が重ねられ端島の映像に慣れてくると、1話ごとのお話は、特別おもしろくもつまらなくもない。

1950年代の端島の物語がメインになり、そこでの出来事と現代のリンクが、想定内からはみ出してはこなかった。『ライオンの隠れ家』と『全領域異常解決室』にある想定外が本作にはないところが、いまひとつ話題にならない理由のように感じる。物語自体はおもしろいし秀逸なのだが、突き刺さってこない。ここからの後半に期待したい。

(関連記事:『海に眠るダイヤモンド』見えてきたフォーマット 端島に映す現代日本の社会課題と未来の地球環境

11月にスタートした配信ドラマでは、ディズニープラスの『江南Bサイド』がおもしろい。韓国・ソウルの江南で起きる女性連続行方不明事件の背後に潜むアンダーグランド組織に、エリート刑事、若手検事、仲間が巻き込まれたブローカーが対峙するクライムサスペンス。

毎週2話ずつ韓国と同時配信されているが、前半から目まぐるしくストーリーが進み、どんどん話が展開していく。韓国ドラマならではのドギツい描写のインパクトやリアリティのあるストーリーテリングに、気づけば引き込まれている。旬の俳優、クリエイターによる最新韓国サスペンスが堪能できる秀作だ。

発表されたばかりの配信ドラマ2025年の注目作

オリジナル韓国ドラマ制作に注力するディズニープラスは2025年の新作を発表したばかりだが、サスペンス、ミステリー、刑事ものや医療ものの社会派ドラマなど、韓国が得意とするジャンルの充実したラインナップだった。

なかでも気になったのが、『梨泰院クラス』のヒロイン、キム・ダミと『カジノ』シリーズなどで知られるソン・ソックが主演する『ナインパズル』。10年前に起きた未解決殺人事件の唯一の目撃者(キム・ダミ)を、現在の連続殺人事件の容疑者と疑う刑事(ソン・ソック)が、彼女の秘密を探りながら事件に迫る本格サスペンス。

もう1作が、ヒョンビン&チョン・ウソン主演の『メイド・イン・コリア』。1970年代の韓国を舞台に、富と権力への欲望に溺れる男と、執念で正義を執行する検事が、壮大な事件に巻き込まれていくクライムサスペンスだ。

どちらも韓国ドラマファンだけでなく、日本の連続ドラマファンも唸らせてくれるだろう名作の予感がある。

まずは秋ドラマの行方に注目したいが、2025年は冬ドラマからそのあとにもおもしろそうなドラマが多く控えているようだ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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