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ヘルズキッチンを東京で例えるならば?治安は実際どうなの?犯罪発生率を徹底的に調べてみた

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
規制により高層ビルがほとんどない手前のエリアが、ヘルズキッチン地区。(写真:CavanImages/イメージマート)

これまでニューヨークの中では、どちらかというとそれほどスポットライトが当たるエリアではなかったヘルズキッチン。しかし小室眞子さんと圭さん夫妻がこの地区に新居を構えたことで、日本から一気に注目を集めることとなった。

ヘルズキッチンを東京で例えるならば・・・

ヘルズキッチンについては、さまざまな憶測が飛び交っている。まず一部の報道にあるような「おしゃれ地区」というのは本当か?

近年はジェントリフィケーションが進み、特にハドソン川沿いにはいくつか高層ビルも新築されるようになった。しかし今でもヘルズキッチンに多くあるのは築100年前後の古い低層ビルで、住民も最近流入した新顔というよりは昔からずっとこの地で暮らす人たちだ。まるで下町のような雰囲気といったところか。

ニューヨークを代表するような店や若者が集まったり、最先端の文化が発信されたりしているおしゃれ地区とは異なり、米不動産大手コーコランの松村京子さんは「気取りのない雰囲気」と表現する。東京で表すならば?

「どちらかと言うと、中野区のようなイメージが近いかもしれません」

気取りのない雰囲気が、ヘルズキッチンの魅力。(c) Kasumi Abe
気取りのない雰囲気が、ヘルズキッチンの魅力。(c) Kasumi Abe

(c) Kasumi Abe
(c) Kasumi Abe

治安、本当のところは?

治安に関して、大事件だけを切り取った一部の報道を見て心配する声が聞こえてくる。

ヘルズキッチンは隣接するタイムズスクエアのきらびやかな都会の陰に隠れ、これまで雰囲気がそれほど良いとは言えなかった・・・。しかしそれは、地下鉄車両が落書きだらけで、タイムズスクエアが売春婦やポルノショップで溢れる風俗街の一面もあった時代の話だ。

90年代半ばから、当時の市長、ルディ・ジュリアーニ氏が掲げた治安改革により、タイムズスクエアが世界的観光地へと様変わりし、それと同時にヘルズキッチンの治安も改善された。近年は、手付かずだった更地の再開発も進められている。

またこの界隈は、ブロードウェイのショウが始まる夕方以降から賑わいを見せ始める。観光客で人通りが多いため、目立った犯罪はそう多くは聞こえてこない。

その一方で、「今でも汚くて治安の悪い通りもある」と地元住民は言う。「パンデミックでホームレス風の人が増え、物乞いをされた」「怪しい雰囲気の場所もあり、歩く際は注意をしている」という声も聞こえてきた。

パンデミック以降、市内で増えたアジア系の住民をターゲットにした犯罪も、この地でいくつか発生した。

例えば今年3月、65歳のフィリピン系女性が昼間、通りを歩いていたところ、見ず知らずの38歳の男からすれ違いざまに殴る蹴るの暴行を受けた。さらにショッキングだったのは、事件が発生した通りの前にあるアパートメントビルのドアマンが、女性を助けるどころか見て見ぬ振りをし、ドアを閉めたことだ。その一部始終が監視カメラに記録され、人々を震撼、​​憤怒させた。

その2ヵ月後の5月には、31歳の台湾系の女性が友人と夜道を歩いていたところ、ホームレスの女にハンマーで襲われて怪我をする事件も発生した。

また人種は不明だが、つい先週も62歳の男性が早朝の路上で、集団暴行を受ける事件が起きたばかり。

実際に筆者がヘルズキッチンで危ない目に遭ったことは一度もないが、都会に近い分犯罪やいざこざも多いのかもしれない。ここに居を構えるならば、通りや時間帯によっては十分注意が必要になってくるだろう。(どの地域でも言えることだが)

統計で見えてきたもの

ニューヨーク市内の犯罪率については、NYPD(ニューヨーク市警察)による戦略管理システム「コンプスタット (CompStat)」を参照することでだいたいの傾向がわかる。NYPDはコンプスタットを基に、警官の数や配置を決定し、犯罪削減のための戦略を立てているのだ。

そのコンプスタットで、ヘルズキッチン地区は「ミッドタウンノース管区」として位置づけされている。事件発生数の統計は以下の通り。

ミッドタウンノース管区

上半分で、最近(11月8日〜14日)の傾向がわかる。

上半分の右側はそれらを2年前、11年前、28年前と比較した数字。これを見るといずれも、犯罪数は減少傾向にあることがわかる。

ほかに注目すべきは下半分だ。

2020年

殺人件数4

レイプ件数14

強盗件数136

...などで総数1701件

この数字が多いか少ないか、比較対象がないとなかなか判断が難しいだろう。

ちなみにニューヨーク市内でもっとも治安がよいとされているエリアの1つ、マンハッタンのサットンプレイス(Sutton Place)地区のある第17警察管区はどうか。

第17警察管区(最新版)

2020年

殺人件数0

レイプ件数13

強盗件数64

...などで総数953件

逆に、市内でもっとも犯罪率が高い傾向にあるのはブロンクス区で、昨年から今年6月にかけて、もっとも重犯罪率の高かった管区はいくつかあるが、その中でも1つの例として、第44警察管区の統計はどうか。

第44警察管区(最新版)

2020年

殺人件数14

レイプ件数35

強盗件数414

...などで総数2318件

結局のところ、ヘルズキッチン地区の事件の発生率は市内で飛び抜けて高いということではないが、犯罪発生率が低いほかの地区に比べると繁華街に近い分、やや高めの傾向にあるようだ。

またヘルズキッチン地区と一言で言っても、実際には割と広範囲に及んでおり、傾向としては、ヘルズキッチンの北部より南部の方がより犯罪発生率が高いようだ。

コンプスタットではいずれの管区も1990年と2020年を比べると、20年の方が犯罪率が減少していることがわかる。一方でこれはヘルズキッチンに限らずニューヨーク全体で言えることだが、昨年以降、タイムズスクエアやグランドセントラル駅、人気のステーキ店など、観光客が多く集まる人気スポットでも、銃撃殺傷事件がたびたび発生しているのもまた事実だ。

決して恐れすぎる必要はないが、夜間や人通りの少ないエリアを歩く際は十分な注意が必要になってくるだろう。

(Text and some photos by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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