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「お金がないのも、恋愛や結婚ができないのも、全部自己責任?」恩恵があるのはほぼ上位3割だけ

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

不本意未婚5割

当連載で何度も述べていることで恐縮だが、重要なことなので何度も書いておきたい。

日本の少子化は、子どもが産まれないという以前の問題で、婚姻数が激減しているからに他ならない。より正確に言えば、「20代の若者が20代のうちに初婚できない問題」である。

もちろん、結婚というものに魅力も必要性も感じない若者が無理して結婚する、あるいは社会的な圧力によって結婚する必要はない。しかし、そうした「一生結婚しない」という割合は、増えているとはいえ2021年の出生動向基本調査においても、男20%、女17%である。こうした選択的非婚の希望は尊重されるべきだし、結婚や子育てに限らない社会との関わりや貢献の仕方もある

問題なのは、「結婚したいのにできない」という不本意未婚の方である。

過去記事において紹介した通り、29歳までの未婚男女において「結婚したい」という希望のある若者がそれを達成できた割合は半分に過ぎない。要するに、結婚したいと思う若者の50%が不本意未婚に陥っている(データは以下記事にて)。

参照→「29歳までに結婚したい」という若者の希望が半分しか叶えられない「不本意未婚」問題

中間層だけ結婚できなくなった

なぜ不本意未婚が増えているかといえば、いわずと知れた「若者を取り巻く環境変化」による。決して若者の価値観の変化の問題ではない。

環境変化とは大きく分けて「社会環境変化」「経済環境変化」のふたつがあるが、前者は主に地域や職場のコミュニティの崩壊に伴う、中間紐帯の希薄さである。わかりやすく言えば、お節介や世話焼き文化の終焉だ。

参照→日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

そして、後者の「経済環境変化」は、これも何度もデータを提示して説明している通り、少なくとも20-30年に渡って若者の可処分所得が全く増えていないことによる。

写真:イメージマート

この「お金がないから結婚できない」説を、徹底的に無視する界隈があるのだが、そういう論を展開する者に限って「多分、一度も経済的に困ったという経験がないのだなあ」と思わざるを得ない境遇の上級国民ばかりである。

ちなみに、世帯年収900万円以上の場合、これだけ婚姻減と言われている中でも、対2000年比で全く減少していない。世帯年収900万以上とは、30代世帯主の子のいる世帯に限れば、上位17%になる(2022年就業構造基本調査)。

一方で、中間層といわれる世帯年収400-600万円あたりが激減している。むしろ婚姻減のすべては中間層の婚姻減と完全に同期していると言っても過言ではない。

年収上位層は放っておいても、勝手に結婚し、子を産み育てていくだろう。

問題は、「結婚したいのに(金がないから)結婚できない」という中間層の不本意未婚であり、これをどうにかしないと、少子化はますます進むばかりだということである。なにせ、人口ボリュームが多いのがこの中間層だからだ。

「経済的不安を感じる」が7割

お金の問題が大きいのは、結果として低年収から中間層の未婚率が上昇しているという部分もさりながら、それ以前の問題として、お金の問題が若者の心の余裕を失わせ、将来の不安を増長させてしまうからである。お金と結婚の話でいえば、特に、男性側に顕著である。

内閣府の国民生活に関する世論調査で、20代男性が「将来の経済的不安を感じる」割合は、1996年の37%から2023年は72%にまで激増している。それと完全に呼応する形で、25-29歳の男性の初婚率(人口千対)は、1996年の63.5から、2023年は33.4にまで激減した。

経済的不安が増えれば増えるだけ初婚率が減っている強い負の相関がある。相関係数は、実に▲0.9045である。

裏返せば、こうした経済的不安を感じない3割の若者は、「金がないから結婚できない」などということを露も感じず、結婚していけるのだ。

3割とは、奇しくも大企業勤務の割合と合致する。大企業と小企業とで未婚率が大きく違うのもまさに「結婚はお金の問題」だからである。

東京23区の話でいえば、千代田区、港区、中央区では出生率が今でも上昇しているのに対し、中間層が多く、かつて子沢山だった足立区、葛飾区、江戸川区の出生率が激減しているのも同じだ。

参照→働く企業の規模の大小が「結婚できるかどうか」を大きく左右する「企業規模別未婚率」

透明化される7割

「お金がない(給料が低い)」→「自分の将来の経済的な不安が募る」→「不安を怖れてリスクのある行動はなるべくしない」→「行動しないから経験値もたまらないし、自分への自信も持てなくなる」という悪循環が成立し、結婚どころか恋愛すらしないままになるのである。

それを精神論で「自分でなんとかしろ」と言われてもどうにもならないだろう。

経済的な話だけではなく、常々言っている「恋愛強者3割の法則」通り、恋愛力のあるのも3割程度で、この層は何のお膳立てがなくても勝手に恋愛して結婚していく。

にもかかわらず、政府や自治体がやる婚活支援は、このお膳立て不要の3割に対するさらなるお膳立てばかり用意している。たとえば、マッチングアプリの活用などで「何かやった感」を出しているが、何の効果も得られないだろう。なぜなら、マッチングアプリとは恋愛力のある者が使ってこそ便利なツールに過ぎず、残りの7割にとっては、実際に会うことすらできず、たとえマッチングされて二人きりで会ったとしてもその先には進まない。

提供:イメージマート

参照→マッチングサービスなのに「会えた人数ゼロが3割」問題の背景にある残酷な現実

会えたのに先に進まない恋愛弱者を見て、恋愛強者は「会えたのにどうにもならないなんてあり得ない。なんかお前に問題があるんじゃないのか」とにべもないことだろう。

一事が万事、少子化対策は、経済力にしても、恋愛力にしても、上位3割くらいが恩恵にあずかれるメニューばかりが提示され、本当に助けが必要な残りの7割は透明人間化されてしまっている。

これが、婚姻減と出生減の根本的な要因なのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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