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「子どもなんてほしくない若者」が急増しているのは「声なき若者の絶望」の表れ

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

子どもを希望しない若者

「若者が子どもを希望しなくなった」という話をよく聞く。

確かに、出生動向基本調査における18-34歳の未婚者を対象とした結果の経年推移をみれば、1982年に「子どもはいらない」とする割合は、男2.3%、女3.8%だったものが、2021年には男11.1%、女13.1%と増えている。

出典 出生動向基本調査報告書より
出典 出生動向基本調査報告書より

しかし、この数字だけを見て、「それでもまだせいぜい1割程度じゃないか。なんだかんだ9割の若者は子どもをほしがっている」と甘く見てはいけない。この対象は、あくまで「結婚するつもり」という対象だけに限定したものだからである。

いうなれば、この数字は、「結婚はしたいが子供はほしくない」割合とみなさないといけない。

本当の「子ども希望しない」率

そもそも、「一生結婚しない」と考えている若者の割合も増えている。もちろん、結婚しなくても未婚のまま子を持つことも可能だが、現在の日本においてはごく少数である。基本的には、結婚をして子を産むというプロセスがほとんどを占める。

つまり、子どもを希望しない若者の割合がどれくらいいるかを把握するためには、「結婚はしたいが子供はいらない」数に加えて、「一生結婚しない」数も合算しないといけない。

出生動向基本調査の報告書でそれは掲載されていないので、原票データより独自に私が計算したものが以下のグラフとなる。要は「子どもがほしくない未婚の若者の割合」である。

ちなみに、計算上、回答が「不詳」となっているものは総数から覗いて計算している。

これによれば、1982年時点男女とも1割にも満たなかった「子どもはほしくない」率は、2021年には男女とも27%程度にまで上昇している。つまり、「子どもを希望しない」未婚者の割合とは決して1割などという低い数字ではなく、もはや3割に達しようとしているということになる。

注目したいのは、2005年まで男女とも同じような数字で推移していたが、先に男性の割合が急上昇し、それを追いかけるように2015年から2021年にかけて女性が急上昇して追いついていることである。この6年間の間に、34歳までの未婚女性は大きく「子を産む」ことから離れてしまったと言えるだろう。

はからずもこの27%という数字は、2020年時点における女性の生涯無子率と同じである。

この急激な上昇が2021年で頭打ちになるとは到底思えないわけで、この割合はもっと増えていくだろう。見方を変えれば、この未婚者の「子どもほしくない」割合の上昇カーブがそのまま今の婚姻減と出生減と完全に一致しているのである。

若者が子ども嫌いになったわけではない

政府の少子化対策がことごとく的外れなのは、対策のほぼすべてが「子育て支援」だけに向けられており、「出生減少の問題は婚姻数の減少である」点がまったく考慮されていないからである。

確かに、少子化対策大綱内には「若者の婚姻の増加」などと書いてはいるが、それに対応した対策は今まで何一つやられてはいない。

勘違いしないでほしいのは、未婚の若者たちが決して「子ども嫌い」になったのではない。価値観の変化があったわけでもない。逆に言えば、皆婚時代の親が全員「子ども好き」だったわけでもない。

現在の若者が子どもを希望しないのは、彼らが子どもを産み育てられるだけの自信も余裕も失ってしまったからだ。そして、その自信や余裕を奪った大きな原因は若者の経済環境にあることは否定できない。それどころか、自分が生きていくことに精一杯の若者も大勢いる。

少子化とはいえ、そんな環境にない経済的に恵まれた大都市圏で働く若者は、結婚して子どもを産み育てている。児童のいる世帯の絶対数は世帯収入900万円以上ではまったく減っていないのも事実である。

つまりは、人口ボリューム層である中間層の若者が「結婚も出産もできない」環境に置かれたがゆえの現在の少子化なのである。有体に言えば「若者の経済環境が悪すぎる」問題になるのである。

問題の本質まとめ

ここの課題を見て見ないフリをしているうちは、少子化対策など絶対に不可能である。にもかかわらず、なぜか徹底的にそこは透明化されているのだ。

今までもこの件について当連載で何度も取りあげてきたが、以下まとめとして過去記事のリンクもご紹介したい。お時間のある時に読んで頂ければ幸いである。

もちろん、子育て支援そのものは否定しない。それはそれとして大切な政策だが、それをどれだけ充実させても出生数が増えないということは今までの事実が証明している。子育て支援は少子化対策にはならないのである。

今でも結婚した夫婦が産む子どもの数は、1980年代とそう変わっていない。

出生数が減っているのは、子ども0人→1人となりえる婚姻数が減っているからに他ならない。よって、今の子育て世帯に「ブラス1人」を産んでもらっても到底解決する問題ではないのである。

日本より数段低い出生率の韓国でも同様で、子育て支援などの政府支出を近年大幅に増強しているもののまったく効果は見られない。

少子化対策でよく「見習え」と引き合いに出されるフランスであるが、日本とフランスとの出生率の差を見ると20代の出生率の差であることがわかる。それを婚外子の少ない日本に当てはめて考えれば「20代のうちに結婚できない問題」となるのである。

いつの間にか、日本より低くなってしまった中国の低出生率の原因もほぼ婚姻数の減少によるものである。そして、中国の婚姻数の減少もまた若者にのしかかっている経済問題でもある。

声なき若者の絶望

何も結婚することを推奨するつもりはない。結婚しなくても充実した毎日を過ごしている人もいるし、そうした人生の選択も尊重されるべきである。

選択的非婚者と不本意未婚者とは分けて考えるべきだと常に言っている通りである。

しかし、結婚しようがしまいが、子を持とうか持つまいが、各個人にとっての経済環境の問題は切り離せない問題である。

今はもう還暦世代以上の人達に思い起こしてもらいたいのは、彼らの時代にも不景気な時はあったし、若い時の給料は高いものではなかったはずだが、それでも中間層のほとんどが結婚できたのは、「なんとかなる」と将来に対して絶望する若者が少なかったからだろう。また、結婚をお膳立てしくれる周囲の(善意の)お節介という協力もたくさんあった。

今の若者はそうした周囲の協力もなく、逆に「人のせいにするな。一人でなんとかしろ」と自己責任化されて、助けてほしいと声を上げる元気すら失われてしまった。

若者が「子どもなんていらない」と思うようになってしまったのは、「自分のような子どもをこの世に出して苦しませたくない」と思っているのだとしたら、本当にそれは絶望の国家だろうと思う。

写真:イメージマート

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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