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純真さにゾッとするホラー映画3選【無邪気な恐ろしさに背筋が冷たくなる作品たち】

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー
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雨の日が多いわりに気温は下がらず、蒸し蒸しとした毎日が続いています。
こんなときはやっぱり、背筋も凍るホラー映画鑑賞ではないでしょうか?

とは言え、暑さで疲れた体には、あんまりド派手な作品だと刺激が強すぎる可能性も…。そこで今回は、静かめの作品を3作選んでみました。

M3GAN/ミーガン

2022年公開のアメリカ映画で、SFとホラーが融合した内容です。『パラノーマル・アクティビティ』などのホラー映画でも知られるジェイソン・ブラムと、「ソウ」シリーズでも知られるジェームズ・ワンによる製作です。

本作はミーガンというAI人形の暴走を描いた映画です。

主人公のジェマはある理由から姪のケイディを引き取って育てることになります。忙しいジェマは開発中の育児用玩具であるAI人形「ミーガン」をケイディに与え、しつけや育児の一部をミーガンに託します。ミーガンはケイディの友達であり母親でもあるような存在となり、ケイディに慕われ、ケイディのためならあらゆることをしようとします。そして、それが取り返しのつかない惨劇につながります。

命令を守るためなら手段を選ばないAI人形の恐怖

コンピュータは普通、言葉や操作のニュアンスをくみ取ってくれません。そのため、正しい操作方法でなければ動かすことができません。

ですが、最近のAIは言葉の意味だけでなく文脈やニュアンスをくみ取れるようになってきました。大変便利ですが、そんなAIが搭載されたロボットが、持ち主の命令を勝手に解釈して動き出したとしたら怖くありませんか?
しかも、命令のためなら、善悪も道徳も関係なく行動したなら…。

映画と似たような惨事が近い未来にあるかもしれない。そんな想像をしながら見ると、本作をより深く楽しむことができるはずです。

とにかくミーガンが不気味でゾッとする映画ですが、生々しさは控えめで、わりと爽快なエンディングを迎えるので、ミステリーやSFファンの方でも楽しめそうな作品でした。

人形はリアルになるほど不気味に感じる人が多く、本作のミーガンもかなり不気味でした
人形はリアルになるほど不気味に感じる人が多く、本作のミーガンもかなり不気味でした

キャリー

スティーヴン・キングの同名小説を原作としたアメリカ映画で、1976年にブライアン・デ・パルマ監督による映画が、2013年にはリメイク版が公開されました。

高校生のキャリーは家では虐待に近いような環境で育ち、学校ではいじめに遭っていました。キャリーには超能力があり物を触らずに動かすこともでき、それが暴走してしまうことも。そんな彼女を救おうとする人も現れますが、事態は最悪の方向へむかいます。

純粋だからこそ、その怒りは恐ろしい

誰でも、心の奥底にはちょっとした悪意があると思います。そのせいで誰かと喧嘩になったり、嫌いになったりなられたりすることもあります。

ですが、もし全く悪意を持たずに純粋な人がいたとするとどうでしょうか?
そんな人が周囲から嫌なことをされたら、どうして自分がそんな目に遭うのかすら分からないはずです。そして、もしも嫌なことをされ続けて我慢の限界に達してしまったなら。その怒りは誰にも止められなくなります。嫌なことをした相手への理解も、情状酌量も、共感もないわけですから。

見るなら1976年版? それともリメイク版?

普段はおとなしくても、暴走すれば止められない。そのギャップが怖さを引き立てる本作。1976年版と2013年のリメイク版でストーリー的にはほぼ同じですが、1976年版の方がより想像をかき立てられて印象的な作品だと思います。一方、2013年版は生々しさや感情表現が鮮明でストレートに怖さが伝わる作品になっています。
ホラー映画を気軽に楽しみたい方には2013年版が、直接的な生々しさが苦手な方や鑑賞後にもじわじわ引きずる余韻を噛みしめたい方には1976年版がおすすめです。

2013年版はキャリー役のクロエ・グレース・モレッツが華やか過ぎてちょっとキャリーと印象が違う気もするが、その分、演技が見やすく分かりやすい作品でした
2013年版はキャリー役のクロエ・グレース・モレッツが華やか過ぎてちょっとキャリーと印象が違う気もするが、その分、演技が見やすく分かりやすい作品でした

グッドナイト・マミー

2014年に公開されたオーストリアの映画です。2022年には、Amazonでナオミ・ワッツ主演のリメイク版が公開されました。

整形した母親は、顔が包帯で覆われ冷淡な雰囲気に変貌していました。子どもたちは母親が別人になってしまったのではないかといぶかしがり、母親を試しだします。

子どもの目に映る恐怖と、無垢な残酷性

子どものころはちょっとした物事に対して、怖い想像をしてしまうことがありますよね。
本作のように母親の顔が包帯でぐるぐる巻きになっていたら不安なはずですし、まして行動に違和感があれば、別人に入れ替わってしまったのではないかと怖くなっても不思議ではありません。

そんな子どもの目から見た恐怖の一方で、無垢な子どもにも怖さがあります。

偽物の母親を追い出して、本当の母親を取り返したい。そう考えている子どもたちには、偽物だとみなされた母親が何を言っても通じないことでしょう。そして、子どもたちは自分たちを騙そうとする偽物に容赦をしません。

すれ違った恐怖、純粋無垢な残酷さ、子どもの目に映る世界の歪さ。本作はそんな多面的な恐怖を味わえる映画でした。

本作を見たあとは、デンタルフロスを使うときに落ち着かない気分になるかもしれません
本作を見たあとは、デンタルフロスを使うときに落ち着かない気分になるかもしれません

今回は純真さが怖いホラー映画を紹介しました。

これらの作品の怖さは、どこでも起きそうな「ほんの些細なズレが大きくなっていき惨劇につながる」ことと、どこかで誤りに気づいてもすでに修正不可能で「居心地の悪いまま惨劇を待つしかない」ことでしょう。

強烈なシーンはあまりないのに、先を想像すると背筋のゾクゾクが止まらない。そんな映画を見れば蒸し暑さも吹き飛ぶかもしれませんよ。

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作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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