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【背筋がゾクゾク、美的で不気味なミステリ・ホラー映画】この時期に見たい蒸し暑さも忘れそうな作品3選

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

日本列島は南の方から梅雨入りし、蒸し蒸しする日が増えてきました。

ちょうど今くらいから、北欧やアラスカなどの地域では夜になっても太陽が沈み切らず空が明るい白夜の時期になります。

白夜は美しく神秘的ですが、一日中ずっと明るいことに少し不気味さを感じる人もいるのではないでしょうか?
そのせいか、この時期になると私は白夜に関連した少し不気味な映画が見たくなります。ということで、今回はそんな「白夜」にまつわる映画を3つ紹介します。

(※紹介する映画には年齢レーティングが設定されているものもあります。未成年の方がご覧になる際にはご注意ください)

美しくも、どこか落ち着かない気分にさせる白夜 ※記事画像はイメージです
美しくも、どこか落ち着かない気分にさせる白夜 ※記事画像はイメージです

白夜のアラスカ、不眠症に悩む刑事が追っている真実は…

インソムニア(2002)

2002年公開のアメリカ映画で、同名のノルウェー映画をクリストファー・ノーラン監督がリメイクした作品です。主な出演はアル・パチーノ、ロビン・ウィリアムズなど。なお、タイトルのインソムニアは不眠症という意味です。

ウィル・ドーマー刑事(演:アル・パチーノ)はある事件の捜査のためにアラスカにやってきます。そこは白夜の最中で、一日中ずっと明るい環境でした。アラスカに来てから、ドーマーは不眠症になり、ぼんやりとした状態に陥っていきます。
朦朧とするドーマーの脳裏にはポタポタと血が垂れるような不穏な映像が浮かび、それがよりドーマーを苦しめ苛立たせます。しかし、イライラするほどにドーマーの不眠症は悪化していきます。そして、事件は思わぬ展開をむかえます。

ゾクゾクする見どころ

重要な人物として登場するロビン・ウィリアムズの演技にはぜひとも注目してください。
ロビン・ウィリアムズは数々の功績のあるコメディ俳優で、映画『ジュマンジ』(1995)や『ナイト ミュージアム』シリーズなど多くの作品に出演していました。彼の個性的ながら温かな表情はどの作品でもとても魅力的でした。そんなロビン・ウィリアムズの演技は本作では別の形で光っています。
コミカルな役の多いロビン・ウィリアムズと、イカつくてシリアスな役の多いアル・パチーノとの対比も見どころです。

また、本作はクリストファー・ノーラン監督の作品なので、監督独特の手法による、観る人を幻惑するような構成や演出もたまりません。

ちなみに、映画を見ると「オヒョウ」という言葉が印象に残るかと思いますが、漢字では「大鮃」と書いて大きなヒラメのような魚です。調べてみたところ回転寿司のエンガワにも使われているらしいので、知らないうちに食べたことがある人も多いかもしれませんね。

オヒョウは大鮃とも書きますが、カレイの仲間だそうです。その大きさにはびっくりするはずなので、画像検索してみては?
オヒョウは大鮃とも書きますが、カレイの仲間だそうです。その大きさにはびっくりするはずなので、画像検索してみては?

白夜のスウェーデンで行われる奇祭

ミッドサマー

2019年公開の映画で、明るいホラーとも言われています。ホラー界の鬼才アリ・アスター監督の作品で、魅力は何といっても美しい映像とそれによって引き立てられる異様な不快感でしょう。

アメリカの大学生たちが留学生の友人に招かれて、彼の故郷スウェーデンのホルガ村で行われる夏至祭に行きます。夏至祭はのどかに始まりますが、だんだん不穏な空気が立ち込めていき、ついに死の儀式が行われだします。その儀式に怯えて逃げ出そうとする学生もいますが、夏至祭は淡々と続きます。

ゾクゾクする見どころ

まずはホラー作品には異色の「明るい光景」に注目してください。綺麗な景色、穏やかで牧歌的な光景。ですが、そのどれを見ても背筋がゾクゾクするはずです。冒頭部分のエピソードや、白夜の薄明かりなど、不吉なイメージが作品全体を覆っているためでしょう。そして、死の儀式が始まってからは、追い詰められていくような緊張感にも襲われます。

何が起こるか分からない。けれど、嫌な予感が濃くなっていく。本作はそんな恐怖感を味わい続けられるホラー作品です。ホラーが苦手な人にはとてもオススメできませんが、普通のホラーに飽きてしまった方には、ホラーの新たな境地が体験できるかもしれません。

本作は以前にも記事にしているので、興味のある方は合わせてご覧ください。
批評家は大絶賛も、観客の評価は分かれる‟明るい”ホラー

明るいからこそ不気味さが引き立ちます
明るいからこそ不気味さが引き立ちます

彼らの人生はいつ壊れてしまったのか?

白夜行(白夜行 -白い闇の中を歩く-)

原作は東野圭吾氏の小説『白夜行』。舞台化、テレビドラマ化されたのち、2009年には韓国で、2011年には日本で映画化されています。今回は韓国で作られた映画を紹介します。この映画には『白夜行 -白い闇の中を歩く-』とサブタイトルがつき、大胆な解釈をもとに再構成され、より悲劇性が伝わる形で物語が描かれています。

14年前、刑事のハン・ドンス(演:ハン・ソッキュ)は殺人と思しき事件と、その犯人と目された女性の不可解な自殺に疑問を持ちます。上司に止められても無視して独自の調査をする彼は、取り返しのつかない過ちを犯します。

そして、事件から14年後、まもなく15年時効(原作が書かれた当時のもので、現在の韓国や日本の時効とは異なります)が成立しようとしていました。自殺した女性の娘はユ・ミホ(演:ソン・イェジン)と名前を変えて生きていました。そのころになって、ドンスは14年前の事件の真相に気づき始めます。

ゾクゾクする見どころ

原作を大胆な解釈で読み解き、映画としてまとめ上げた本作。
人物たちは原作よりも人間的に描かれており、それが悲劇を際立たせ、ミステリとしてもスリリングかつ理解しやすくなっています。

回想と現在のシーンが代わる代わる描かれ、交錯する悲劇の全貌が少しずつ明らかになっていくのはゾクリとすると同時に、不思議な快感があります。
見終わった後に思い返すと、主人公たちがかけ違えたボタンを直せるチャンスは幾度かあったように感じますが、それに気づけなかったのが最大の悲劇かもしれません。

本作は白夜そのものを描いた作品ではなく、太陽のささない暗闇の中を一筋の光だけを支えに生きてきた登場人物たちの心を「白夜」にたとえています。

ラストシーンに救いが全く無いと評価する人もいますが、「太陽が輝くと影が消える」という言葉を「影が消えてしまうほどに太陽が燦々と輝いている」のだと解釈すると、残酷な救済でもあるように感じられました。

余談ですが、なぜか本作を見ると、映画『シークレット ウインドウ』や、映画『冷たい熱帯魚』も見たくなります。もし本作をご覧になった方は、合わせてご覧になってみてはどうでしょう?

船の中で起きていたことが全ての始まり
船の中で起きていたことが全ての始まり

今回は「白夜」にまつわる映画を3作品紹介しました。

真夏になると背筋が寒くなるように恐ろしい怪談やホラーが流行りますが、今回の3作品は蒸し蒸しする今の時期にぴったりな若干おとなしめの映画たちです。これから少し過ごしにくい日々が続くかと思いますが、そんな時こそ、湿っぽさも忘れるゾクゾク感を楽しまれてはいかがでしょうか?

他にも記事やXでは、映画やアニメなどのエンタメ作品を紹介しています。
今回のようなミステリアスなものだけでなく、明るく楽しいものもあるので興味のある方はチェックしてみてください(なお、下記は昨年の梅雨時のポストです)。

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

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