攻めの解散ではなく追い詰められた解散になると思わせる補選結果
フーテン老人世直し録(435)
卯月某日
平成最後の国政選挙となった大阪12区と沖縄3区の衆議院補欠選挙で公明党推薦の自民党候補がいずれも敗北した。まもなく行われる令和最初の国政選挙にこれがどう影響するかを考えてみる。
大阪も沖縄も前回投票をそのまま引き継ぐ結果になった。大阪では大阪都構想を巡り、4月7日に行われた知事と市長のダブル選挙で、維新が公明推薦の自民党候補を大差で破り、沖縄でも辺野古新基地建設の是非を問う2月24日の県民投票で、反対票が7割を超えて圧勝した。
その流れが止まらない。なぜ止まらないかと言えば、中央政府が大阪と沖縄の民意を無視し、高圧的な態度を取り続けているからである。上から目線に対する反発が住民の怒りを持続させている。
大阪人にはもともと反中央の感情が強い。かつては東京が政治の中心で、大阪は経済の中心としての誇りを持っていたが、日本が高度経済成長を達成した70年代から、大阪を本拠地にした金融機関や企業が相次いで本店や本社を東京に移し、大阪は抜け殻のようになった。
大阪の芸人だって売れるとすぐ東京に活動の場を移す。維新の「大阪都構想」はそのコンプレックスを利用し、それに「二重行政批判」の衣をまとわせたとフーテンは見ている。そもそも「二重行政」は、地方がやるべき仕事に霞が関が口を出し、地方に権限を委ねないことを指すが、維新は国と地方ではなく、大阪府と大阪市の間に二重行政があると主張し、大阪府を大阪都にすることで解決できると訴えた。
フーテンは大阪府を大阪都にしただけで問題が解決するとは思わないが、しかしこれが反中央の大阪人の心をとらえた。従って大阪人でない政治家が「都構想」を批判すると、それだけで大阪人は反発する。4月7日のダブル選挙で、自民党の二階幹事長が中央から3度も大阪入りし、都構想反対の自民党候補を応援したのを見て、フーテンは逆効果になると思った。
この話には自民党の権力闘争が絡む。安倍総理は自民党より心情的に維新に近い。維新の協力がなければ憲法改正はできないと思っている。一方で自民党は公明党の選挙協力がなければ選挙に勝てない。その公明党は憲法改正に慎重だ。公明党にパイプを持つのは二階幹事長と菅官房長官だが、菅氏は維新にもパイプがある。維新の勝利は二階幹事長、自民党大阪府連、公明党を傷つけ、力関係で安倍総理と菅官房長官を有利にした。
今回の大阪12区補欠選挙は亡くなった自民党議員の弔い合戦である。補欠選挙で弔い合戦となれば自民党が勝つのが当たり前だ。そして沖縄3区は選挙前から自民党不利が伝えられ、「2戦0勝2敗」を避けるにはどうしても勝たなければならない選挙区だった。
そのため最終盤で安倍総理と麻生副総理がともに応援に入り、安倍総理は吉本新喜劇に飛び入り出演するという「チンドン屋」まがいのことまでやった。しかしそれでも維新に負けた。今回は安倍総理も無傷ではいられない。最終日まで応援に入らなかったことやチンドン屋まがいのことをやったことに批判の声が出ることは避けられない。
沖縄3区は県民投票で辺野古新基地建設反対が圧勝したのに、それを無視して埋め立て工事は着々と進行する。県民の怒りが反対派の候補を勝利させるのは当然である。従って安倍総理も応援に入らなかった。応援に入れば県民無視の姿をさらけ出すことになり、自分にとって不利になるからだ。
安倍政権の対応を見ると、沖縄県民の声は無視し続けるしかないと判断したことがよく分かる。ポーズで話し合いには応ずるが、聞く耳は持たず、力で既成事実を積み上げる道を選択したのである。それを変えるには沖縄の選挙でなく、全国レベルの次の選挙で安倍政権を交代させるしかない。補欠選挙はそのことを示している。
この選挙結果を受け、衆議院の解散の可能性がさらに強まったとフーテンは思う。そもそも年頭からフーテンは安倍総理が参議院選挙だけをやるとは考えていなかった。総理を選ぶことにならない参議院選挙では、国民に「政権にお灸をすえる」という選択肢が生まれる。政権交代させて野党に政権を託す気はないが、長期政権のたるみにお灸をすえる選択なら参議院選挙でできる。
しかしそれで与党が参議院の過半数を失えば、政権与党は「死に体」に陥る。政権交代前夜の状況が訪れ、与党内で総理の首のすげ替えを望む空気が醸成される。そして参議院選挙だけなら野党の選挙協力もある程度は進展する可能性がある。
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