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日本の検察とメディアは世界に恥をさらすことにならないか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(436)

卯月某日

 ゴーン前日産会長が再保釈された。前回の保釈条件に加え、キャロル夫人との接触が禁止されたことが目を引く。家族との接触が禁止されるのは極めて異例だからだ。ただ検察がゴーン被告は日産の資金をキャロル夫人の会社に流したとみているため、裁判所もやむを得ないと考えたのかもしれない。

 フーテンはむしろ裁判所が、妻との接触を禁止するという異例の条件を付けてでも、検察の主張するゴーン被告の拘留を認めなかったことが重要だと考える。そこで思うのはなぜ検察はこれほど拘留を長引かせたいのかである。長引かせればゴーン被告を有罪にする証拠が固められるからか。それともそれ以外に何か理由があるのか。

 この事件はこれまでもブログに書いてきたように実に不思議な事件である。フーテンはロッキード事件を捜査する東京地検特捜部を取材した経験があるが、フーテンの知る特捜部は極めて慎重に捜査を進めるところだった。

 逮捕の日取りを決めるのも大きく扱われるよう他にニュースがない日を選び、メディアを利用して世論が特捜部の味方になるよう細心の工作を行う。捜査に入る前からメディアに容疑者がいかに悪い人間であるかを報道させ、世論がその方向に固まったのを見極めてから特捜部は動き出す。そのため特捜部は初めから正義の味方である。

 家宅捜索に向かう捜査員の姿をテレビカメラに撮影させ、如何にも悪の巣窟に乗り込む正義の印象を国民に与え、押収品を入れた段ボール箱を車に運び込む。いかにも多くの証拠を押収したように見せるが、関係者によれば空の段ボール箱を運んでいる時もあるらしい。あれは見せかけだというのである。

 そして密室で取り調べが始まると、検察の言いなりになるメディアを選んで情報をリークする。それがニュースになると国民は容疑者がクロだと思う方向に傾く。こうして裁判が始まる前に国民世論は有罪を確信している。国民が有罪だと思う事件を裁判所が無罪にするのは難しい。そして特捜部の事件は9割以上が有罪になる。

 しかし表向きは有罪だが、実質は無罪という判決が出されるケースもある。リクルート事件の江副浩正被告や、佐藤栄佐久元福島県知事が受けた判決がそれである。有罪だが判決文を読めば無罪に読める。しかし無罪を勝ち取ろうと争えば何十年かかるか分からない。そこで争うことを断念する。

 ノーパンしゃぶしゃぶで有名な大蔵省の接待疑惑で逮捕された若手官僚は、検察が取り調べで自白させた贈賄側の数が多く、無罪を主張すればそのすべての主張を覆すのに膨大な時間がかかることが分かり、無罪を諦めて大蔵省を辞め別の人生を歩むことにした。

 そうした特捜部のやり方を見てきたフーテンは、ゴーン被告の最初の逮捕容疑が報酬を過小に見せる有価証券報告書の虚偽記載であることに驚いた。有価証券報告書を作成したのは日産という会社でありゴーン被告ではない。従ってそれは入り口で本命の容疑は別にあると思った。

 しかも特捜部は虚偽記載の時期を2つに区切り、同じ容疑で再逮捕し、拘留期間を長期化させようとした。それをみると本命の容疑で立件できるだけの材料を持っていないからだと思わせた。拘留を長引かせてゴーン被告を精神的に不安定にし、自供に追い込もうとしているのだ。

 証拠が薄い時に特捜部が使う手である。拘束された人間は精神的に追い詰められると、嘘でも検察の言いなりになれば保釈されると考え、真実はその後の裁判で述べれば無罪になると思う。ところが裁判で自供を翻すと裁判は長期化する。被告が耐えられなくなるほど長期化する。そして判決文に事実上は無罪と読める部分があれば有罪を受け入れてしまう。

 虚偽記載容疑での2度目の逮捕で裁判所はゴーン被告の拘留延長を認めなかった。それに特捜部は衝撃を受けたと報じられた。衝撃を受けたのが本当なら追い詰められたのは特捜部である。裁判所は虚偽記載で有罪の可能性は薄いとみているのだ。すると特捜部はサウジ・アラビアルートの特別背任罪でゴーン被告を再逮捕した。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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