部活動の強制加入はなぜ続いているのか?7つの理由
先日、筆者が代表理事を務める日本若者協議会がスポーツ庁に「部活動の強制加入の完全撤廃」を求める要望書を提出したことが多くのメディアに取り上げられ、大きな話題となった。
「部活動強制加入」撤廃に関する要望書をスポーツ庁に提出しました(日本若者協議会)
学習指導要領では、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」とされており、制度上は「参加は任意である」となっている。
また2018年3月にスポーツ庁、12月に文化庁がそれぞれ運動部・文化部の「活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定し、部活動への参加を強制しないよう、留意しなければならないことを、本文、Q&Aで明記している。
にもかかわらず、いまだに部活強制加入が続いている。
岩手県内の中学校では、2020年度、任意加入は150校中60校で、6割の学校が「強制加入」となっている。
三重県では、県の部活動ガイドラインでは、生徒の部活動への加入は「自主的、自発的参加である」と明記しているにもかかわらず、県内の県立高校13校の一部もしくは全生徒に対し、事実上、部活動の入部を強制していたことが明らかになっている(2022年3月11日、三重県教育委員会の定例会にて)。
なぜ部活動強制加入は続いているのか?
日本若者協議会では、要望書提出に先立って、有識者や現役教諭に参加してもらい、イベントを開催。背景や実態などについて議論を行った。
登壇者(敬称略):
・内田良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科 准教授)
・長沼豊(学習院大学文学部教育学科 教授)
・斉藤ひでみ(高校教諭)
・高校生(当日欠席)
モデレーター:日本若者協議会 代表理事 室橋祐貴
また、教員へのアンケートサイトである「フキダシ」で、部活動の必須加入に関するアンケートも行ってもらったため、そちらの内容も参考にしながら、背景を整理していきたい。
部活動強制加入が続いている背景は?
結論から言えば、上記イベントで、長沼豊 学習院大学文学部教育学科教授が指摘するように、大きく7つ考えられる。
1.歴史的背景
2.教育的意義があるから
3.部費を生徒会費として全員分徴収しているから
4.中体連等への加盟費を全校生徒の人数分、支払っているから
5.内申(&入試)に影響するから
6.同調圧力
7.生徒を学校に囲う論理
1.歴史的背景
今では、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」とされる部活動だが、20年ほど前まではクラブ活動が全員必修であった。
平成元年(1989年)の学習指導要領改訂までは、特別活動として週1回行う「クラブ活動」が必修で位置付けられており、同年の改訂で、中学・高校ともに、教育課程外活動の部活動をもって代替できることになった(「部活動代替措置」)。
結果的に、全員が部活動に参加する流れになっていったが、その後、中学校では平成10年(1998年)、高校では平成11年(1999年)改訂の学習指導要領で必修のクラブ活動は廃止され、部活動は、任意参加の、課外活動の一環として行われるようになった。
しかし、これまで全員参加になっていたため、そのまま依然として残っている。
また、1980年代頃までは、今より学校が荒れていたため、放課後自由にさせない、部活を通して指導する、という成功体験を、まさに今の校長世代が経験していることも大きい。
さらに、名古屋大学・内田良准教授らの調査によると、部活動が教育課程外であると正しく認識できている現役教員は56%程度しかいないという結果になっており、そもそもあくまで「任意参加」のものであると認識されていない。
2.教育的意義があるから
前述の生徒の「荒れ」への対応策としての側面もあるが、部活動によって規律や自己肯定感を高めるなどの教育的意義が挙げられる。
筆者も学生時代はずっと(好きで)サッカー部に所属しており、その意義は否定しない。
ただ、部活動を通してしか、そういった規律や努力の方法などを学べないかというと、全くそんなことはない。
全然やる気もない部活動を強制的にやらされても、むしろ嫌いになる可能性の方が高いのではないだろうか。
また同じ学校内だけの部活だと、非常に狭い、閉じた関係性になるが、学校外のコミュニティに参加することができれば、その分様々な人と知り合うこともでき、種類が限られた部活動よりも、趣味の範囲が広がる可能性も高い。
よく「生徒数の減少で部活動の数を維持できなくなっているから」という声も聞くが、そもそも同じ学校内で様々な部活動をやってきたこと自体、異常だったのではないだろうか。
生徒の部活動強制加入や、教師の全員顧問就任、無報酬によるタダ働き、そうした「犠牲」の上に成り立っていただけである。
そして子どもの減少や、教員の多忙化によってこれまで以上に無理が生じており、見直すべき時期に来ている。
3.部費を生徒会費として全員分徴収しているから
意外と知られていないのが、部活動に関するお金のやり取りだ。
部活動をやる場合には、もちろんその部活に関連した費用はかかるが、「学校諸費」として、生徒全員から徴収されている。
その名目は必ずしも「部活動」に限定されず(部活動後援会費)、生徒会費として徴収されたお金が部活動に回っている場合もある。
学校側からすれば、全員からお金を徴収しているため、全員に部活動に入ってもらわないと困る、という理屈である。
4.中体連等への加盟費を全校生徒の人数分、支払っているから
こちらも関連してであるが、中体連等大会を運営している組織にお金を払っているために、全員部活動に参加すべきであるとなりやすい。
逆にいうと、中体連としては、大会等の維持運営のために、全員からお金を徴収しなければ成り立たない、という論理もある。
5.内申(&入試)に影響するから
部活に入るべきという圧力は、必ずしも学校(教員)からだけではない。
高校入試に影響するため、保護者が入るのを勧めるというのもある。
6.同調圧力
学校入学の最初の1学期だけ加入という学校も珍しくない。
その後は、任意で辞めて良いというものである。
しかし実際は、中学生が学校の先生に「辞めたい」というのはハードルが高く、学校によっては、顧問だけでなく、3人の教員のサインが必要としているケースもある。
これでは暗に「やめるな」と言っているようなものである。
ある国立の中学校では、こうした事態を防ぐために、毎年入部届を出す仕組みにしており、辞めるハードルを下げる工夫をおこなっている。
7.生徒を学校に囲う論理
これまで述べてきた内容と大きく関連するが、放課後まで生徒を管理したい、管理してもらいたい、という双方のニーズが、学校、保護者、地域住民に根強く残っている。
その根底にあるのは、放課後自由にしたら、何をするかわからない、という生徒への信頼の無さ(過度な子ども扱い)や、生徒が放課後に何か問題を起こしたら学校の責任にする保護者や地域住民の意識、社会全体の問題である。
足りない「子ども」の視点
そして全体的に共通しているのは、「子ども」の視点や声があまりに少ない点である。
教員や保護者などは「良かれ」と思って、部活動にみんなが入るようにしているが、必ずしも全ての生徒がそれを望んでいるわけではない。
生徒を自由にしたら荒れる、という考えもあまりに現実と乖離しており、ナンセンスだ。
新学習指導要領では、「主体的で対話的な深い学び」が大きな柱となっているが、部活動の強制加入はその真逆である。
子どもを信頼し、選択を委ねていく。同じ活動をするにしても、自分のことは自分で決める、という「自己決定」の有無によってその効果は大きく異なる。
「部活動強制加入」の問題にしても、「ブラック校則」の議論にしても、日本社会に共通している大きな課題は、子どもの声が尊重されていない点である。
その意味で、今国会で「こども基本法」が成立されようとしているのは画期的だが、子ども一人一人の意思を尊重していく、学校のことは児童生徒も含めてみんなで決めていく、「学校内民主主義」が実現することによって解消されるテーマは数多くあるのではないだろうか。
関連記事:なぜ今「こども基本法」「子どもコミッショナー」が必要なのか?(室橋祐貴)
日本若者協議会では、当事者の声を集めるため、「部活動強制加入」に関して、学生向けにアンケートを実施しており、中学生〜大学生の学生は回答してもらえると幸いである。
部活動強制加入に関する学生向けアンケート実施のお知らせ