なぜ今「こども基本法」「子どもコミッショナー」が必要なのか?
1994年に国連「子どもの権利条約」を批准して以降、子どもの権利を包括的に保障する法律の必要性が謳われてきたが、いよいよ成立の兆しが見えつつある。
2021年10月に行われた衆議院議員選挙では、主要政党が公約に「こども基本法」を掲げ、今国会での成立を目指し、昨年末から与党内で議論が進められている。
子ども政策、基本法制定へ 自民と公明、協議開始で合意(2021.12.21、共同通信)
各党公約
○自民党
・社会全体で子供の誕生・成長を支えるとともに、虐待や貧困などに対応する持続可能で誰一人取り残すことがない育成環境を整備するため、政府における体制を整え、「こどもまんなか基本法(仮称)」を制定し、「こどもまんなか支援事業(仮称)」を推進します。
○公明党
・「子ども家庭庁」(仮称)の創設や「子ども基本法」(仮称)の制定で、子どもを権利の主体として位置づけ、子どもの幸せを最優先する社会をめざすとともに、子どもの声を代弁し、子ども政策に関して独立した立場で調査、勧告等を行う機関「子どもコミッショナー」(仮称)を設置します。あわせて、地方自治体における子どもに関連する人や子ども自身からのものを含む苦情申し立てに対応して、必要な救済を行うオンブズマン制度を推進します。
○立憲民主党
・「子ども総合基本法」の成立
子どもの権利の保障を基本理念とし、子ども・子育て予算の倍増や具体的な子どものための政策を盛り込み、かつそれらを包括的・総合的に推進するための新たな行政組織創設の検討等を規定する「子ども総合基本法」の成立を目指します。
また、2022年1月20日には、衆議院本会議において、公明党の石井啓一幹事長が「こども基本法」、「子どもコミッショナー」を求める質問を行った。
子育て、教育支援について伺います。
公明党は、子どもの幸せや子育ての安心が確保される社会こそ、国民すべてに優しい社会であるとの考え方に立ち、子育てを社会の中心軸に位置づけ、社会全体で支援をするチャイルドファースト社会の構築を目指して、取り組んでまいりました。
2006年には、党として少子社会トータルプランを策定し、妊娠出産への支援や教育費の負担軽減、働き方改革など、同プランに基づく政策を着実に具体化してまいりました。
近年では、2019年10月から幼児教育、保育の無償化がスタートいたしました。
その翌年、2020年に、党として、幼児教育、保育の無償化に関する実態調査を実施したところ、今後取り組んでほしい政策として、保育の質の向上との回答が過半数にのぼりました。
政府は今国会に、こども家庭庁関連法案を提出する予定ですが、幼稚園や保育所など施設類型を問わず、質の高い教育、保育を受けることができるよう、取り組みを強化すべきであります。
その一方、日本は1994年に「子どもの権利条約」を批准いたしましたが、総合的に子どもの権利を保障する法律がありません。
そのため、こども家庭庁の設置とともに、すべての子ども政策の基盤として、子どもの権利を保障するこども基本法を制定すべきであります。
あわせて、子ども政策に関して、独立した立場で、調査、勧告等を行う機関として、こどもコミッショナーを設置し、実効性を担保することも重要であります。
幼児教育、保育の質の向上や、こども家庭庁関連法案に加えて、こども基本法を制定する必要性について、総理の見解を伺います。
引用元:衆議院インターネット審議中継
子どもをめぐる環境が深刻化
なぜ今、「こども基本法」、「子どもコミッショナー」が必要なのか?
その最大の理由が、近年、子どもをめぐる環境が深刻化しているからだ。
2020年度、自殺した児童や生徒は初めて400人を超え、小中学生の不登校は19万人以上、いずれも過去最多となっている。
さらに、児童虐待の相談対応件数も20万件超と過去最多となり、国立成育医療センターの調査では38%の子どもが「学校に行きたくないことがある」と回答している。
一方、問題が起きた時に、「子どもの権利」の視点に立たず、大人の視点が優先されることも多くある。
たとえば、児童虐待の場面では、千葉県野田市の事件で教育関係者が子どもの書いたアンケートを父親に見せてしまったように、児童相談所や学校の先生が親の権利や意向を優先してしまい、子どもの生命を危険にさらし、子ども自身が守られていないシーンが多く見られる。
また、理不尽な校則、いわゆる「ブラック校則」を変えようと、児童生徒が声を上げても、十分に尊重されず、その後声を上げることを諦めてしまう子どもも大勢いるのが現状だ。
関連記事:なぜ「校則の改正プロセス明文化」が重要なのか?高校生らが提言書を文科省に提出(室橋祐貴)
こうした問題の根底には、子どもの権利すべてを保障するための法律が存在せず、子どもの権利が軽視されがちな社会があると考えられる。
今国会で「こども基本法」「子どもコミッショナー」の成立を
こうした背景を踏まえ、筆者を含む、5名の有識者らが「呼びかけ人」となり、署名を立ち上げている。
<呼びかけ人>
駒崎弘樹/政策起業家・内閣府子ども子育て会議委員
末冨芳/日本大学文理学部 教授
武田緑/School Voice Project呼びかけ人
苫野一徳/熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授
室橋祐貴/日本若者協議会 代表理事
※五十音順・敬称略
<求めること>
1.こども基本法の成立
子どもをめぐる環境が深刻化している今こそ、子どもの権利をどんな場面でも大切にすることを法的に保障するための、「こども基本法」の成立を求めます。
子どもは発達途上にあるからこそ、子どもの最善の利益を最優先に考え、子どもの権利条約の一般原則をはじめとした子どもの諸権利を社会全体で遵守する必要性を明記する必要があります。
「子どもの権利条約 一般原則」
・生命、生存及び発達に対する権利(命を守られ成長できること)
・子どもの最善の利益(子どもにとって最もよいこと)
・子どもの意見の尊重(意見を表明し参加できること)
・差別の禁止(差別のないこと)
子どもの権利を明確に定めた法律が存在することで、子どもの権利を主張する際、たとえばブラック校則に対する訴えをする際、子どものわがままや大人への反抗ではなく、子ども自身の意見、権利や尊厳を尊重するための正当な意見表明であり、社会をより良くしていくための必要なプロセスであることについて、大人・子ども双方が共通の理解を深めることができます。
ほかにも、「遊ぶ」ことは子どもの成長に不可欠であり、子どもの権利として認められていますが、日本では勉強や習い事で遊ぶ時間がなかったり、近所に十分な遊び場がなかったりする子どもがたくさんいます。
特に、公園をなくす際などに、子どもの意見が求められることは稀ですが、子どもと一緒に考えることは、子ども主体の社会につながるだけでなく、より良い公園の使い方を考えるなど社会参加の意欲向上にもつながります。(参考例:NHK「僕らがちんじょうしたわけ」)
2.こども基本法・子どもの権利条約の周知と実現
子どもの権利を守るためには、まず権利を知る必要がありますが、セーブ・ザ・チルドレンの調査[4]によると「子どもの権利条約」について聞いたことがないという大人が42.9%と半数近くもいます。さらに、「内容までよく知っている」と答えた大人はわずか2.2%です。
学校の先生など、子どもに関わる専門職でも子どもの権利を認識していない現状があります。
子どもの権利条約第42条(条約広報義務)では「締約国は、この条約の原則および規定を、適当かつ積極的な手段により、大人のみならず子どもに対しても同様に、広く知らせることを約束する」とありますが、現状は十分に周知されていません。
大人だけでなく、子どもも自分の権利を知ることで、いじめやともだちのことなどで、相談しやすくなり、子ども一人ひとりが、自分らしく生きやすくなります。
社会として子どもの権利への理解を深め、あらゆる場面で、子どもの権利が守られるように、こども基本法・子どもの権利条約の周知と実現を求めます。
3.こども基本法に基づいた各施策の見直し、こどもの意見表明と施策への反映
あらゆる場面で子どもの権利を保障するために、国や地方の行政機関では、子どもの問題の解決や政策立案において、さまざまな年齢や環境下の子どもの意見を聴き、子どもの視点に立った政策推進が求められます。
現状、2016年改正児童福祉法の中で「子どもの権利」が明記され、子どもが権利の主体であるということが明確にうたわれていますが、他の分野ではまだまだ子どもの権利が位置づけられていません。
そのため、こども基本法に基づき、子どもの最善の利益を最優先に考え、省庁横断的に、子どもに関するあらゆる施策を見直していくことを求めます。
その際、こどもが社会の一員として意見を表明することができ、かつ、その意見が施策に適切に反映されるよう、各行政機関において環境整備を求めます。
4.こどもコミッショナーの設置
日本には、子どもの権利保障に特化した国レベルの独立した子どもの権利擁護機関、子どもコミッショナーは存在しません。
子どもは自らがその権利侵害を訴えることが難しく、弱い立場にあるため、子どもがアクセスしやすい、子どもの意見を代弁する機関が必要です。
特に、SNSなどのネットが子どもにも普及したことなどによっていじめがより陰湿になっていたり、地域のつながりが薄くなっているため、虐待などに気付きにくくなってきています。
そのため、行政から独立した立場で、子どもの権利や利益が守られているか、高い専門性と子どもの権利の理解を持つコミッショナーが見守り、子どもの代弁者として、子どもの権利の保護・促進のために必要な法制度の改善の提案や勧告をする仕組みが必要です。
その際、高い独立性を保つために、いわゆる三条委員会(府省から独立した権限を持つ合議体、公安審査委員会や運輸安全委員会、原子力規制委員会など)のようにすべきです。
子どもコミッショナーができることで、たとえば、ブラック校則に関する子どもの相談に対し、国のコミッショナーが日本中の校則の調査をして、どのぐらい権利侵害があるか明らかにし、それに対応する制度や施策を勧告することができます。
<参考>
子ども基本法WEBサイト(日本財団)
https://kodomokihonhou.jp/
[4]公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン アンケート調査結果『子どもの権利条約 採択30年 日本批准25年 3万人アンケートから見る 子どもの権利に関する意識』
https://www.savechildren.or.jp/scjcms/press.php?d=3089
現状:
将来: