寒い時期・就寝中の津波に備えるには
3月16日夜半前の福島県沖地震で被災された方々にお見舞いを申し上げます。今回の地震では、緊急地震速報に続き津波注意報も発令されましたが、場所によってはすぐに「到達と見られる」とのアナウンスも。寒い時期・就寝中の津波に対して何を準備しておけばよいでしょうか。
2階以上での就寝
津波でも洪水でもそうなのですが、家屋の2階以上での就寝は水災害から生き抜くために有利になる可能性が大です。その理由は次の通りです。
1.水に浸かるまでの時間が稼げる
2.避難準備の動線が短くて済む
筆者記事「妻として母として大津波に流された3.11 失敗し、そして生き抜いた日」を参考にご覧いただければと思います。ここには、東日本大震災で家屋ごと巨大津波に流されて生還した夫婦の記録があります。海のプロでもここまでしかできない、でもこれをしっかり守ったという、絶体絶命の状況下から生還するために参考になる情報があります。
寒い時期の津波では海水温に特に留意しなければなりません。お住まいの地域の海水温が今どれくらいなのか知るためには次の情報が便利です。
例えば3月19日現在の宮城県沿岸の太平洋の海水温はおよそ7度です。この水温は大変危険で、これに浸かると1時間の生存も困難です。呼吸ができたとしてもです。生存のために必要なおおよその水温は17度以上。できれば20度以上の水温ははほしい所です。今の時期にそのくらいの水温を保っているのは沖縄近海くらいなものでしょうか。
いずれにしても冷水であれば、水に浸かる時間はできるだけ短くしなければなりません。
就寝中の災害を仮定すれば、停電し暗闇の中の避難になる可能性があります。地震の揺れで様々な家具が倒れていたりします。さらに、屋内浸水が始まれば多くの家具が水に浮き、避難路がふさがれることもあります。そういった困難からできるだけ逃れるのであれば、やはり起床から避難準備完了までの動線を短くすることが必要です。
避難の準備が完了したら、階下に降りて直ちに高台に向かうことになります。しかしながら、すでに津波がやってきていて自宅周辺の冠水が始まっているようなら、2階以上への垂直避難に切り替えます。
2階以上に何を準備しておくべきか
厚手の防寒着・帽子・手袋
古くなって着なくなった防寒着で構いません。図1のcに示すように内部にたくさんの空気が含まれている防水タイプは最も好ましい防寒着です。重ね着ができるほど十分な数が準備してあるとさらによいです。
帽子は毛糸のように空気をいっぱい含んだ厚手のもの、手袋は防水の厚手のものが好ましいです。
救命胴衣か緊急浮き具
救命胴衣か図1に示すような緊急浮き具を壁などにかけておきます。
救命胴衣は防寒着を着た状態できちんと着装できるようにサイズを選びます。そして予め体に着装して固着用のベルトの長さの調整をしておきます。
緊急浮き具(リュックサック等)の中には乾いた着替え用の衣服やタオルをポリ袋に入れてしっかりと密封しておきます。
密封毛布
2階が浸水した後に水が引いたとしても体が濡れた状態です。緊急浮き具があればその中に乾いた衣服やタオルが入っていて、それに着替えることができます。ただ、深夜の気温では季節によっては十分に保温の効果が得られません。
図2に示すように、密封された災害用の毛布あるいは真空パックした毛布を押し入れなどに入れておきます。これらは2階までの浸水で押し入れの布団や衣服がすべて濡れてしまったとしても濡れることなく、身体を保温して一晩を過ごす時に役に立ちます。
自治体が管理する避難所には、当然のことながら密封毛布が準備されていなければなりません。
携帯電話
最近のスマートホンは防水機能がしっかりしていて、少々の水に濡れても利用することができます。緊急通報をするのに肌身離さず持ち歩くことになります。
津波で家屋はどうなるか、どうするか
近年の家屋は気密性が発達しているため、窓やドアが閉まっていると津波で家屋全体が水に浮くことになります。家屋が浮くと津波の流れに乗って流されることになります。水深が十分にあれば、少々のことでは壊れないのですが、水深が浅くなると家屋の下方が地面につっかえて、激しい流れをもろに受けることになり、壊れていきます。
図3は、東日本大震災で浮きながら流された家屋の写真です。家屋の形は比較的残っていたため、ここまで浮いて流されて津波が引くとともにここに残されたと推測できます。
最悪は、就寝中の津波で避難しようとした時にはすでに周辺が冠水している状況です。垂直避難したとしても2階までもが完全浸水する可能性が大です。
家屋が流されなくても流され始めてもできるだけ短時間に避難準備完了とします。少なくとも防寒着と救命胴衣の装着を完璧にしておきます。
水深が上がってきて2階の床上以上の浸水が始まったら、ベランダなどの屋外に出ます。そして、救命胴衣か緊急浮き具を身に着けた状態で浮いて呼吸を確保する準備をしなければなりません。
水位がどんどん高くなっている状況でいつまでも室内にいて、外に出るチャンスを失うと天井まで水が迫り呼吸するスペースがなくなります。結果として、救命胴衣を着用していても溺れることになりかねません。
家屋が壊れてしまって、水に投げ出されたら
1.できるだけ早く近くで浮いている廃材などに這い上がります。水面からの高さが10 cm以内であれば図4のように自力で這いあがることができます。
2.廃材の上に乗った状態で陸地の奥の方に流されている間に携帯電話を使って緊急通報をします。つながらなくても119番(消防)、110番(警察)、118番(海上保安庁)のどの番号でもいいのでかけ続けます。
3.陸向きの流れが止まったら、浮いている廃材を伝って、流されないように陸に上がります。
4.濡れた衣服を緊急浮き具に入れてあった乾いた衣服に着替えます。
浮き続けることになったら
這い上がる廃材が近くになかったらカバー写真のように水面にて浮き続けます。防寒着を着ていると、十分な浮力を得られるばかりでなく、保温の効果を発揮します。カバー写真では、厚着の格好で身体が水面からかなり浮いている様子がわかります。この場合、水面下にあるのは背中で、胸は水面から浮き出ています。
特に空気を内部にたくさん含む厚手の防寒着、あるいは救命胴衣を着用していれば、その浮力によって頭一つを水面上に出すことができます。さらに、その空気が抜けるまでは冷水が内部に入りにくくなります。
当然、衣服のあらゆる隙間から水が浸入してきます。でも、その水が衣服の内部にてすぐに入れ替わらなければ体温に暖められて、その後はむしろ人の保温に貢献してくれます。つまり、冷水の中でじたばたせずにじっとすることが肝要です。
人の生命維持に必要な水温であるおよそ17度というのは普段着の状態での話です。防寒着をしっかり着用して体内の熱を保つことができれば数時間におよぶ長時間の生命維持の可能性もでてきます。
生命維持のために
1.頭には厚手の帽子をかぶりできる限り水に濡らさないようにします。頭は身体の中で最も熱を失いやすいからです。
2.胸は厚手の防寒着で水の出入りを極力抑えます。胸は頭に続き熱を失いやすいからです。
3.手には手袋をします。這い上がる時に手がかじかむと上がれません。投げられたロープにつかなることができません。
当然、すぐに高台に逃げます
もちろん、津波が来るまでの間に高台に急いで避難することが大原則となります。しかしながら、現実はそうはいかないのが寒い時期・就寝時の津波です。着の身着のままで高台の避難場所に避難できても、衣服が濡れた状態で一晩を過ごすことになれば救助を待つまでの間に命を失いかねません。津波への備えとして、せめて厚手の防寒着だけでも枕のそばに準備しておきたいものです。