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イスラエルはレバノン南部でヒズブッラーと交戦したと発表、ヒズブッラーはこれを否定、双方が報復を予告

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

イスラエル軍は北部でヒズブッラーと交戦したと発表

イスラエル軍は7月27日午後4時頃、以下の通り声明を出した。

イスラエル北部での安全保障事案(security incident)を受けて、ブルー・ライン沿いのイスラエル住民に以下の通り告げる:

●自宅にとどまること。

●屋外での活動を避けること。

●同地域の道路を封鎖する。

また午後5時過ぎには以下の通り発表し、レバノンの対イスラエル抵抗組織であるヒズブッラーと交戦したと主張した。

我々は1時間前、イスラエル北部でヒズブッラーのテロ部隊による潜入の試みを阻止した。イスラエル軍の負傷者は報告されなかった。我々は引き続き、いかなる敵の脅威に対してもイスラエル国境を防衛する準備ができている。

「イスラエル北部」というのは、イスラエルが1967年の第3次中東戦争で占領したレバノン南部のナバティーヤ県ハースバイヤー郡のブルー・ライン(停戦ライン)に近いシャブアー農場。

ヒズブッラーは同地を含むイスラエル占領地の解放をめざして、抵抗運動を続けてきた。

ヒズブッラーは交戦を否定

しかし、ヒズブッラーが主導する武装連合体のレバノン国民抵抗は次のような声明を出し、交戦の事実を否定した。

本日現時点までにいかなる交戦も発生しておらず、こちら側から発砲もない。恐れと不安に駆られ緊張している敵側からの発砲があっただけだ。

ハッバーリーヤ村(ナバティーヤ県ハースバイヤー郡)に対してイスラエルが砲撃を加え、民家一棟が被害を受けたが、本件に対して沈黙することはないだろう。

レバノン軍の司令部も声明を出し、午後4時頃にハッバーリーヤ村にイスラエル軍が撃った迫撃砲が着弾し、民家1棟が被害を受けたと発表した。

Al-Manar、2020年2月27日
Al-Manar、2020年2月27日

高まっていた緊張状態

シャブアー農場での軍事的緊張は、7月20日のイスラエル軍戦闘機によるダマスカス県の南方へのミサイル攻撃に端を発していた。

反体制系サイトのEldorarによると、攻撃は、マッザ航空基地、ダマスカス郊外県キスワ市、サフナーヤー市一帯に展開するヒズブッラーをはじめとする「イランの民兵」の拠点が標的となり、「イランの民兵」やシリア軍の将兵多数が死傷した(「シリア上空は無法地帯:止まない所属不明のドローンによる爆撃」を参照)。

ヒズブッラーが運営するテレビ局のマナール・チャンネルが7月22日、この攻撃でヒズブッラーの司令官の一人アリー・カーミル・ムフスィン氏が死亡し、その葬儀が南部県スール郡のアイタイト村で行われたと伝えた。

al-Manar、2020年7月27日
al-Manar、2020年7月27日

ヒズブッラーの報復を警戒して、イスラエルは北部および占領地で警戒態勢を強化した。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は7月26日の閣議に先立って、シリア、レバノン領内から越境攻撃があった場合、その責任は両国にあると述べ、威嚇した。

だが同日、イスラエル軍の無人航空機(ドローン)1機がレバノン領内に墜落するといった事案が発生していた。

折しも、隣国のシリアでは、7月23日に、ヒムス県タンフ国境通行所一帯(55キロ地帯)などを違法に占領する米軍が、シリア領空でイランの民間航空会社マーハーン航空の旅客機を迎撃し、緊張が高まっていた(「イラン旅客機がシリア領空で迎撃を受ける:攻撃したのはイスラエル軍、それとも米主導の有志連合?」を参照)。

また、7月24日には、イスラエル軍ヘリコプター複数機が、クナイトラ県の前線に設置されている拠点3カ所に向かって対戦車ミサイルを発射し、シリア軍兵士2人が軽傷を負い、火災が発生したと発表した(「米国がシリア領空でのイラン旅客機への迎撃を認める一方、今度はイスラエル軍ヘリがシリア南部を攻撃」を参照)。

報復を予告するヒズブッラー、イスラエル

シャブアー農場での交戦を否定するレバノン国民抵抗は、7月27日の声明で以下のように述べ、ムフスィン氏殺害への報復を約束している。

シオニストどもは、自らが犯した犯罪への処罰を待ち続けねばならない。

また、ネタニヤフ首相も同日、こう述べ、抵抗する意思を露わにした。

レバノン領内からのいかなる攻撃であれ、ヒズブッラーとレバノン政府に責任がある。

ヒズブッラーは火遊びをしている。イスラエルの報復は非常に激しいものになるだろう。

イスラエル・レバノン国境地帯での事態の悪化が懸念される。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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