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米国がシリア領空でのイラン旅客機への迎撃を認める一方、今度はイスラエル軍ヘリがシリア南部を攻撃

青山弘之東京外国語大学 教授
(写真:ロイター/アフロ)

米国がイラン旅客機迎撃への関与を認める

米中央軍(CENTCOM)は、7月23日にシリア領空でイラン民間航空会社マーハーン航空の旅客機が、イスラエル軍、ないしは米主導の有志連合所属と思われる戦闘機の迎撃を受けた事件に関して、以下の通り声明を発表し、関与を認めた。

シリアにあるCJTF-OIR(「生来の決戦作戦」統合任務部隊=有志連合)のタンフ駐屯地一帯で、通常航空任務に就く米空軍F-15は今夜(米東部標準時7月22日)、マーハーン航空旅客機から約1,000メートルという安全な距離をとり、同機に対する標準的な目視検査を行った。

この目視検査は、タンフ駐屯地における有志連合の人員の安全を確保するために行われた。

F-15のパイトッロは航空機がマーハーン航空の旅客機であると識別し、F-15は安全のため、同機との距離を開けた。熟練した進行阻止が国際基準に従って行われた。

U.S.Central Commandホームページ、2020年7月23日
U.S.Central Commandホームページ、2020年7月23日

(事件の経緯については「イラン旅客機がシリア領空で迎撃を受ける:攻撃したのはイスラエル軍、それとも米主導の有志連合?」を参照のこと)

イラン外務省の声明

この発表に先立ち、イラン外務省のアッバース・ムーサヴィー報道官は7月24日、「米国、ないしはシオニスト政体によるこの地域への新たな冒険」としたうえで「西アジアの安定と安全が米国での(大統領)選挙の玩具として利用されることがあってはならない」と非難、適切な時に断固たる対応をとると述べた。

また、モハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外務大臣もツイッターで以下のように綴り、米国を非難した。

米国は他国の領土を違法に占領し、民間の定期旅客便に嫌がらせを行い、無垢の民間人乗客を危険に晒している。無法に無法を重ねるという大胆さ。こうした違法行為が大惨事を招く前止められなければならない。

イスラエル軍がシリア領内を攻撃

こうしたなか、シリア国営通信(SANA)は、シリア軍筋の話として、イスラエル軍ヘリコプター複数機が24日午後11時頃、クナイトラ県の前線に設置されている拠点3カ所に向かって対戦車ミサイルを発射、シリア軍兵士2人が軽傷を負い、火災が発生したと発表した。

SANA、2020年7月24日
SANA、2020年7月24日

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、標的となったのは、クナイトラ県ハドル村近郊のシリア軍と「イランの民兵」の拠点複数カ所。

反体制系サイトのEldorarによると、フドル村入口近くで車1台が被弾し、運転手1人が死亡、1人が負傷した。いずれも、いずれもレバノンのヒズブッラーが現地で結成した地元民兵組織のメンバーだったという。

対するイスラエル軍も声明を出し、同軍攻撃ヘリコプターが、24日早朝のシリア軍による発砲への対抗措置として、シリア領内の軍事目標複数カ所を攻撃したと発表した。

攻撃が行われたのは、シリア軍拠点内の監視所や諜報収集装備など。

イスラエル軍は「本日のイスラエルに対する発砲の責任はシリア政府にある…。イスラエル軍は決意をもって作戦を継続し、イスラエルの主権に対するあらゆる侵害に対処する」と強調した。

なお、イスラエルのオンライン新聞『タイムズ・オブ・イスラエル』などによると、24日早朝、イスラエル占領下のゴラン高原マジュダル・シャムス村に近い境界地帯で複数回の爆発が発生、同地の民家1棟と車1台が軽い被害を受けた。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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