イスラーム過激派の食卓(今年も期待を裏切った「イスラーム国 中央アフリカ州」)
ウクライナでの戦争やアメリカの外交・安全保障上の優先順位の変化により、「イスラーム国」を含む世界各地のイスラーム過激派の日々の活動は半ば忘れ去られた状態にある。世論、特に報道機関や主要国の政府の関心を惹くことができなければ、政治的な行動様式としてテロリズムを採用するイスラーム過激派諸派は衰退していく運命にある。それでも、あくまで僻地の武装集団として活発に活動しているのが、アフリカにおける「イスラーム国」の諸州である。モザンビークやコンゴで活動する「イスラーム国 中央アフリカ州」は、「イスラーム国」の諸州の中で比較的順調に活動し、同派の機関誌や戦果発表の中でも出現頻度が上昇している。「イスラーム国 中央アフリカ州」の戦果には、集落の襲撃・制圧が含まれることもあるので、本当に順調に活動を展開しているのならば、そろそろ大規模な給食施設や前線の戦闘員への食事の配布のような組織だった兵站活動もみられるようになるはずだ。実際、ナイジェリアなどで活動する「イスラーム国 西アフリカ州」は、何処からか駆り集めてきた少年たちを次世代の戦士として教育する施設に集め、そこでは彼らに組織的に食事を提供する場面を確認できる。
そのようなわけで、今期のラマダーンで「イスラーム国 中央アフリカ州」が発表する食事の風景は、同派が本当に確固たる勢力と活動基盤を築くことができたかを確認するための重要な材料となるはずだ。昨期のラマダーンの食事の場面では、焚火を熱源として粗末な道具でパンを焼く様や、主に果物が並ぶメニューが確認できた。昨期の時点で「イスラーム国 中央アフリカ州」がそれなりの領域を制圧し、そこで強固な活動の基盤を築いている可能性が想定できたのだが、昨期の食事風景はその「期待」を見事に裏切る粗末なものだった。
写真1は、森林の中の野営地らしきところで粗末な天幕や調理器具で食事の支度をする場面だ。2022年4月16日に「イスラーム国 中央アフリカ州」が発表した画像群では、彼らがしっかりした建築物で調理や食事をしていることは確認できない。
調達する食材の量や質も重要な関心事であるが、写真2を見る限り必要な種類の食材を、必要な量だけ定期的・組織的に調達しているようには見えない。写真2は魚を焼くか燻すかしたもののようだが、魚種も大きさも不揃いで、「イスラーム国 中央アフリカ州」の活動範囲にある河川か湖沼で自力で採集した釣果だとしてもなんだかみすぼらしい。
写真3は果物の調理風景だが、これは写真1で調理している果物と合わせ、商品作物としてちゃんと生産・流通している立派なものを扱っているように見受けられる。果物だけでも組織的に調達・配分する仕組みを確立できているのだろうか?一方、調理は敷物もまな板も使用しない野性的な調理だが、それが現地のやり方ならば仕方ないだろう。そのような調理を経てできあがったのが写真4の食卓である。肉類をできる限りたくさん並べることをごちそうとして誇っているように見えるアラブ地域の諸州の作品とは異なり、果物が中心の食卓だ。
本稿で問題としたいのは、「イスラーム国 中央アフリカ」のラマダーンのごちそうが昨期のそれとたいして代わり映えもなく、野外の簡素な施設でせいぜい数人前の食事を準備するにとどまっていることだ。これは、「イスラーム国」の広報場裏で「中央アフリカ州」の戦果の占める地位が向上している傾向であるにもかかわらず、肝心の現地の活動を支える兵站機能がたいして整備されていないことを示していると思われる。多数の戦果、敵を多数殺傷する戦果を挙げたとしても、それを支える拠点や兵站機能が貧弱ならば、占拠地域を広げることも、敵への攻撃を続けることも難しい。インターネット上の情報だけを頼りにたいした選抜も教化も受けずに「ジハード」の現場に赴いた者たちは、行先での快適な生活についての情報を信じてそのようにした者たちである。野外の森林(しかも見たところ周囲は常に湿っている)で、食材も機材も粗末な食生活を送ることになると示唆する今般の作品は、「イスラーム国 中央アフリカ州」の実際の活動状況はさておき、外部の者たちがこれに合流する気持ちを高める効果は期待できなそうだ。