今年の防衛白書、中国は「強い懸念」、北朝鮮は「脅威」、ロシアは?
日本政府が7月22日、2022年版防衛白書を公表した。今年の防衛白書で最も目を引くのが、「ロシアによるウクライナ侵略」や「最近の台湾をめぐる国際情勢」、そして、政府が保有を検討する「反撃能力」(敵基地攻撃能力)について新たに記述したことだ。
現在の安全保障環境の特徴として、「政治・経済・軍事などにわたる国家間の競争が顕在化」と指摘したうえで、「ロシアのウクライナ侵略など、既存の秩序に対する挑戦への対応が世界的な課題になっている」との見方を示した。
防衛白書は中国の急速な軍事力強化を指摘する一方で、今年もまた、中国が「わが国を含む地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっている」と記した。その一方、北朝鮮については、「わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と今年も位置付けた。
そして、ロシアをめぐっては、中国との軍事協力が進んでいることから、北方領土を含む極東地域のロシア軍の位置づけや動向について、「懸念を持って注視していく必要がある」と述べた。2021年版の「動向を注視」よりも表現を強めた。
●自民党提言は中朝露3カ国すべてが「脅威」
一方、自民党安全保障調査会が4月末に取りまとめた提言では、中国は「重大な脅威」、北朝鮮は「より重大かつ差し迫った脅威」、ロシアは「現実的な脅威」とそれぞれ評価し、これら隣国3カ国が軍事的脅威であることを明確に示した。
森本敏・元防衛相も5月末の筆者の取材に対し、「日本は今、世界の中で中国、ロシア、北朝鮮という3つの最も深刻な軍事脅威を受けている唯一の国だ。日本の防衛力だけで、この3つの脅威に対抗できるほどの防衛力があるかと言えばない。だから、防衛費を増やせという議論になっている」と指摘していた。
なぜ防衛白書は、北朝鮮に加え、中露を「軍事的脅威」とみなさないのか。とりわけ、昨年10月には中露海軍艦艇の合わせて10隻が津軽、大隅両海峡を通過し、日本を周回する形で航行した。さらに、日米豪印4か国の首脳会談が東京で開かれた5月24日には中露の戦略爆撃機6機が日本周辺を飛行した。日本周辺での中露の軍事的活動はかつてないほど活発化している。
●2013年の前回の防衛大綱を踏襲
筆者は、防衛省担当者が防衛白書公表前の20日に行ったプレスブリーフィングで改めてこの点を質問した。この防衛省担当者はまず、「基本的にはベースとなる評価部分については、(2013年の)前回の防衛大綱を踏襲したものになっている」と説明。
その上で、中国については「『安全保障上の強い懸念』としつつも、『こうした傾向は近年より一層強まっている』との評価を付け足した」と述べた。
北朝鮮についても「『わが国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威』としつつも、『この傾向が近年一層強まっている』との評価を付け足した」と話した。
ロシアについては「特に今回のウクライナ侵略を受け、『懸念を持って注視する必要がある』と記載しているのは新しい評価となる」と説明した。
防衛省担当者は、政府が年末をめどに取りまとめる外交・防衛の長期指針「国家安全保障戦略」「防衛大綱」など3文書が現在改定中とのことを踏まえ、「ベースとなる評価は前回の防衛大綱を踏襲しているものの、中朝露の(軍事)活動が大きく変わってきているとの認識の下、新しい評価を加えた」と述べた。
いずれにせよ、日本を取り巻く安全保障環境が急激に悪化するなか、日本の国民生活の安全と安心を守るために、抑止力を普段にどう確保していくのか。その抑止を実現していくには、まずしっかりとした脅威認識の確立が問われる。とりわけ日本の保守とリベラル両勢力の間では、周辺国の軍事的脅威についての認識ギャップが大きい。このギャップを埋め、現実的な安全保障政策を与野党の共通基盤にしないといけない。国民レベルで現実を直視した聖域なき安保論議がこれほどまでに求められる時代はないだろう。
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