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少子化というが、1980年代より現代の方が一人の母親が産む子どもの数は増えている

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「金がないから子どもが産めない」問題

日本の少子化の原因は「お金がなくて子どもを産めないからだ」という声をよく聞く。とどまるところを知らない日本の少子化を解決させるためには、経済面での子育て支援を充実させ、親がお金の心配をすることなく子どもを産み育てられる環境作りが必要だという人もいる。

事実、子育てに関わる経済的支援を充実化させている明石市などは出生率があがっている。確かに、子育てにはお金がかかる。お金があれば解決する問題がないとは言えない。大前提として子育て支援は大事であり、必要である。それはそれとして充実化させるべきであることはまったく否定しないが、子育てに関する支援を充実させれば、出生数があがるかといえば、残念ながらそうはならない。

何度もお話しているが、結婚した女性が産む子どもの数は1980年代と比較しても変わっていない。

出生動向基本調査にもあるとおり、結婚継続15年以上の夫婦を対象として完結出生児数は、減ったとはいえ、2015年でもほぼ2人に近い子どもを産んでいる。

人口動態調査によれば、1980年の総出生に占める第三子以上の割合は16.9%だったが、2020年にはそれが17.2%とわずかだが増えている。つまりは、3人以上の子どもを産む女性はむしろ1980年より多いということである。

写真:アフロ

私が独自に出している結婚出生数という指標がある。これは、1婚姻(初婚再婚含む総数)に対してどれだけの出生数があるかを算出したものである。それによれば、近年ほぼ1婚姻当たり1.5人の出生数が継続している。これは、子を産まずに離婚してしまう夫婦や子のない夫婦も含めての数字であるから、実質子を産んだ女性はほぼ2人以上は産んでいるとみてよい。

言い方を変えれば、「金があろうとうなかろうと、結婚した夫婦は子を産み育てようとする」のであり、これを見る限り「お金がないから子どもを産めない」もしくは「産むことを控える」ということは全体的な統計からは読み取れない。

出生数が減っている最大の要因は「金がないから産めない」のではなく、そもそも「結婚する女性の絶対数が減っている」からなのであり、それは自動的に将来母親になる絶対数が減ることを意味する。少子化以前に「少母化」であると私が言うのはそういうことである。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

金がない国の方が出生率は高い

そもそも論として、経済的に豊かであれば出生数が増えるという理屈が成立するのであれば、現在出生率が軒並み高いアフリカ諸国などは経済的に豊かであると言えるのだろうか。

日本においても、ここ30年の停滞期は別にして、豊かであるとされた1980年代の熱狂的なバブル期より、戦後の焼野原で食うにも困るような時代の方が出生率は圧倒的に高かったのはなぜだろうか。

国別のGDPと人口千対の粗出生率との関係を見ても明らかで、基本的には経済的に豊かである先進国は軒並み出生率は下がるのである。別の言い方をすれば、GDPがあがるのに反比例して出生率は下がる。

「金がないから子どもが産めない」のではなく、「金に余裕があれば出生数は少なくなる」し、「金がない貧乏であるとされる国の方が子どもはたくさん生まれてくる」のである。

しかし、これを無理やり因果に結び付けて「経済成長しなければ出生率はあがる」「社会主義的な国家運営をすれば出生率があがる」などという根拠はまるでない。ないどころか、反証する事例すらある。かつての社会主義陣営のドンでもあるソ連の事例である。

提供:アフロ

ソ連は、戦後GDPを成長させるとともに、微増ながら出生率もアップさせてきた。しかし、国が崩壊する7年前の1983年にGDP最高記録を出して以降、GDPは右肩下がりに減少し続け、7年間で20%もGDPを下げ、同時に粗出生率も同期間比で35%も減少している。そうして国時代が消滅したことはご存じの通りである。

先進国で出生数が減る理由

先進国になれば出生率が下がるのは事実だが、国が貧乏になれば出生率があがるということにはならない。

国が豊かになることと出生率が下がることの間には、もうひとつ別の要因がある。

国が豊かになればまず第一に生活インフラが整備される。上下水道が整い、衛生状況が改善される。住環境や食料による栄養面も改善される。医療体制も発達するだろう。するとどうなるか?乳幼児などの小さな子どもが病気などで死ぬリスクが大幅に軽減されるのである。

つまりは、国が豊かになるということは、生まれてきた子どもが死なずに成長できる国であることを意味する。裏返すと、なぜ発展途上などの国々において出生数が多いかというと、生まれた子どものうちの半分以上が乳児の時に死んでしまうからである。

それは、日本でもかつて、ひとりの母親が6人も7人も出産をしていたが、その子たちが全員無事に成人できたわけではなかった。

乳児死亡率が下がれば、出生率も下がる。両者はどこの国においても見事に強い正の相関がある。

そして、いわゆる低所得国においては乳児死亡率が高いがゆえに出生率も高い。しかし、これらの国々も経済成長すれば、他の先進国と同様に乳児死亡率が格段に減少するだろう。同時にそれは出生率も下がることになる。

つまりは、経済成長すれば自動的に出生は減るが、かといって経済成長しなければ出生以前に国が消滅するというだけの話である。

経済成長と未婚・晩婚化問題

一方で、経済成長することの別作用として、晩婚化と未婚化がセットになってやってくる。これもまた先進国で共通する話だ。少子化の根元が婚姻減であるというのはそういうことである。

とはいえ、個人レベルのミクロな視点では「金がないから結婚できない」という人はいるかもしれない。それでなくても婚活界隈では「結婚は金」という話題ばかりが取りざたされている。

しかし、だからといって、全員に金を配れば、婚姻数が激増するかといえばそうはならない。

足りないのは金だけではない人もいる上に、金が足りているからこそ結婚する必要性を感じない人もいるからだ。

では、どうすれば婚姻を増やせるのか?というのが喫緊の課題になるわけだが、結婚したところで3組に1組は離婚する。むしろ1899年の明治民法から1989年までの皆婚で離婚が少ない100年時代の方が異常だったのであり、そこに戻そうとすること自体に無理があるのではないか。

内閣府の研究会なるところが提言していた「壁ドン」の練習などで結婚が増えるならどうぞやってもらいたいものである。

写真:イメージマート

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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