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『Qrosの女』芸能ゴシップ誌・編集長の主張への違和感 自己正当化の責任逃れ?

武井保之ライター, 編集者
テレビ東京プレミア23『Qrosの女 スクープという名の狂気』公式サイトより

ゴシップエンターテインメントをうたうテレビ東京プレミア23『Qrosの女 スクープという名の狂気』の第1話は、芸能ゴシップを追う週刊誌・敏腕記者の主人公がアイドルの不倫を暴き、当人は引退するという流れのストーリー。昨今のいくつかの現実の騒動を想起させた。

劇中のその後には、ゴシップの裏側のかけひきと取り引きも映されたが、そこにカタルシスがあるわけもなく、週刊誌編集長による芸能ゴシップの正義の主張も含めて、違和感と不快感を抱かせるスタートになっていた。

ゴシップ記事が引き起こした不幸への編集長の自説

主人公の記者が務めるのは、週刊誌「週刊キンダイ」編集部の芸能ゴシップを追う芸能班。ネットやSNSに情報があふれかえる時代に「ここにしかない情報」の付加価値をつけて、売上を伸ばし続けているメディアだ。

そのエース記者である主人公は、芸能人の“真実”を暴くためには手段を選ばず、「世の中が求めるネタを提供しているだけ」を信条にスクープを連発する。

第1話では、人気アイドルグループ・メンバーの不倫情報を掴んだ主人公が、あの手この手で対象に接近し、証拠写真を入手してスクープを放つ。その号は今年いちばんの売れ行きになるヒットになったが、アイドル当人は芸能界を引退することになり、ネットやSNSは荒れる。

スクープが世の中的な話題になり編集部は沸き立つが、若手記者の1人は自分たちをマスゴミというSNSの中傷を目にして、「人の不幸を求める俺たちって何なんですかね」と漏らす。

すると編集長は自説を打つ。

「週刊誌なんてろくでもない仕事だと思われたって仕方ない。だけど、なぜ週刊誌を中傷するネットユーザーは記事を読むんだ? 俺たちはネタを提供しているだけ。それをもとにジャッジしているのは世間様だ。記事には引退しろとは書いていない。世間が寒しい心で叩いて、企業がそれに影響されてタレントを降板させる。怖いのは、ゴミって言われている俺たちじゃない。このネタをもとめている世の中だろう。人間の後ろ向きな欲望みたいなものが膨らんで、そのはけ口として誰かを攻撃して暴走する。その群衆心理がいちばん怖いんだ。しかもその欲望は常に不幸を求めて次なる獲物を探している。不幸を求めているのは俺たちじゃなくて、世の中だ」

自己正当化の主張への違和感の正体

この自己正当化の主張に違和感を覚える。

「真実を伝えるだけ」というが、その記事が結果、社会にどのような影響を及ぼすかは理解しているはず。それを見ないふりをするのは、現実逃避しているだけではないか。そもそも芸能ゴシップでも何でも記事を出すことには、その表現に対しての責任がともなう。そこからつながる結果に対して無関係を装うのは、無責任のそしりを免れないだろう。

もうひとつ思うのは、週刊誌をたたく世間とは、記事を読んでいない人が大多数ではないだろうか。ネットに出る記事の見出しや、その記事をもとにしたネットニュースで概要を知る。記事の内容ではなく、人の不幸につながるゴシップをビジネスにすることへの気持ち悪さや不快感を抱く。それは、誰もそこに正義を感じないからだろう。

ただ、週刊誌ゴシップは炎上システムの一部でしかない側面もある。発信源のひとつではあるが、それをSNSのインプレゾンビとネットニュースのPVゾンビが増幅装置となって拡張し、マスメディアがさらに騒ぎ立てることで、炎上が社会的事件へと拡大。そこから人の不幸が生まれる。

たたかれるべきは週刊誌だけではないとも思うが、彼ら発のネタのインパクトが大きいために、目立ってしまっているのだ。

(余談だが、あるWebメディアに寄稿した記事で、炎上騒動をネットニュースにするPVゾンビに言及したらその部分は削除された)

従来のスクープ週刊誌ドラマとは一線を画する視点

『Qrosの女』で注目されるのは、ただ週刊誌スクープの裏側や、記者たち編集部の正義を描くだけではなく、ネットやSNSなど世間の彼らへの反発や、それによる編集部の葛藤のほか、芸能スクープの裏にある芸能界のかけひきや取り引き、手打ちなど、リアルに即した(?)芸能界の生々しさと禍々しさまで映していること。

もちろんそこにはエンターテインメントとしての誇張はあるが、従来の週刊誌スクープ記者を題材にするドラマや映画とは一線を画する、鋭利な視点の尖った作風がある。

第1話は、前述の編集長の主張に思わず語りたくなってしまったが、そういうドラマの狙いだった気もする。本記事のような違和感を持った人は多いと思うが、結果ドラマに注目しており、第2話も見てしまうだろう。仕掛けられたフックにまんまと引っかかっている。

あえて登場人物やドラマ自体を視聴者にたたかせながら、芸能界の裏側のリアルをエンターテインメントに昇華して描いていくとしたら、『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ)を超える、とんでもない話題作に化けるかもしれない。

観終わって冷静になってみると、そんなことも楽しみにさせられた第1話だった。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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