海自の最新型潜水艦「たいげい」就役――潜水艦22隻体制が完成
海上自衛隊の最新型潜水艦「たいげい」が3月9日、就役した。兵庫県神戸市の三菱重工業神戸造船所で同日、引き渡し式と自衛艦旗授与式があった。同造船所で建造された潜水艦はたいげいで戦後29隻目。
たいげいは日本の主力潜水艦そうりゅう型の後継となるたいげい型潜水艦の1番艦だ。これで、防衛省・海自は、2010年12月の防衛大綱(22大綱)で初めて定められた潜水艦22隻体制(=そうりゅう型12隻+おやしお型9隻+たいげい型1隻)をついに完成した。
●旧日本海軍の潜水母艦「大鯨」が艦名の由来
海上幕僚監部広報室によると、艦名のたいげいは漢字では「大鯨」と書き、大きなクジラを意味する。戦前の1934年に建造され、1942年に空母「龍鳳(りゅうほう)」に改装された潜水母艦「大鯨」に由来する。
たいげいは、横須賀基地第2潜水隊群第4潜水隊に配備される。全長84メートルと全幅9.1メートルは、そうりゅう型と同じだが、深さは10.4メートルとなり、そうりゅう型より0.1メートル大きい。これは海自最大の潜水艦となる。基準排水量も3000トンとなり、そうりゅう型より50トン多い。海上幕僚監部広報室によると、建造費は796億円。乗員は約70人。軸出力は6000馬力。速力は未公表となっている。
たいげい型2番艦のはくげいと同様、女性乗員のための専用の居住エリアやシャワー室、寝室をあらかじめ設けた。
平成29(2017)年度計画潜水艦であるたいげいは2018年3月に起工され、2020年10月に命名・進水式が実施された。一方、たいげい型2番艦はくげいは2019年1月に起工式、2021年10月に命名・進水式をそれぞれ終え、2023年3月に海自に引き渡される予定だ。
●たいげいもリチウムイオン蓄電池搭載
そうりゅう型はディーゼル潜水艦で、低振動で静粛性に優れ、世界有数の高性能艦として知られてきたが、たいげい型は、その性能向上型となる。
たいげいは、そうりゅう型11番艦おうりゅう、12番艦とうりゅうに続き、GSユアサが開発したリチウムイオン蓄電池を搭載し、ディーゼル電気推進方式の通常動力型潜水艦となる。主機関に川崎12V25/25SB型ディーゼル機関2基を採用している。
高性能シュノーケル(吸排気装置)を擁し、潜水艦に重要な隠密性を高めた。さらに、光ファイバー技術を用いた新型の高性能ソナーシステムを装備して探知能力が向上した。
また、そうりゅう型8番艦のせきりゅうから導入された潜水艦魚雷防御システム(TCM)も装備している。これは、敵潜水艦から発射された魚雷を探知した時に、艦のスクリュー音を模擬したブイやおとりを発射し、魚雷が自艦に向かってくることを回避するための装置だ。
●対艦ミサイル「UGM-84Lハープーン・ブロック2」搭載
たいげい型は、89式魚雷の後継である最新の18式魚雷を装備することが見込まれている。魚雷発射管は艦首最前部に集約されている。この魚雷発射管からは、海上標的に向けて水中発射する対艦ミサイル「UGM-84Lハープーン・ブロック2」も搭載できる。国際軍事情報グループの英ジェーンズによると、このミサイルの射程は248キロとされ、地上への攻撃も接近すれば可能とみられる。敵基地攻撃能力の1つにもなり得る。
アメリカ国防安全保障協力局(DSCA)は2015年5月、国務省が日本へこのUGM-84Lハープーン・ブロック2ミサイルと関連機器、部品、サポートなどを対外有償軍事援助(FMS)で輸出することを承認した。日本政府がUGM-84Lハープーン・ブロック2ミサイル48基とコンテナ、予備部品、支援機器、技術資料、訓練、各種サポートなどを要求し、推定コストは1.99億ドル(230億円)と試算された。
日本の潜水艦は三菱重工業神戸造船所と川崎重工業神戸工場が隔年で交互に建造している。現在、三菱重工業神戸造船所でたいげい型3番艦、川崎重工業神戸工場で4番艦がそれぞれすでに建造中だ。2019年度予算ではその3番艦建造費として698億円、2020年度予算では4番艦建造費として702億円、2021年度予算では5番艦建造費として684億円、2022年度予算では6番艦建造費として736億円がそれぞれ計上された。
海上幕僚監部広報室は、たいげい型が合計で何隻建造されるかは決まっていないと説明した。しかし、旧型の「おやしお型」9隻が順次退役していくことから、今後もそれを補完する形で年に1隻の建造ペースで調達していくとみられる。
●試験潜水艦の導入
なお、現行の防衛大綱と中期防衛力整備計画(中期防)に関する防衛省の資料には、「試験潜水艦の導入」として「29SSの種別変更を予定」と記されている。29SSとは平成29年度計画潜水艦であるたいげいのことだ。中期防では、具体的に「潜水艦については既存の潜水艦を種別変更した試験潜水艦の導入による潜水艦部隊の平素における運用機会の増加により、常続監視のための態勢を強化する」と記されている。しかし、海幕広報室は9日、筆者の取材に対し、どの既存潜水艦が試験潜水艦になるのかは現時点では決まっていないと説明した。防衛省によると、試験潜水艦とは、能力向上を加速するため、海自で初めて導入される潜水艦のことだ。
毎年3月は海自の新たな潜水艦や護衛艦が就役することが多い。今月下旬には最新鋭3900トン型護衛艦「くまの」の就役も予定されている。
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