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『ブギウギ』温かい感動とカタルシスにあふれていた第16週 生瀬勝久の無愛想が映えるスター性が光る

武井保之ライター, 編集者
NHK朝ドラ『ブギウギ』公式サイトより

 1月に入り、放送後半に入ったNHK朝ドラ『ブギウギ』。前半は戦時中のつらく切ないエピソードも少なくなかったが、第16週「ワテはワテだす」は新たなステージに向かうスズ子(趣里)のまわりの心温まる2つのエピソードが描かれ、心地よいカタルシスと感動に包まれた。

一流のエンターテイナー同士がお互いを認め合った瞬間

 ひとつは、歌手であるスズ子が人気喜劇俳優・タナケン(生瀬勝久)の舞台に役者として出演することになり、右も左もわからぬ初めての稽古で壁にぶつかるエピソード。そもそも羽鳥善一(草なぎ剛)の推薦でタナケンからオファーを受けたスズ子だが、芝居の素人であるスズ子は劇団員から嫌味を言われ、タナケンからは「何も言うことはない」と相手にされない。

 そんななかスズ子は意を決し、関西弁で素の自分をそのまま芝居に出すことにする。劇団員からは批判されるが、タナケンは「おもしろい」と受け入れる。それまで独善的なスターに映っていたタナケンだったが、観客を楽しませる芝居をすることだけを考える、マンネリやルーティンを嫌うプロのエンターテイナーの顔を見せた。

 その信念は、おもしろければいい。おもしろくなくては意味がない。そうなれば本来のスズ子と合わないわけはない。舞台は成功し、無愛想で気難しく、何を考えているかわからない喜劇役者タナケンに、役者としてのスズ子が認められるシーンは、それまでの過程が思い浮かび、思わず目頭が熱くなる。

 タナケンからスズ子への「君はそのままでいい」という言葉とスズ子の笑顔は、一流のエンターテイナー同士がお互いを認め合った瞬間であり、スズ子がスターへの階段をまた一歩上がった瞬間だった。

 このエピソードを成立させたのは、生瀬勝久が醸し出してきた無言の威圧感と圧倒的なスターのオーラだろう。無愛想なタナケンからにじむスター性は、俳優・生瀬勝久そのものにも見えた。それはきっと芝居へのスタンスが共通しているからに違いない。

小夜を思う家族としての深い愛情

 もうひとつのエピソードが小夜(富田望生)との別れ。ずっとスズ子の付き人としてともに過ごしてきた小夜が、米兵サム(ジャック・ケネディ)との結婚を決意し、アメリカへ旅立った。

 スズ子ははじめ、小夜はサムが日本にいる間だけの相手にされていると決めつけ、ふたりの仲を全否定した。だが、帰国することになったサムは、小夜をアメリカに連れて帰り、結婚したいと話す。

 それでもスズ子は異国へ渡ったあとの小夜の苦労を考え反対する。しかし、悩みに悩んだ末、小夜が自分の道を進むことを応援する。涙ながらにサムにこれまでの非礼を詫び、小夜のことを託すスズ子の言葉には、親から子への愛情があった。

 スズ子には、小夜への家族としての深い愛情があった。小夜のことを子どものように思うスズ子は、生きるのが精一杯の時代に他人のために必死になれる人であり、そんな愛のある人の歌声だからこそ、心が洗われるように響くことを改めて思わされた。

 カタルシスと温かい感動に包まれた第16週が終わり、いよいよラストへ向けた「東京ブギウギ」の話に入っていくのか。すっかりスズ子に感情移入してしまったこれからは、いままで以上に見入ってしまいそうだ。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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