女子大生の不同意性交トラブルを描くドラマ『SHUT UP』、現実とリンクして広がる共感
テレビ東京の深夜枠「ドラマプレミア23」の連続ドラマ『SHUT UP』。昨年12月4日からスタートし現在も放送中のオリジナルドラマだが(1月22日第7話放送)、憧れの先輩に“遊び”の相手にされた女子大生が自身の性暴力の被害に気づき、ネットの中傷にさらされながらも友人たちと戦っていくストーリーが、現実の社会問題とリンクし共感を呼んでいる。
同意の有無を聞かれて自分が被害者であることに気づいた
映画(ドラマ)は社会を映す鏡と言われるが、不思議とタイムリーに時代にリンクすることがある。本作はまさにそんな作品になっている。
物語は、アルバイトで学費と生活費を自分で稼ぎながら共同生活をする4人の女子大生がメインになる。ある日、そのなかのひとりがサークルの飲み会の後、憧れの先輩から家に誘われて一夜をともにし、予期せぬ妊娠をしてしまう。ところが、男は屁理屈を並べて自分が妊娠させたことを認めず、中絶費の支払いを拒否する。
彼女のために3人は奔走するが、彼女を大事にする思いと相手の男への反発から道を踏み外してしまい、トラブルに巻き込まれていく。第6話で3人は、警察の取り調べを受ける事態になる。そこまで大事になり、あれこれ起こったところで、警察の助言から、そもそもの発端となった性行為には同意があったのかという点に立ち返る。
それまでの彼女は、そうなったのは自分にも非があると当たり前のように思い込み、警察で性行為の同意の有無を聞かれた際には、その質問の意味さえ理解できなかった。しかし、勧められた被害者の会に通ううちに、自身が性暴力の被害者であることに気づき、その先の行動を決意する。
現実の性加害疑惑とリンクし世の中に広く響く
本作の登場人物それぞれのキャラクター設定や行動原理には、リアリティと説得力がある。4人の女子大生をはじめ、相手側の大学生とそのサークル仲間たち、途中で登場するパパ活相手のおじさんなど、しっかりとした取材に基づく人物造形とシチュエーション設定、描写であることが感じられる。
一部の出来事にはドラマっぽい演出もあるが、全体を通して若者を取り巻く生々しいまでの生と性がリアリティを伴って丁寧に描かれ、加えて、その主軸に置かれた不同意性交というテーマが、この年末年始から社会問題化している芸能的話題を超えた性加害疑惑とリンクしていることが、ドラマファンを超えて世の中の関心を引きつけている。
SNSなどでは、ドラマの女子大生の苦しみに共感する声が増えている。そこからは現実の問題への意識や捉え方への影響もあるかもしれない。物事への見方を広くし、自分とは異なる立場の人への気づきや思いやりを持つ人もいることだろう。期せずして(?)、いまの社会においてタイムリーに大きな意義を持つドラマになった。
また本作では、不同意性交だけでなく、家庭の経済事情による学生貧困や、大学の偏差値やブランド力によって生じる社会的格差、SNSを使った印象操作やデマ拡散、パパ活に潜む危険、マルチ商法への勧誘とクーリングオフなど、現代を生きる若者を取り巻くさまざまな社会問題も取り込み、弱者の立場からの視点で理非を投げかけている。
プロデューサーをはじめ、監督、脚本家らスタッフ全員が、社会問題をしっかりと提示して世の中を動かそうとするドラマ制作への意識の高さを持ち、加えてメインキャスト4人を演じる仁村紗和、莉子、片山友希、渡邉美穂の女性被害者へ寄り添うような役柄そのものに成り切った好演があるからこそ、本作が広く響いているのだろう。
ドラマのストーリーはこれから佳境に入る。ひとりでも多くの人が本作を見ることで被害者の気持ちを感じ、考えることにつながってほしいと願う。
【関連記事】
「最高の教師」東風谷葵役の當真あみ、「どうする家康」「大奥」ほか話題作で爪あと残す大型新人
ドロ沼サスペンス?『さよならマエストロ』今期No.1ドラマの予感 芦田愛菜&當真あみ再名演にも期待
「光る君へ」退屈になりがちな幼少期を引き締めたラスト 視聴者にインパクトを残した圧巻の第1話