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「光る君へ」退屈になりがちな幼少期を引き締めたラスト 視聴者にインパクトを残した圧巻の第1話

武井保之ライター, 編集者
NHK大河ドラマ『光る君へ』公式サイトより

 第63作NHK大河ドラマ『光る君へ』がスタートした。平安時代を舞台に、『源氏物語』の作者である紫式部の生涯を描く本作。第1話は紫式部の幼少時代のパートだが、まひろ(後の紫式部)と三郎(後の藤原道長)の出会いとともに、それぞれの家族の朝廷内の政治的位置や、家族内のふたりの立場から人間性が丁寧に描かれ、ラストは2家族の運命が交錯する大きな出来事で締めた。大河ドラマファンをしっかりとつかむ出足になったように感じる。

大河ドラマの王道をいく圧巻の第1話

 1年続く大河ドラマの第1話は、継続視聴を判断する最初の回として大きく注目される。内容によっては、そこで離脱する視聴者も少なくない。時代背景などの設定、登場人物の人間像など説明的な要素は欠かせないが、同時にこのドラマがどういう物語をどう描いていくかを示す重要な回になる。

 退屈になりがちな回ではあるが、視聴者にそう思われれば後がない。一方、前作『どうする家康』のように、1話目から合戦の場面が入り、徳川家康の現代人的なメンタリティが唐突に映されるような、視聴者の意表を突く演出に賛否が分かれたケースもある。

 そうしたなか、『光る君へ』の第1話は、主人公と運命の相手を囲む人々の人間関係や人物像を細やかに描きながら、後につながるであろう愛情と憎悪の感情が交錯する立場上の関係性を巧みに視聴者の印象に残した。

 さらに、ラストではそれまでの和やかな展開から一転させ、激動の運命のはじまりになる衝撃的なシーンで悲哀の嘆きを映し、視聴者にしっかりとインパクトを与えている。

 日本を代表する大御所脚本家・大石静氏ならではの圧巻の第1話だった。派手な装飾やトリッキーな演出はなく、言ってみれば王道のドラマ構成だが、安定感と重厚感があふれる大作感があり、第1話を見終わった時点で、次回を見ない選択肢はなくなっている視聴者は多いことだろう。

『鎌倉殿の13人』のようなムーブメントを生み出すポテンシャルを秘める

 大河ドラマといえば、戦国時代や江戸幕末など時代が大きく動く戦乱の武将の物語が人気を得てきた。天下分け目の大戦に向かう戦国大名たちの動き、その裏の謀略の数々が大河ファンを引き付けている。

 若い世代を巻き込んで国民的人気となった前々作『鎌倉殿の13人』では、謀反を止めた上総介(佐藤浩市)の理不尽で凄絶な最期に大きな反響があり、ドラマの人気を決定づけた。

 そうしたなか本作は、平安時代の貴族の出世争いを背景にする紫式部の作家としての一代記になる。大河ファンがどう見るか興味深いところだが、一方、大石静氏の数々の恋愛ドラマは、若い世代から圧倒的な支持を得てきており、平安時代の色恋の物語で『鎌倉殿の13人』のようなムーブメントを生み出すことも期待される。

 第1話では、まず大河ファンを納得させる仕上がりになっていたように感じる。次回の紫式部の青年期の物語がどのようにはじまるか、第2話が注目される。

ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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