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なぜTwitterで閲覧制限? 背景を考える

山口健太ITジャーナリスト
一時的な閲覧制限が実施中(TwitterのWebサイトより、筆者撮影)

7月1日ごろから、Twitterで一時的な閲覧制限が導入され、よく使っているユーザーを中心に世界中で批判が巻き起こっています。

Twitter側の損害も大きいとみられますが、なぜそんな制限を導入する必要があったのか、背景を考えてみます。

AIによるデータの大量取得への対策か

Twitterの閲覧制限は、1日に読めるツイート数がTwitter Blueの認証ユーザーは1万件、一般(未認証)ユーザーは1000件、新規の未認証ユーザーは500件と説明されています(日本時間で7月2日夜時点)。

基本的にTwitterのようなSNSは少しでも利用を増やすことが売上につながることから、このような制限を導入するのは自分の首を絞めることになります。

その上で、なぜ制限を実施したのか、マスク氏の最近の発言からは追っていくと、世界中で激化するAIの開発競争が浮かび上がってきます。

AIの開発には大量のデータが必要になりますが、Twitterにはさまざまな言語で書かれたテキストが効率的に処理できる形で蓄積されており、データセットとして有用といえます。

こうした用途を想定して、Twitterは有料のAPIを提供しており、これを契約すれば大量のツイートを取得してAIの開発に利用できます。

しかしこのAPIはマスク氏の体制で大幅に値上げされ、AIに取り組むスタートアップや研究者にとって受け入れがたい水準になっているとの声が上がっていました。

これに対して、スクレイピングという手法を使えば、Webブラウザーでユーザーが見ているのと同じデータを無料で取得できてしまいます。

マスク氏の説明によればこれが急激に増えており、Twitterのデータを勝手に取得された上にサーバーの負荷も高まるという、踏んだり蹴ったりの状態だったようです。

一例としては、ChatGPT用のWebブラウザー拡張がTwiterのデータを取得できるという機能について、マスク氏は不満を感じていたようです。

一般に、Web上に公開されているデータを外部から取得すること自体には、問題がないと考えられます。しかしTwitterのサービス利用規約では、以下のような文言でスクレイピングを禁止しています。

本サービスへのクローリングは、robots.txtファイルの定めによる場合は認められていますが、当社による事前の同意がないまま本サービスのスクレイピングをすることは明示的に禁止されています

Twitterサービス利用規約

この利用規約はTwitterの「ユーザー」に向けたものですが、ログインせずにスクレイピングをしている人にも適用されるかどうかはよく分かりません(何をもってスクレイピングとするかの定義を含めて)。

それはさておき、Twitterは有料でAPIを提供している以上、無料でデータを取得しようとする試みを放置することはできないでしょう。

こうした状況に業を煮やして導入されたと思われるのが、6月30日に話題となったWebからのアクセス時にログインを求めるという変更です。

ただ、この変更に際して、無限にAPIを呼び出すようなバグが混入していたことが指摘されており、これがDDoS攻撃のように機能することで、マスク氏のいう「極端なレベルのアクセス」に影響した可能性はあります。

現時点で確認できる範囲では、このバグはすでに対策されたようです(7月3日午前1時ごろ、未認証アカウントにおいてAPI呼び出しが規制された状態では再現することを確認しました)。

特定の条件下でAPIを呼び出し続けてしまう現象(Chromeのデベロッパーツールにて、筆者作成)
特定の条件下でAPIを呼び出し続けてしまう現象(Chromeのデベロッパーツールにて、筆者作成)

マスク氏が発表した新たな制限では、新規アカウントへの制限が特に強いことから、新規アカウントを大量に作るような動きを警戒していることがうかがえます。

いま分かっている範囲での印象としては、大量のデータを求め続けるAIと、その需要を収益につなげたいTwitterの間でミスマッチが起きていることが、閲覧制限の背景として見えてきます。

ここから解決策の1つとして導き出されるのは、APIの値下げでしょう。スクレイピングはWeb側の仕様変更で動作が止まるなど信頼性が低く、リソース消費も大きいといった問題点があります。

もし正規のAPIを十分に安く使えるのであれば、誰もスクレイピングなどしたくないわけです。また、結果的にはそうしたほうがTwitterの収益やエコシステム全体の価値を押し上げる可能性があります。

気になる「安定感」の欠如

最近、Twitterの不安定化が無視できないレベルになりつつあり、ユーザーの間でも不満が高まっているように感じられます。

今回の仕様変更についても、事前の予告なしに実施されています。新機能を本番環境に直接投入することでユーザーが不具合に直面するケースがみられるのも、安定感を欠く印象を強めています。

こうした問題の中にはマスク氏による買収以前から受け継がれてきた負債も含まれていると考えられるものの、そこに大規模な人員削減が拍車をかけている印象です。

これでは広告主やAPIの大口顧客の心象を害するのはもちろん、Twitterクローンとして注目される「Threads」のようなアプリに対しては、付け入る隙を与えることになるでしょう。

追記:

7月4日、Metaが新アプリ「Threads」の提供開始を予告しました。こちらに記事化しています。

どうなるTwitter閲覧制限 「移行先」求める動きも

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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