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命運は32年前に決まっていた!? 廃止になる公算が高い木次線末端区間(出雲横田~備後落合)

清水要鉄道・旅行ライター
備後落合に到着した木次線のキハ120

23日、JR西日本山陰支社は木次線の末端区間(出雲横田~備後落合間)の在り方について沿線自治体と協議を行う意向を示した。大量輸送を目的とする鉄道の特性を発揮できていないことが理由で、存廃を巡る協議に発展にするものと思われる。

こうしたJRの意向に対し、島根県の丸山達也知事は「廃止前提であれば応じられない」と反発。既に協議入りしており、JRと広島県のすれ違いにより紛糾している芸備線末端区間などと同じ道を辿る公算が高い。

木次線で活躍するキハ120(出雲横田にて)
木次線で活躍するキハ120(出雲横田にて)

木次線は山陰本線の宍道駅(松江市)を起点に、雲南市中心部の木次駅、仁多郡奥出雲町の出雲三成駅・出雲横田駅を経て広島との県境を越えた庄原市西城町の芸備線備後落合駅との81.9キロを結ぶローカル線だ。全線に渡って利用者が少ないものの、奥出雲町の中心に近い出雲横田駅までは辛うじて利用がある。今回、問題となる出雲横田~備後落合間29.6キロは島根県と広島県の県境区間にあたり、令和4(2022)年度の輸送密度は54人/日と極めて少ない。JR北海道が廃止を進めている「赤色線区」の輸送密度が200人/日以下であることを考えるといかに少ないかがわかるであろう。

車内から見たおろちループ
車内から見たおろちループ

それにしても木次線末端区間はなぜこれほどまでに利用者が少ないのか。そのカギを握っているのが出雲坂根~三井野原間の車窓に見える「おろちループ」だ。車内から見るおろちループは木次線の車窓の白眉だが、このおろちループこそ木次線の命運を悪い方向に決めてしまったといっても過言ではない。

出雲坂根~三井野原間の国道314号旧道(通行止)
出雲坂根~三井野原間の国道314号旧道(通行止)

木次線は国鉄時代から利用者が少なく、「特定地方交通線」として廃止されてもおかしくない利用者数だったが、「沿線道路が未整備である」ことを理由に廃止を免れた。このような理由で生き延びた路線は、沿線道路が整備されてしまえば必然的に存在価値を失う。木次線にとっての沿線道路は国道314号線で、出雲坂根~三井野原間は長らくつづら折りの険しい山道であったが、平成4(1992)年4月に高規格の「おろちループ」が開通し、以前よりも早く安全に高低差を克服できるようになった。この時点で木次線末端区間は存在意義を失ってしまったと見做すこともできる。深名線のように沿線道路が整備されたのを機に廃止されることなく、32年も残ってきたのが奇跡なのかもしれない。

油木駅に停車するキハ120
油木駅に停車するキハ120

木次線末端区間は全国的に見ても珍しい「冬眠する路線」としても知られる。島根・広島県境は日本でも屈指の豪雪地帯で、急峻な地形ゆえに除雪が雪崩を誘発する恐れもあることから、除雪をせずに運休してタクシー代行としているのだ。利用者数を考えると、危険を冒して除雪するよりもタクシーをチャーターしたほうが安上がりなのだろう。平成24(2012)年度以降は毎年冬期に運休している。タクシー代行にできるのは並行する国道314号線が整備されたおかげで、未整備を理由に木次線が廃止を免れたことを思えば皮肉だ。タクシーの方が早く着いてしまうため、列車の時刻表に合わせるべく時間調整も行われている。

八川を発車するキハ120
八川を発車するキハ120

このように鉄道路線としてはもはや「限界」の木次線だが、意外なことにこれまで廃止の話はあまり具体的に出てこなかった。ただし、廃止へ向けた「縮退」を感じさせる動きは以前からあり、その一つが前述の「冬眠」、そして観光列車「奥出雲おろち号」の廃止である。木次線で運行されていたトロッコ列車「奥出雲おろち号」は車両の老朽化により令和5(2023)年11月23日に運転を終了、それに代わる観光列車として「あめつち」が令和6(2024)年4月7日から運行を開始したのだが、末端区間には乗り入れず出雲横田折り返しとなったのだ。JRとしてもこの時点で既に在り方を協議する方針を固めていたであろうことは想像に難くない。

スイッチバックの出雲坂根駅
スイッチバックの出雲坂根駅

木次線末端区間の存廃協議は紛糾したとしても、最終的には廃止に合意という形で終わる可能性が高い。島根県が木次線の残る区間や山陰本線に対する前向きな投資を条件に廃止に合意という決着も考えられる。今回、協議の対象から外れた宍道~出雲横田間も令和4(2022)年度の輸送密度は237人/日と少なく、廃止になってもおかしくない数値だが、末端区間に比べれば沿線に市街地や観光地もあるため、活用次第では存続できる路線といっていい。末端区間の廃止はしょうがないことかもしれないが、残る区間の今後については前向きな方向で議論されてほしいものだ。

末端区間を走る列車は一日わずか3往復。備後落合での芸備線との接続の関係で昼の一往復に鉄道ファンが集中することから、乗車は18きっぷシーズンを避けるのが無難だろう。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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