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今や無人の秘境駅…中国山地の接続駅の栄枯盛衰 芸備線・木次線 備後落合駅(広島県庄原市)

清水要鉄道・旅行ライター
備後落合駅

 2つの路線の接続駅、こう聞いて多くの人が思い浮かべるのはそれなりの規模を持った駅だろう。たとえローカル線であっても接続駅とあらば、列車の到着時は乗換客で賑わうし、そうした人たちを相手に駅前には店が建つだろう。

 だが、そんな接続駅に対するイメージを覆すような駅が中国山地の奥深い山中に存在する。芸備線と木次線の接続する備後落合駅だ。三方向から列車がやってくる接続駅でありながら鉄道ファンには「秘境駅」としてその名を知られている。

駅舎 開業時のもので今年で築89年を迎える
駅舎 開業時のもので今年で築89年を迎える

 備後落合駅は昭和10(1935)年12月20日、備後西城から延伸してきた庄原線の終点として開業。翌昭和11(1936)年10月10日には小奴可(おぬか)から伸びてきた三神線が当駅で庄原線と繋がり、庄原線は三神線に編入されている。三神線は昭和12(1937)年7月1日に国有化された芸備鉄道を編入して芸備線となった。

 当駅に集まる三方向の線路のうち、最後に開業したのが八川から伸びてきた木次線で、昭和12(1937)年12月12日のことだった。こうして開業から2年にして接続駅となった備後落合駅は、中国山地に置かれたジャンクションとして大いなる繁栄を見せることとなる。

かつては官舎などが建っていた駅横の空き地
かつては官舎などが建っていた駅横の空き地

 高速道路など影も形もなく、飛行機も発達していなかった当時、交通の主役は鉄道であった。今でこそローカル線に過ぎない芸備線と木次線も山陽と山陰を結ぶ「陰陽連絡線」としての使命を持っており、当然そんな二つの路線が接続する備後落合駅も交通の要衝として栄えることとなる。駅には機関区、保線分区、通信分区が併設され、最盛期には200人以上の職員が勤務していたという。

 駅で働くそれらの人たちは必然的に駅のそばに住む必要があり、駅のそばには官舎が建ち並び、職員やその家族相手の商店や食堂・理髪店も営業していた。最盛期には「落合銀座」と呼ばれるほどの活況を呈していたという。

 しかしそんな時代も数十年しか続かなかった。蒸気機関車の牽く客車列車から気動車への置き換えや自動化により、鉄道が以前ほど運行に人員を必要としなくなったのだ。そこに過疎化や車社会の到来が追い討ちをかける。戦前の規格で建設されているためにスピードを出せない上に、人口の希薄な山間を行く芸備線・木次線は、高規格の道路を走るバスや自家用車に乗客を奪われて、一両の気動車しか走らない閑散ローカル線へと転落していった。

駅舎内
駅舎内

 接続駅ゆえに近隣駅が無人化される中で駅員が配置されていた備後落合駅が無人化されたのは、木次線がCTC(列車集中制御)化された平成9(1997)年3月22日のことだった。その後、出札業務はしばらくの間駅前の旅館に委託されていたものの、今では完全な無人駅で、その旅館も廃業して跡形もなくなっている。

 無人になった駅舎内には駅の歴史を伝える掲示や写真が飾られている。列車が来ない時間帯でも車やバイクで駅を訪れる人がいるものの、その訪問者すらいない時はかつての栄華が幻かのように静まり返っている。

ホーム
ホーム

 備後落合駅の構内は2面3線。駅舎側の1番線が木次線の出雲横田・宍道方面、2番線が芸備線の備後庄原・三次方面、3番線が芸備線の東城・新見方面だ。直通する列車はなく、三方向から列車がやってきては折り返すというダイヤが組まれている。

 三次方面からの最終列車は長らく当駅で夜間滞泊して翌朝の三次方面の始発列車となる運用が組まれていたが、令和3(2021)年10月ダイヤ改正で当該列車が備後庄原止まりに変更されたため、備後庄原で夜間滞泊を行って翌朝に当駅に回送されるようになった。

備後落合で並ぶ芸備線の列車
備後落合で並ぶ芸備線の列車

 備後落合駅を発車する列車は三次方面が一番多くて一日5本、新見方面と出雲横田方面はそれぞれ一日3本しかない。三方向の列車が揃うのは一日わずか一回、14時台のみだ。そもそも当駅に来る列車自体が限られているということもあって、18きっぷシーズンにはかなりの賑わいも見せるが、そのほとんどは旅行者で地元住民の利用は少ない。備後落合駅の令和3(2021)年度の一日平均乗車人員は14人だった。

駅前を流れる小鳥原川
駅前を流れる小鳥原川

 「落合」という地名は合流地点を意味する地名で、川と川との合流地点に名付けられることが多い。当駅の西では小鳥原川と西城川が合流しているが、由来は川ではなく鉄道の合流地点であるからだという説がある。この説は人口に膾炙しているものの、はっきりとした出典がないだけに、あくまで一つの説として捉えておいた方がよさそうだ。

 備後落合で「落ち合う」のは鉄道や川だけではない。駅の西方と東方では国道314号と国道183号がそれぞれ落ち合っていて、駅の前後の約1キロは重複区間となっているのだ。古くからの道路や鉄道は川に沿って建設されることが多く、必然的に備後落合駅は川、鉄道、道路の3つの結節点となっている。

 駅開業時の所在地は比婆郡美古登村(みことそん)で、町村制までは奴可郡八鳥村だった。もし地名から取るなら「美古登」駅か「八鳥」駅で、これなら他と被らないので国名の「備後」を冠する必要もないが、なぜ「落合」を駅名として選んだのだろうか。「備後落合」は謎が多い駅名である。

 備後落合駅が「備後」を冠する理由となったのは、既に北海道の根室本線に「落合」駅があったからだが、この落合駅は今年の4月1日に廃止されている。

小鳥原川対岸から見た備後落合駅
小鳥原川対岸から見た備後落合駅

 かつては交通の要衝としての栄華を誇ったものの、時代の流れによって凋落し、路線そのものの存廃が危ぶまれる備後落合駅。多くの職員が詰めていた駅舎は無人となり、駅前の小集落も空き家が目立つ。現役の駅ながら「諸行無常」をこれほど感じさせてくれる駅もそうないだろう。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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