新幹線の引込線が隣接!木造駅舎も残るターミナルの隣駅 芸備線 矢賀駅(広島県広島市東区)
中国地方有数のターミナル・広島駅から芸備線で一駅のところにあるのが矢賀駅だ。広島駅からはわずか2.2キロメートルだが、山が近い立地も相俟ってターミナルの隣駅とは思えないほどのどかな雰囲気だ。
駅の裏手には山陽新幹線の車両基地への引込線が通っている。高架線だけでなくその後ろの一本の線路も新幹線の引込線で、時間帯によってはN700系が停車している様子も見ることができる。そのさらに向こうは貨物ターミナルだ。
ホームとは屋根なし跨線橋で結ばれている駅舎は、どっしりとした印象の木造モルタルの古いものだ。築年は不詳だが、デザインからして戦中~戦後の建物だろう。矢賀駅の開業は昭和4(1929)年3月20日。当時の芸備線は芸備鉄道という私鉄で、矢賀駅はガソリンカー専用の停留場だった。昭和初期、それまで主役だった機関車牽引の列車に加えてガソリンカーが登場すると、全国各地にガソリンカー専用の停留場が開設されたが、矢賀駅もその一つだ。ガソリンカー専用の駅はホームが短く、編成の長い客車列車は停車することができなかった。芸備鉄道が昭和12(1937)年7月1日に国有化されてからも引き続きガソリンカー専用の停留場として使われたが、戦争の激化でガソリンが手に入りにくくなるとガソリンカーは廃止され、矢賀停留場も昭和16(1941)年8月10日に営業を休止する。
停留場の中には戦時中に休止されたまま廃止となったものも数多く存在したが、矢賀停留場は幸運にも一年後の昭和17(1942)年10月28日に「矢賀信号場」として復活、昭和18(1943)年4月2日には客車列車も停車する正式な駅に昇格した。駅舎とホームは造りから見ておそらくこの昇格時のもので、もしそうなら今年でちょうど80年目を迎えることになる。
駅舎内は椅子が壁際に設置されているためか広々とした印象だ。みどりの窓口も設置されており、営業時間は平日が7時から18時40分、休日が8時50分から18時40分だ。閉鎖時間は9時10分から9時50分、11時10分から13時30分、16時から16時15分。広島地区でもみどりの窓口の廃止が相次いでいることを考えると、この駅からもいずれ無くなってしまうのかもしれない。
駅舎の隣にはこれまた古そうな便所がある。築年を示す建物財産標には昭和18年と刻まれており、駅昇格時に建てられたもののようだ。臭気抜きのために真ん中だけ高く突き出た屋根が、甲信越や北関東に多い蚕室付きの木造家屋を連想させる。
ホーム上の上屋も年季の入った木造のものだ。こちらも駅昇格時のものだろう。駅舎と比べると注目されることは少ないものの、こうした木造上屋も全国的に数を減らしつつあり、今では貴重な存在だ。
ターミナルから至近の距離で昔ながらの姿を留める矢賀駅。列車の本数もだいたい30分に一本とローカル線にしては多いので、行ってみてはいかがだろうか。