衝撃のカルロス・ゴーン追放劇の背後に何があるか
フーテン老人世直し録(405)
霜月某日
衝撃の逮捕劇である。11月19日夕刻に「東京地検特捜部が金融商品取引法違反容疑で日産自動車のカルロス・ゴーン会長を事情聴取」との情報が流れると、日産自動車は「重大な不正行為について」と題する文書を公表し、ゴーン会長とグレゴリー・ケリー代表取締役が長年にわたりゴーン会長の報酬額を実際より減額した金額で有価証券報告書に記載していたことを明らかにした。
日産の文書には「内部通報があって数か月にわたり内部調査を行ってきた」とあるが、有価証券報告書に記載された内容の裏表を会社の人間が知らないはずはない。内部通報などなくとも知っていた。ただこれまで問題にすることが出来なかったのをこの時点で問題にしたのだとフーテンは受け止めた。
また文書には「当社は、これまで検察当局に対し情報を提供するとともに、当局の捜査に全面的に協力してまいりました」とあるので、日産の方から検察に通報したように読めるが、だとすれば、社内の力関係では不正を正すことが難しいので検察権力の助けを借りたことになる。
検察に逮捕され容疑者となれば取締役会で解任する大義名分が立つ。逆に言えば社内の内部調査で不正を見つけても解任できない状況があった。検察の逮捕劇と日産の文書公表や社長会見の流れには緊密な連携ぶりが伺える。
そして日産は22日の取締役会でゴーン代表取締役会長とケリー代表取締役を解任する方針を明らかにした。目的は何かを考えれば、カリスマ経営者として絶対的権力を持つゴーン会長の「追放」である。それを日産と検察が連携して行った。
しかし日産が検察権力の助けを借りたことは、日産自身も捜査の対象になることから相応のリスクがある。従って当初から「司法取引」があったのではないかと見られた。実際に検察は「法務部門の外国人」が司法取引の対象になったことを明らかにした。
「司法取引」は罪を軽減する見返りに捜査に協力させる制度で、日本では今年6月から導入された。捜査当局には都合が良いが、罪を免れようとする犯罪者が他者を罪に陥れようとして嘘をつく危険性もある。この事件は日本で「司法取引」が適用される2例目だというが、それがなければ摘発は難しかった。
またこの捜査を可能にしたのは金融庁が2010年3月期から上場企業役員の報酬1億円以上の情報開示を義務付けた法改正がある。今回の容疑事実はその法改正以降のものが対象とされているので、以前はできなかったことができるようになったことで摘発に繋がったと見ることができる。
ゴーン会長「追放」のために金融商品取引法の改正や司法取引の導入がなされたとは思わないが、しかしそれらがなければ今回の「追放劇」はなかった可能性がある。それではなぜゴーン会長は「追放」されなければならなかったのか。
まだ事件は始まったばかりで詳細が表には出てきていない。従って想像の域を出ない話になるが、フーテンは世界的な自動車再編と無関係ではない気がする。日産がルノーによる完全子会社化を許すのかどうかという話である。
バブル崩壊後に経営を悪化させた日産は、1999年にフランスの自動車メーカーであるルノーと資本提携しその傘下で再生を図ることにした。そこで送り込まれたのがルノーのカルロス・ゴーン副社長である。彼は厳しいリストラ策によって日産の業績をV字回復させ、素晴らしい経営者として評価を高めた。
その後、2016年には燃費不正問題で経営危機に陥った三菱自動車を傘下に収め、ルノー、日産、三菱の3社連合は、2017年の販売台数でトヨタグループを抜きフォルクスワーゲングループに次ぐ世界第2位の地位を獲得した。この3社を束ねるのがルノーで最高経営責任者、日産で代表取締役会長、三菱でも代表取締役会長を務めるゴーン容疑者である。
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