日本の民主主義を前進させる「天皇のお言葉」を捻じ曲げようとする政治家たち
フーテン老人世直し録(245)
葉月某日
日本の民主主義を間違いなく前進させると思う「天皇のお言葉」を捻じ曲げようとする勢力が与野党の中に存在する。
その勢力は「天皇のお言葉」に「速やかに応える」ため「時間のかかる」皇室典範の改正には手を付けず、特別立法による一代限りの生前退位を実現させようとしている。この勢力をフーテンは「民主主義の敵」と考える。
天皇のビデオメッセージを何度見直しても、天皇が願っているのは一代限りの生前退位ではない。常に国民に寄り添い国民の安寧と幸せを祈る「象徴天皇制」が安定的に継続していくことを願っている。
それは明治からの天皇の在り方を根本的に見直し、古代から日本の歴史に刻み込まれてきた「天皇の道」を今一度振り返ることで、「象徴天皇制」を未来につなげようとする願いである。
そしてそれは日本の民主主義を前進させることはあっても決して後退させるものではない。「お言葉」の直後ブログに書いたが、イギリスのジョージ5世は議会の貴族院と庶民院が対立した時、庶民院の側に立つことを宣言し、それが貴族院に決定権を失わせ、イギリス議会は初めて本格的な民主主義の議会となった。100年ほど前の話である。
明治以来の天皇は現人神として絶対君主のように思われたが、実のところは薩長藩閥の官僚支配に政治利用されてきた存在である。日本民主主義の源流となる自由民権運動は国会の開設を要求し、第一回の選挙で選ばれた衆議院議員が官僚政府の予算案を否決するが、政府は天皇の大権を理由に否決を拒み、議員の切り崩しを図って強引に予算を成立させた。
「東洋のルソー」と呼ばれた思想家中江兆民はこれに怒り、衆議院議員の職を辞すが、天皇を支配の道具に利用した官僚政府は徹底して民主主義の勃興を弾圧、それが自由民権運動家を急進的な運動に追い込む。兆民の弟子である幸徳秋水は無政府主義者となり、明治天皇暗殺の容疑をかけられて死刑となるが、事件には官僚政府による捏造の疑いがあった。
明治天皇は日清戦争にも日露戦争にも反対したが、官僚たちはその声を聞かず、昭和になると今度は軍部が天皇を政治利用する。こうして戦前の天皇は官僚と軍部による民主主義抑圧の強権政治に利用され続けた。
しかし古代から続く天皇制の本質は大和言葉で「うしはく」と表現される強権政治にあるのではない。むしろ国民に知らしめ、国民とともに判断する「しらす」の政治にあることをフーテンは片山杜秀著『未完のファシズム』(新潮選書)で知った。
『古事記』では、大国主神らが領土領民を力で支配する「うしはく」の政治を行っていたが、天照大神はみんなで情報を共有し、みんなで協力しながら国づくりをする「しらす」の政治を掲げて国譲りを迫る。大国主神は納得して国を譲り、以来、天皇制の本質は「しらす」になった。
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