「TAKEO KIKUCHI」を含む商標も今後の登録が困難に
他人の氏名を含む商標は登録できないとする商標法4条1項8号の特許庁での運用が非現実的に厳しく、株式会社マツモトキヨシが「マツモトキヨシ」を含む商標を出願しても拒絶になってしまう件については昨日書きました。
昨日の記事では「ファッションデザイナーが自分の氏名を含むブランド名を商標登録したくてもできないケースが生じ、かなり影響が大きいです」との懸念を書いたのですが、実際にこのようなケースが出てしまいました。
著名なデザイナー菊池武夫氏の名前の英字表記(TAKEO KIKUCHI)を含む商標登録出願(商願2018-146014)(タイトル画像参照)(出願人は株式会社ワールド)が4条1項8号を理由に2020年7月20日に拒絶査定になっています(なお、10月20日までに不服審判を請求可能ですが、特許情報プラットフォーム上では確認できていません)。また、この商標のTAKEO KIKUCHI部分をKIKUCHI TAKEOに変更しただけの商標(商願2018-146014)も同時に出願されていますが、同じ結果になっています。
拒絶の理由は映画監督の菊地健雄氏の承諾を得てないというものです。出願人は、消費者は周知著名なデザイナーブランドのTAKEO KIKUCHIの商標と認識するのであって、映画監督の菊池健雄氏を想起することはないと主張していますが、審査官は、周知性は関係ないとして一蹴しています。今までの審査結果、審決、判決に合致しているとは言え、ちょっと現実に即していないのではと思ってしまいます。
イヴ・サンローラン、クリスチャン・ディオール等々、デザイナーが自分の氏名をブランドとすることは世界的な慣行です。そして、それを商標登録することも可能です。日本でも少し前までは可能でした(実際、TAKEO KIKUCHIおよびそれを含む商標も多数登録されています)。それが、急に日本でだけ商標登録が不可能になってしまうのもどうしたものかと思います。山本寛斎、三宅一生、森英恵等、(同じ読みの人を含めて)同姓同名がいる可能性が低い(ゼロではないと思いますが)人であればまだしも、同姓同名がいる可能性が高い人が日本において自分の氏名を含むブランドを商標登録することはきわめて困難な状況です。なお、商標登録ができない(独占権が得られない)という話であって、自分で商標を使用するだけであれば特に問題はありませんので念のため。
追記:いろいろ調べてみると著名デザイナー山本耀司氏(の会社)の出願「ヨウジヤマモト」(商願2019-023948)にも、同姓同名が少なくとも90人いるがそれらの人々の承諾が得られていないので4条1項8号に相当するとの拒絶理由が通知されています。出願人は「ヤマモト ヨウジ」ではなく「ヨウジヤマモト」であり消費者は人名ではなく著名なファッションブランドと認識すると応答していますが今までの判例に基づいて考えると厳しい状況と思われます。