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アフリカ支援に歯止めをかける中国――アフリカは中国依存を抜け出すか

六辻彰二国際政治学者
中国の援助で建設されたエチオピアとジブチを結ぶ鉄道(2016.10.5)(写真:ロイター/アフロ)
  • これまで中国はアフリカでローンを組んだインフラ整備を大々的に行ってきたが、コロナ禍はこれにブレーキをかけている
  • その一方で、中国はインフラ整備以外の形でアフリカ進出を目指している
  • コロナをきっかけ中国とアフリカの間にはギクシャクするシーンも見受けられるが、他の国がアフリカへの関与を控えるなか、今後も中国の存在感に大きな変化はないとみられる

 中国はコロナによるブレーキなど、自国の都合からアフリカ向けの貸し付けを減らしてきたが、それでもアフリカは中国に見切りをつけられない。

かつてほど気前よくなくなった中国

 「人間性がウィルスに打ち勝ち、中国とアフリカの人々がよりよい明日を迎える用意があることを確信しています」。習近平国家主席は6月、アフリカ各国の首脳とのオンライン会議で基調演説をこのように締めくくり、コロナに直面してもアフリカとの強い結びつきが変わらないことを強調した

 その一方で、中国のアフリカ進出はコロナによって曲がり角を迎えている。

 中国はこれまでアフリカで道路、鉄道、港湾などのインフラ建設を大規模に行い、そのための資金のほとんどは相手国へのローンで賄ってきた(いわゆるパンダローン)。これはユーラシア大陸からアフリカ大陸にかけての「一帯一路」構想に沿ったものだ。

 ところが、この数年、中国は以前ほど気前よく貸付を行わなくなった。その最大の原因は米中貿易戦争により、中国自身の経済にブレーキがかかったことにある。

 しかし、それだけでなく、多額のローンが「債務のワナ」をもたらすという批判が国際的に噴出した(その危険性については専門家の間では10年も前から言われてきたが)ことや、さらにアフリカ側の汚職や非効率によって当初の期待ほどの成果が望みにくくなったことなども無視できない。

 こうした背景のもと、コロナ以前からすでに中国は、例えば472キロメートルに及ぶ長距離鉄道を建設したケニアで、別路線の鉄道建設のための36億ドルの融資の要望が出たことを断ったといわれる。また、親中派の代表格ともいえるジンバブエでも、昨年までに約13億ドル相当の援助が停止されたと報じられている。

 コロナで中国経済も大きなダメージを受けたことを考えると、この傾向に拍車がかかるとみてよい。

中国は債務を放棄するか

 その一方で、これまでに積み上がった中国の債権は、基本的にそのままだ。

 6月のオンライン首脳会談で習近平国家主席は、アフリカ各国首脳に対して、2020年末までに満期を迎える無利子ローンの返済免除を示唆した。これに関して、中国政府の経済政策にも影響力をもつ北京大学の林毅夫教授は、返済免除の対象がさらに増えると見込んでいる。

 とはいえ、中国による債務放棄を過大評価するべきではないだろう。

 中国はコロナ以前から部分的に債務放棄に応じており、2000年からのその総額は40億ドルにのぼる。中国政府はしばしば、これを「債務のワナ」批判を否定する根拠にしてきた。

 ただし、これまでの免除額は中国の貸付額からみて決して大きくない。中国・アフリカ関係の世界的権威の一人、ジョンズホプキンス大学のデボラ・ブラウチガム教授は、2000年から2018年までに中国がアフリカに貸し付けたローンの総額を1520億ドルと試算する。これに照らすと、中国がこれまでに免除した債務は全体の3%にも満たない

 だとすると、中国のいう「債務を免除してきた」は、ウソとまではいえないが、かなり大げさな表現といえる。そのため、今後とも中国が大規模な債務放棄に向かう公算は小さい。

アフリカの静けさを生むもの

 ローンが頭打ちになり、債務放棄があまり進まないことから、アフリカで中国の存在感が低下するのでは、という見方もあるだろう。

 しかし、コトはそう単純ではない。

 習近平国家首席とのリモート首脳会議でアフリカ各国首脳は、むしろ中国の協力に謝意を示している。

 コロナ蔓延をきっかけにアフリカでは反中感情がそれまでになく高まり、中国に滞在していたアフリカ人留学生が差別的に扱われた問題が火に油を注いだ。

 それでもアフリカが中国との関係を重視せざるを得ないのは、たとえローンが頭打ちになっても、それでも中国ほどアフリカに資金を回す意思・能力のある国が他にないからだ。

 例えば、習近平は6月のアフリカ諸国首脳とのオンライン会議でアフリカ疾病管理予防センターの本部を新たに建設することを約束。さらに、中国で開発中のコロナワクチンが完成すれば、最初の供給地の一つにアフリカが入るとも明言した。

 それ以外にも、コロナ蔓延を受けて中国からはこれまでにアフリカへ医療物資などを含めて28億ドル分の支援が提供されている。

 これに対して、例えばアメリカ政府のアフリカ向けコロナ支援は6月段階で3億6110万ドルだったが、その後も大幅に増えてはない。他の西側先進国も内向き志向が強まるなか、海外への支援は後回しになりがちだ。日本でも、この状況で「アフリカ支援を増やすべき」という意見にどれだけ支持が集まるだろうか。

 つまり、これまでと全く同じとはいかなくとも、アフリカは基本的に中国との関係を重視せざるを得ない。

中国のシフトチェンジ

 もっとも、中国はただ現状を維持しようとしているのではなく、これまでよりさらに踏み込んだアプローチを目指しているとみられる。そこで中国の「隠し球」になるのが、中国の民間企業だ

 これまで中国のアフリカ向け投資は巨大な国営企業によるものが中心だったが、すでに中国の民間企業はGDPの6割を占めるに至っている。そのうえ、アメリカやヨーロッパで中国企業は規制を受け始め、より規制のユルい新たな投資対象を求めている。

 その一方で、中国では習近平への権力集中にともない、民間企業経営者に「愛国主義」や「産業報国」を求めるなどの統制が強まっている。中国から世界に向けてのコロナ関連支援のおよそ半分は民間企業によるものだが、これも中国政府の意向を反映したものとみてよいだろう。

 こうした背景のもと、アメリカ議会にも発言力をもつ有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のハンナ・ライダー上級研究員は、中国から今後ローンではなく民間投資がアフリカに向かうと予測している。

 これまでも中国は状況に応じてアプローチに変更を加えながらアフリカ進出を進めてきた。コロナ禍に直面しても中国は、政府間ローンから民間投資に軸足を移しながらも、アフリカ進出のスピードと規模を落とさないものとみられる。いわば中国のアフリカ進出は、これからこそ国ぐるみの本番とさえいえる。

 それがアフリカ諸国に中国を無視できなくすることは、いうまでもない。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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