阪神vsオリックスの“関西ダービー”ジュニア版 両チームの女子捕手に注目!
■ジュニア版“関西ダービー”
関西には2つのプロ野球チームがある。阪神タイガースとオリックス・バファローズ。リーグが違うこの2チームは、セパ交流戦で対戦するときに「関西ダービー」などと称される。
現在、毎週末“関西ダービー”が行われている。といっても年末に開催される「NPB12球団ジュニアトーナメント」に向けての練習試合だ。本大会ではブロックが違うこの両チームだが、それぞれが2連勝すれば決勝トーナメントに進み、準決勝または決勝で相まみえる可能性がある。(NPB12球団ジュニアトーナメント)
さて、今年はこの両球団いずれにも女子捕手がいる。近年、女子野球は大きな躍進を見せており、競技人口が増えるとともに全国の高校や大学の女子硬式野球部、クラブチームが増加している。女子の高校野球選手権大会の決勝戦も、2年連続で甲子園球場で開催された。
また、NPB球団でも「埼玉西武ライオンズ・レディース」「阪神タイガースWomen」「ジャイアンツ女子チーム」など、女子野球のクラブチームが活動するようになった。
ジュニアチームのセレクションでも、以前より女子選手の受験割合が大きくなってきている。では、男子選手に負けない高い能力で合格した関西2球団の女子捕手を紹介しよう。
■「阪神タイガースジュニア」岩田瑠花 #10
新旭少年野球スポーツ少年団
身長159cm、50m走6秒8、遠投75m
◆キャッチャーを志願
小さいころからお父さんが野球をする姿を見てきた岩田瑠花選手が、現在所属するチームに入団したのはなんと6歳のときだ。
「お父さんがホームランを打ってかっこいいなと思って、自分もそういう舞台でやりたいなと思いました」。
最初はショートやサード、ファーストなど内野を守っていたが、4年生になったころ、捕手を志願した。
「先輩のキャッチャーがかっこよかった。その先輩はキャプテンもしていて、内野を引っ張っていたし、キャッチャーとしてピッチャーを盛り上げて、そこから(その空気感を)どんどん広げていくのが、すごくかっこよかった。自分もあんなふうになりたいなと思って監督に言ったら、やらせてくれました」。
お父さんに報告すると「頑張れ」と励ましてくれ、「ショーバン(ショートバウンド)を前に止めるとか、送球のときに握り替えを速くするとか、そういう練習を一緒にしています」と、練習にも熱心に付き合ってくれている。
キャッチャーのやりがいは「盗塁を刺したときに、みんなが『ナイスキャッチャー』と言ってくれるのが嬉しい」と盗塁刺に感じるという一方、「盗塁を刺すためにも、ピッチャーと相性を合わせることが大事。ジュニアとか最初は知らん人ばっかりやったから、どんどんしゃべっていって、お互いの相性をよくしていくことが難しかった」と、コミュニケーションを深めることに腐心したと語る。
◆タイガースジュニアは親子の夢
親子二人三脚でタイガースジュニアに入ることを目標に頑張ってきたが、昨年はお父さんが本大会を見に東京まで連れて行ってくれた。
「うまい人ばっかりいた。今までは自分よりうまい人なんていないと思っていたけど、自分より上の人ばっかりで、本当にすごいなと思いました」。
強い刺激を受けた。さらにうまくなりたいと士気が高まった。そして満を持して応募し、今夏のセレクションで最終テストまで進んだ。「めちゃくちゃ緊張していて、いつものように声も出せんかったし、成績も残せんかった。落ちるかなと思いました」とは言うが、そのポテンシャルはしっかりとアピールできていたようだ。
「合格の電話があったとき、家族全員、泣いてました。お父さんも(笑)」。
親子の夢がかない、岩田選手本人も嬉し涙にくれた。
ジュニアでは「みんな明るいし、からかってくれるから楽しい。まぁ、優しくはないけど(笑)」と、高いレベルのチームメイトたちを頼もしく感じている。「みんなが声を出してくれて、チームが盛り上がってる感じがとても楽しい」と、トップクラスでプレーできることを満喫する日々だ。
◆キャッチャーとして
キャッチャーとして心がけていることを、ポイント別に訊いた。
キャッチング⇒あまりミットを動かさず、ピッチャーが投げやすいように大きく構える。
ブロッキング⇒絶対に後ろに逸らさないように、死んでも止めたいと思っている。
リード⇒ピッチャーが崩れても「絶対に止めるから、思いきって投げてこい」とか、ピッチャーへの励ましの声をたくさん出す。
セカンドスロー⇒握り替えを速くして、ちゃんとベースの上に投げられるように意識している。
◆長所
自身を「なにごとにも真剣にやる性格」だという。たしかに常に真剣なのが伝わってくる。
ジュニアの中でもひときわ通る声の主のほうを見ると、必ずそこにいるのが岩田選手だ。「いけるよー!」「いいボール!」「自信もってー!」と、常に仲間を落ち着かせたり安心させたりするプラスの言葉を発している。ライバルでもある同じキャッチャーに対しても「ナイスキャッチャー!」と励ますことも多々ある。
ジュニアの練習試合ではキャッチャーでの出場機会は多くないが、ファーストやサードなど慣れないポジションでも懸命にプレーし、打席ではヘルメットが飛ぶくらいのフルスイングを見せる。また、出場しないときもバット引きやボール拾いなどのサポートも精力的に行っている。
◆直したいところ
「ここを直したい」というところを訊いてみると、「反抗期を直したいと思います」と照れくさそうに明かした。具体的には「(両親から)話しかけられても無視したり…。『ありがとう』とかも恥ずかしくて言えないので、ちゃんと言えるようにしたいです」と、素直に話すところがかわいらしい。
反抗期は、ごく自然な成長の過程を歩んでいるということだ。
◆お父さんの存在
照れくさいとはいうが、心の中は感謝の気持ちでいっぱいだ。
「お父さんは仕事で疲れていても絶対に練習をやってくれるし、瑠花がうまくなるためにいろいろ教えてくれるから、ありがたい」。
野球人としての先輩でもあるお父さんの存在は、絶大だ。
◆将来
将来は「女子プロ野球選手になりたい」という。残念ながら「女子プロ野球」は消滅したが、現在は先述したように女子のクラブチームを所有するNPB球団が増えはじめている。そういったチームに入り、「活躍する選手になりたい」と力を込める。
いずれまた、女子プロ野球が復活する可能性もある。憧れの森友哉選手のような「打てるキャッチャー」としての勇姿をぜひ見せてほしい。
■「オリックス・バファローズジュニア」田原ひより #7
兵庫大開少年団野球部
身長153cm、50m走7秒7、遠投70m
◆捕手を命じたのは監督である父だった
「野球を本格的に始めたのは4年生」という田原ひより選手には、6歳離れたお兄さんがいる。お父さんの草野球はもとより、お兄さんがずっと野球をやっていたのも見て、自身もやりたいと思いはじめた。
小学3年の終わりにチームの体験に行ったが、そこからコロナ禍で学校も一斉休校になり、入部できたのは4年の6月になった。
最初の1年はショートとピッチャーだったが、今年の3月、チームの正捕手が休んだ日に、自チームの監督であるお父さんからキャッチャーをするように命じられた。
「ほんまにやったことないし慣れないポジションだったので、言われたときは『えっ!』ってビックリしたけど、言われたポジションは全力でやろうと思いました。やってみたら、意外とできたんです」。
兄も肩のけがをするまでは、かつてキャッチャーをやっていた。「お父さんもたぶんキャッチャーをやってたと思う」というキャッチャー一家だ。
◆ほかのポジションとの違い
ほかのポジションと比べてもボールが当たることも多いし、青アザなど絶えないのではないかと尋ねると、田原選手はきょとんとした顔をして「まぁ、あるのはあるけど、そこまで怖くはない」と意に介さない。そんなことより、キャッチャーのおもしろさのほうが上回るようだ。
バッターに打たせないよう構えるところを変えたり、絶対に後ろに逸らしたりしないよう、自分で考えて工夫を凝らしているという。また、自チームと違って急造チームであるジュニアでは、投手陣のボールを受けて特徴を頭に入れるようにしている。
キャッチャーはプロテクターやレガースなどの防具も多く、その手入れにも時間を要する。田原選手もチームメイトと練習後の片づけをしたあと、ひとり黙々と用具を磨いている。自身を守ってくれる防具を愛おしそうにたいせつに扱う姿が印象的だ。
◆キャッチャーとして
同じくキャッチャーとして心がけていることをポイント別に訊いた。
キャッチング⇒低めがズレちゃうことがあるので、ミットを下から出すようにしている。
ブロッキング⇒コースの左右に外れるボールも、体で止めにいくようにしている。絶対に下に、前に落とすようにしている。
リード⇒右ピッチャー、左ピッチャーによっても違うけど、そのピッチャーの得意なボールを生かしたリードをするように考えている。
セカンドスロー⇒肩には自信があるので、ライナーでピシャッと、ノーバン(ノーバウンド)でストライクゾーンにいくようなボールを投げるようにする。
◆キャッチャーの魅力とは
田原選手はキャッチャーの魅力をこんなふうに表現する。
「野球は9人でやるスポーツだけど、キャッチャーは1人だけ反対方向を向いているから、ほかの選手たちに状況とか判断とかの説明や指示ができる。たとえば『ランナーが進んだよ』とか、どこに投げろとか、そういうキャッチャーの指示がとても重要だと思います」。
グラウンドに出れば、監督の分身でもあるわけだ。自身がチームを動かせることにやりがいを見出す一方、「瞬時に声を出さないといけないので、その判断が難しい」とも痛感しているという。
そのために「普通に家でプロ野球とかをテレビで見ているときに、すぐに声に出して言ったりしている」と、判断力ともに“声の瞬発力”も鍛えているというから驚きだ。常に生活の中、そして頭の中に野球があるようだ。
◆長所
自身の性格を「負けず嫌い」と言い、「普段、仲いい友だちとかと同じことをしていて、その友だちのほうがうまかったら『なんでやねん』って、悔しくなる。めっちゃ褒めるけど、心の中では…(笑)」と野球以外でも、どんなことでも負けたくないと強気な表情を見せる。
アスリートとして、負けず嫌いは大きな長所だ。負けたくないと思うからこそ向上する。
◆直したいところ
「思いつきで行動してしまう」というところを直したいという。「最後まで考えずに、パッと思いついたらすぐにやっちゃう。あとから『やっぱあかんかった』ってなることがけっこうあるんで…」と、省みる。
とはいうものの、その行動力がプラスに働くこともきっとあるだろう。
◆お父さんの存在
田原選手にとってもお父さんの存在はとてつもなく大きい。毎日二人でバッティングセンターに行き、打撃指導をしてもらっている。
「1ゲーム打って終わったあとに、『今のはちょっとボールを切っちゃってる』とか『詰まってるよ』とか、そういうのを一つずつアドバイスしてくれるので、自分の状態もよくわかるし、すごくありがたいです」。
“専属コーチ”のおかげで、上達することができているのだ。
先日はジュニアの練習試合でセカンドを守った。ショートの経験はあるがセカンドは初めてで、ましてや約1年ぶりの内野でもある。小学生のトップクラスの選手が打つ打球に、お父さんはかなりヒヤヒヤしながらも温かく見守ってくれていた。
◆好きなプロ野球選手
バファローズジュニアに入ったことで、シーズン中はバファローズの試合にも注目していた。中でも惹かれたのは杉本裕太郎選手のバッティングだ。「豪快なバッティングで、ホームランを打ってラオウポーズをするところが好き」と、ニックネームが「ラオウ」である杉本選手の代名詞、“昇天ポーズ”が繰り出されるのを楽しみに見ていた。
また、捕手としては福岡ソフトバンクホークスの甲斐拓也選手が憧れだ。「日本を代表するようなスローイングをしている」と、自身が目指すキャッチャー像であるという。
そして、いちプロ野球ファンとしては、タイガースの熊谷敬宥選手のファンであるとも明かす。やや頬が染まったところに乙女心が垣間見えた。
◆将来
田原選手にはこんな夢がある。昨年に続いて今年も、イチロー氏(現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が率いる草野球チーム「KOBE CHIBEN」と高校野球女子選抜チームの試合が行われたが、「あの選抜チームに選ばれて、イチローさんからヒットを打ちたい」と、“打倒・イチロー”を掲げているのだ。
さらには「女子プロ野球選手になって、活躍します!」との目標も挙げる。現在プロではないが、NPB球団が持つクラブチームに入りたいということだ。将来的に3チームからさらに増えるのか、はたまた女子プロ野球が復活するのかわからないが、田原選手はきっといずれかのチームで躍動していることだろう。
小学生を代表するジュニアチームの女子捕手、岩田瑠花選手と田原ひより選手。高いポテンシャルを秘めたこの二人が、今後どのように成長していくのか非常に楽しみだ。
まずは互いに、今月27日からの「NPB12球団ジュニアトーナメント」での優勝を目指す。決勝戦で“関西ダービー”が実現するとおもしろい。
(本文中の表記のない写真の提供:阪神タイガースジュニア保護者)