東京都の病床過少発表は繰り返された 昨春も大幅修正 延長直前、政府に誤情報を報告
東京都が新型コロナの重症病床数(国基準)を大幅に上方修正し、病床使用率が86%から33%に急減した問題は、大手メディアが相次いで報道し、国会でも取り上げられるなど、大きな波紋を呼んでいる。
だが、東京都が病床数を過少に報告していたのは、今回が初めてではない。
昨春の緊急事態宣言中も、入院患者を過大に発表する一方、確保病床を過少に報告していたのだ。延長が決まった直後に大幅な修正を行い、100%超と報じられていた病床使用率が、実は5割未満だったことが判明していた。
筆者は当時、この驚愕の事実を何度か詳報したが、メディアは全く報じなかった。そして再び過ちは繰り返された。
まだ明らかにしていなかった事実も踏まえ、再報告する。
入院患者数を過大発表 療養者・回復者を差し引かず
<ポイント>
昨年4月7日の緊急事態宣言発令後、東京都が発表する入院患者数は過大に発表されていた。都が修正したのは、5月に宣言が延長された後のこと。4月27日時点の2668人→1832人、5月6日時点の2974人→1511人に修正された。都は自ら訂正発表せず、都の報告を受けて厚労省がとりまとめた資料で判明した。
東京都のコロナ病床は当時、1974人/2000床(4月12日)と発表されるなど、深刻な逼迫状況が伝えられていた。
ところが、4月中旬から新規陽性者が減少に転じた後も、入院患者の発表値は2000人を大きく上回り、宣言期限が迫る4月末以後もなぜか急増を続けていた。
例えば、4月27日、小池百合子知事は2668人と発表。「そのうち宿泊療養198人」と動画で説明していた。NHKは「自宅療養者を含む」と注記しつつ、病床使用率「131%」と報じていた。
宣言期限の5月6日は、最多の2974人(うち宿泊療養164人)と発表していた。
このころ病床確保数はずっと「2000床」と説明しており、病床数を上回る入院患者数の発表が行われていた。
宣言が延長された後の5月10日、厚労省は東京都など各自治体の報告を取りまとめ、4月27日時点での都の入院患者が2668人ではなく1832人だったと発表した。
正しい入院患者数が1832人であることは「4月30日時点で把握していた」と、都福祉保健局の担当課長が筆者の取材に答えている。つまり、5月以降は実数とかなり乖離があることを認識しながら、発表し続けていた可能性が高い。
さらに、5月6日時点の入院患者も2974人→1511人に大幅に下方修正されたことが、5月12日厚労省が発表した資料で判明した。療養者を含めても2196人で、当初の発表数に約800人の退院・回復者が含まれていたことを意味していた。
いずれも都が厚労省に報告したもので、小池知事の発表を覆す事実上の訂正だった。
だが、このことを都は自ら報道発表することはなく、主要メディアも一切報じなかった。筆者はこの問題を5月17日の検証記事で詳報している。
5月11日以前の入院患者推移は今も不明
東京都福祉保健局は、5月12日から新たな患者管理システムが使えるようになり、以後は正確な入院患者数を把握、発表できるようになったと説明している。
だが、筆者の取材や情報開示請求に対し、5月11日以前の入院患者数は、厚労省に修正報告した4月27日分と5月6日分を除いて、存在しないと回答した。
都公式統計サイトの入院患者データは、5月11日の2509人→5月12日の1413人と急減している。5月11日以前は、療養者や退院者を除外していなかった当初発表値を「参考値」としてそのまま掲載しているからだ。
結局、4月の入院患者数のピークはいつで、何人だったのか、今もって不明である。
確保病床数も過少発表 「4月中に3300床確保」と訂正
<ポイント>
昨年4月当初、東京都は確保病床数の拡大状況を随時発表していたが、4月12日に2000床に達した後は、5月11日に3300床と発表するまで情報を更新しなかった。5月下旬ごろ、4月中に3300床を確保していたと厚労省に訂正報告をした。
都は3月終わりから感染者が急増する中、4月上旬にかけて確保病床数の拡大状況を随時発表していた。4月2日に700床を、4月12日には2000床を確保したとしていた。
ところが、その後はずっと2000床のまま発表を続け(5月1日の小池知事の動画)、延長後の5月11日になって3300床を確保したことを明らかにした。
延長直前、政府に誤情報を報告
ところが、都が4月中に3300床を確保したと厚労省に事実上の訂正報告をしていたことが、同省サイトに掲載された5月20日付文書で判明した。
都福祉保健局の担当課長も5月末、筆者の取材にその事実を認め、厚労省に改めて報告。6月初め、5月1日時点の確保病床数に関する発表資料が修正された。
厚労省は5月4日、都から2000床と報告を受けていたが、誤情報だったことになる。同課長は筆者の取材に対し、4月中に3300床確保したことを把握したのは5月11日だったと釈明している。仮にそうだったとしても、最も切迫していたとされる東京都の医療提供体制について著しく不正確な情報が政府に伝わっていたことは、非常に深刻な問題ではないか。
5月6日時点で発表された2974人/2000床は、正しくは1511人/3300床(使用率45.8%)だった。
この重大な訂正も、都は自ら報道発表することはなく、主要メディアも一切報じなかった。筆者はこの問題を6月4日の検証記事で詳報している。
小池知事は、緊急事態宣言の期限が差し迫っていた4月下旬から5月上旬にかけて入院患者数、確保病床数ともに実数から大きく乖離した誤情報を発表し続けていた。
減少傾向に転じた後も対策本部会議を1週間以上開かず、解除の目安や見通し等について全く議論しないまま、4月29日「東京はまだまだ厳しい」と延長要請の考えを表明。翌日、将来を悲観した都内在住の聖火ランナーが全身やけどで亡くなるという痛ましい出来事もあった。
5月10日以降に明るみになったデータの修正は、すべて厚労省が発表した資料や取材によって確認できたものだった。都としてはいまだ明確に訂正発表していない。
メディアも都の発表に引きずられて誤報を続けていたことを検証していない(NHKの誤報に関するファクトチェック記事参照)。
そして昨秋以降、都が国基準の重症病床数について不正確な報告を続けていたことにより、2回目の緊急事態宣言下でも重症病床使用率の誤報、大幅な下方修正という問題が起きた。
福島第一原発事故では9ヶ月後に国会の独立した調査委員会(国会事故調)が発足した。コロナ禍は既に1年あまり経過している。そろそろ、政府や都庁などの対応についての徹底した第三者調査・検証をすべき時がきているのではないだろうか。