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YouTubeに削除指針の見直しを要請 薬害監視NGO「厚労省見解が正しいとは限らない」

楊井人文弁護士
YouTubeが「誤った医療情報に関するポリシー」違反で削除した動画のページ

 動画配信サービス・ユーチューブ(YouTube)が昨年、薬害防止の民間団体「薬害オンブズパースン会議」(代表・鈴木利廣弁護士)が主催した国際シンポジウムやワクチン被害者遺族の講演を収録した動画を削除していたことがわかった。

 YouTubeは近年、ワクチンに関連した投稿のうち、地域衛生機関や世界保健機関(WHO)の公式見解と矛盾するものを「誤情報」とみなして削除する運用を強化している。

 削除が相次ぐ事態を受け、同団体は5月8日、YouTubeを運営するグーグル社に「厚生労働省の承認薬によって多くの薬害が生み出されてきたという歴史的教訓を軽視するとともに、医薬品の安全性確保を阻害し、『国民の知る権利』『表現の自由』を脅かす」として、指針の見直しを求める要請書を送付した。

 一方、総務省も、SNSなどを運営するプラットフォーム事業者のコンテンツ・モデレーション(投稿監視・削除)に関心を寄せ、有識者会議で議論を進めている。

薬害オンブズパースン会議にYouTubeから送られてきた動画削除の通知メール(同会議提供)
薬害オンブズパースン会議にYouTubeから送られてきた動画削除の通知メール(同会議提供)

ワクチン被害 国が認定した遺族の講演も削除

 削除指針見直しを求める要請書を提出した薬害オンブズパースン会議は、薬害エイズ訴訟弁護団などの呼びかけで1997年に発足し、医師、薬剤師、薬害被害者などで構成される団体。複数のメンバーが国会の参考人として意見陳述を行うなど、薬害防止の観点から多くの見解を表明してきた。

 YouTubeに削除されたのは、同団体が2018年3月に東京都内でHPVワクチン被害をテーマに開催した国際シンポジウムのダイジェスト版や英語版など、計12本の動画。

 公開から約5年経過した2023年10月ごろに削除の通知があり、再審査の申立ても却下されたという。

 このほか、2023年に都内の大学で行われた新型コロナワクチン接種後に死亡した遺族の講演の動画も、即座に削除されたという。内容は、夫を亡くした遺族の女性が、大学生を前に、自らの体験談を語ったものだった。

 「厚労省に接種との因果関係が否定できないと認定を受けている遺族だと説明しても、再審査は却下された」(メンバーの隈本邦彦・江戸川大学特任教授)という。

YouTubeのコミュニティ・ガイドラインの一部より
YouTubeのコミュニティ・ガイドラインの一部より

 YouTubeは、詐欺やなりすまし、暴力的なコンテンツなどを禁止する「コミュニティ・ガイドライン」を設けている。

 偽・誤情報に関しても「医学的に誤った情報に関するポリシー」など3つの指針を公表。特に、ワクチンに関する投稿については、「現在接種が実施され、承認されているワクチンの安全性、有効性、成分に関して、衛生機関や世界保健機関のガイダンスに矛盾する主張」など、投稿の禁止事項を細かく規定している。

 今回、削除された動画は、ワクチンによる健康被害の実情に触れたものだが、公式見解と矛盾するため、「誤った情報」と判断されたとみられる。

 ただ、同じシンポジウムで削除されていない動画もあり、基準は必ずしも明確ではない面も残る。

YouTubeの誤情報削除の取組みを内閣官房と協力して行っていると河野太郎ワクチン担当相(当時)に説明したスーザン・ウォジスキCEO(当時)(2021年8月11日、YouTube公開動画より)
YouTubeの誤情報削除の取組みを内閣官房と協力して行っていると河野太郎ワクチン担当相(当時)に説明したスーザン・ウォジスキCEO(当時)(2021年8月11日、YouTube公開動画より)

投稿監視・削除 YouTube「大半がAIで自動化」

 薬害オンブズパースン会議は要請書で「およそ医薬品については、承認前の限られた症例数による臨床試験では安全性を確認することはできないため、予期しなかった副作用が承認・市販後に発生することが避けられない。そのため、市販後も不断に安全性に関する情報を収集・調査し、在野の研究者を含めて広く検討・評価することが必要であり、医薬品の安全性はそれによって初めて確保される」と指摘。

 その上で、「厚生労働省の見解だけが正しく、これと矛盾する見解を誤った情報であると定義して規制するYouTubeの前記コミュニティガイドラインは、こうした自由な検討・評価による医薬品の安全性確保を阻害する」と主張し、見直しを求めている。

薬害オンブズパースン会議がグーグル本社と合同会社に宛てた要請書(2024年5月8日付)(筆者撮影)
薬害オンブズパースン会議がグーグル本社と合同会社に宛てた要請書(2024年5月8日付)(筆者撮影)

 筆者は、YouTubeを運営するグーグルの広報部(日本)に、今回の要請書への受け止めについて、コメントを求めた。

 同社広報部によれば、YouTubeでは、違反コンテンツのほとんどをAI(人工知能)が自動的に検出し、判断の難しいものはYouTubeの審査担当者が判断しているという。ただ、同社のコミュニティガイドラインやその運用に関する説明は返ってきたものの、要請書へのコメントは得られなかった。

 厚労省などの公式見解と矛盾するかどうかを判断する際、厚労省など社外の意見を取り入れているのかどうかについても尋ねたが、明確な回答はなかった。

 要請書は、総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」にも、送付された。同会議も、SNSのコンテンツ・モデレーション(投稿監視・削除)を含む偽・誤情報対策について議論を重ねており(5月17日WG)、今夏の取りまとめを目指している。

(YouTubeの誤情報削除の取組み内容とその問題点は、ニュースレターでも解説します)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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