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中学受験「直前に志望校変更はアリなのか」入試問題との相性と新型入試について考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年も中学受験まであとわずかになった。毎年12月以降に多く寄せられる相談に「志望校はこのままで良いのか」というものがある。「ここまでやってきたのだから……」「一度決めたら最後までやり切りなさい」と勢いで受験本番まで行ってしまう家庭が多いが、それは「受験校変更」の面倒を無意識で避け、思考停止してしまってはいないだろうか。最後にもう一度立ち止まって考えたい重要な分岐点であると筆者は考える。

●そもそもなぜその志望校になったのか振り返る

日本の従来型受験における志望校選びで特に目につくのが、学校の「入口」を重要視していることだ。入口とは学校名や偏差値のことである。大事なのは当然「過程」(カリキュラム・指導法・教員・行事等)や「出口」(卒業後の進路・どのように成長したか)であるのは間違いないのだが、それらは精査することなくイメージで判断してしまっている場合がほとんどで、入口よりも重視している受験生や家庭は少ない。

第一志望は「校風」や「立地」で選んでいる、という保護者は多いが、似た校風で似た立地の学校を紹介しても、偏差値が逆転しない限り意見が変わることは少ない。ブランドとしての「学校名」や数値化された「偏差値」などわかりやすいものを判断基準にしてしまうのはある程度仕方がないが、教育とはそもそも見えにくいことを扱う持続的な営みであり、物質的な製品を売買するのとはだいぶ意味合いが違う。何よりも大事なのは場や人、そして方法との「相性」である。

「出口」に関しては、進学先の大学名だけは重視される傾向が依然として根強いが、見るべきはその多様性ではないか。個性を活かして、伸ばしてくれる学校であれば、多様な学校、多様な学部への進学があるはずで、同じ偏差値帯の大学や学部に実績がまとまっているとしたら、それは学校側の意図であると考えられる。もちろん、中高一貫なら6年間過ごす学び舎であるから価値観が似通ってくることは不思議ではないが、偏った情報に日常的に触れていることで、可能性を狭めてしまうリスクもある。もちろん、その学校の理念や営みに直接触れた上で受験生本人も保護者も納得して志望しているのであれば理想的だが、違和感があるのであれば受験前にクリアーにしておいた方が直前期の勉強にも当然、身が入る。

●直前の悩みは「不安」だから

受験直前期に悩んでしまうのは、多くの場合、このままでは「不安」だからだ。不安原因の多くは、「やる気がない」か「やっているのに成果が出ない」のどちらかである。では、なぜやる気がないかといえば、やっても成果が出ない、そもそもやり方が分からない、その学校に本当に行きたいのか分からない、分からないからストレス、遊びたい欲求が大きく上回っている、といったところだ。

一方、やっているのに成果が出ない場合、塾や講師、教材や方法との相性の問題もあるが、見落としがちなのが中学受験という構造自体との相性が悪い場合と、発達段階が受験に追いついていない場合だ。受験自体との相性や発達段階が原因の場合、一般的な中学受験をすることはあまりお勧めできない。もし、それでも中学受験をしなければならない事情があるのであれば、入試に合わせるのではなく、自分に合った入試を実施しているような学校を受験するという選択もある。

●入試問題はラブレターである

これは、一般的な2科4科の入試を実施する学校にも言えることだが、「相性が良い問題」と「相性が悪い問題」が存在する。中学受験の場合、受験生の発達段階や日本語能力にもばらつきがあるため、まったく同じことを聞いている問題でも「問い方」が変わっただけでも正答率がだいぶ変わってくる。国語に限らず、単純に問題文の指示語や修飾語を増やして長くするだけでも、得手不得手が分かれる。

また、大手塾の模擬テストなどは、より多くの学校に対応できるように画一的な問題を作る傾向があるが、入試の多様化が進む現状の中学入試には対応できていない部分も目立ってきている。つまり、模擬テストの形式と相性が悪い受験生でも、実力を発揮できるような入試問題も存在する。特に「適性検査型」や「思考力型」と呼ばれる新しいタイプの入試であれば、なおさら模擬テストで図ることは難しい。

夏以降、多くの塾では過去問演習が始まるが、色々な学校の過去問題を解く中で、「楽しい」「解きやすい」「なぜそれを問われているのか意味が分かる」という印象を持つ問題があるならば、その学校は自分に合った問題を出題する先生達がいる環境だということだ。そういう学校を志望した方が進学後にメリットが大きい。

●多様化する学校と入試問題

「21世紀型」と呼ばれる教育を取り入れている学校では、アドミッションポリシーが明確になりつつある。これは、新しい教育法を取り入れてうまく授業を構築するために必要なことで、構造上の結果でもある。例えば、話し合いや議論が嫌い、あるいは苦手な生徒に対して、活発な議論などの動的なアクティブラーニングを強いるのは難しいし、そもそもその生徒にとってその学習法は逆効果になってしまう可能性がある。その力を伸ばして欲しいという要望もあるだろうが、まだ変革黎明期である現在、そこまで余力のある学校は多くはないだろう。もちろん、情熱を持って生徒に関わる教員はどの学校にもいるが、情熱があって相性の良い教員と出会えるかどうかは入学するまで分からない。

であれば、自分の得意とするところや性質が、学校が求めている生徒像に合っている学校に行った方が、幸せな学校生活を送ることができるだろう。そういう意味でも、思考力入試や適性検査型入試、アクティブラーニング入試などの問題形式が合っているならば、この時期からでもそういう入試を実施している学校の受験を考えるのもよいだろう。倍率が高く対策がし辛いため、多くの塾や予備校では勧められないが、それは塾側の都合である。そもそも「性質」や「特技」などに目を向けている入試なので、無理矢理対策する必要はない。無理矢理合わせるのでは、相性の合わない学校を目指して努力することになりかねない。実際、私立の中高でも不登校の生徒は年々増加している。

●直前まで相性の良い学校を探す

筆者は幼児教育から社会人教育まで幅広く関わっているが、いつ「やる気」がでて、それがうまく機能しだすかは個人差が大きい。それぞれの個性と発達のスピードに合った環境が望ましいが、横並びの受験勉強に合わせてしまっている受験生が多い。特に中学受験生の場合は成長のばらつきが大きいにもかかわらず、「中学受験は人生で一度のチャンス」と言われると、合わせないと乗り遅れてしまうような気になってしまう。中学受験勉強自体は学校の勉強とは違う内容や方法も多く、相性が良い生徒にとっては学びや経験として意味のあるものだが、成長よりも偏差値や合否で判断することは、発達段階に合わせなければ逆効果になってしまう恐れもある。学校に合わせるのではなく、合っている学校を探すという発想であれば、準備や対策が間に合わないというプレッシャーに押しつぶされることもない。可能な限り、直前まで相性の良い学校を探すべきだと筆者は考える。

文科省が進める2020年の新学習指導要領や大学入試改革は、従来型の教育では「生きる力」を身につけられないのではないか、という問題定義から始まった。まずは大人が自分たちの経験してきた学びについて批判的に考え、時代の動きや個性や多様性に目を向ける必要がある。激動の時代に、1人でも多くの受験生が進学先で豊かな学びを経験できることを願う。(矢萩邦彦/知窓学舎教養の未来研究所

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アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

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