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ゴーン4度目の逮捕で追い詰められているのは検察ではないか

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(431)

卯月某日

 有価証券報告書に報酬を過小に記載した容疑で昨年11月19日に逮捕されたカルロス・ゴーン前日産会長は、108日に及ぶ拘留から3月6日に保釈され、制限付きの生活を送りながら5月23日に公判前整理手続きに入り、9月に公判が始まると見られていたが、東京地検特捜部は4月4日早朝、再びゴーン前会長を逮捕した。

 容疑は中東オマーンの販売代理店に日産の資金を支出させ、それを自身が実質的に保有する口座に送金させ、日産におよそ5億6千万円の損害を与えた特別背任である。

 この容疑は保釈される前からメディアにリークされ報道されていたので、当時から裁判所が保釈を認めれば、検察は対抗して4度目の再逮捕に踏み切るのではないかと見られていた。ところがそうはならず、ゴーン前会長は検察の支配下からいったんは弁護団の支配下に移ることになる。

 しかしそれでも再逮捕の可能性が消えたわけではない。フーテンは裁判所が日本の司法制度に対する海外からの批判を考慮して保釈を認めたが、検察は必ず再逮捕に踏み切るとみていた。なぜなら全面否認を貫いて検察に楯突く容疑者の保釈を、日本の検察が認めたことはないからだ。無実を訴え続けた鈴木宗男氏は437日間拘留された。

 その再逮捕劇が4月4日早朝に実行された。報道では最近になって容疑事実を裏付ける新材料を入手したからだと言われるが、フーテンはそうは思わない。4月1日に新元号「令和」の発表があり、5月1日から新時代が始まるのに合わせ、新元号の発表後に逮捕、皇位継承が行われる10連休の前に起訴するタイミングが選ばれたと思う。

 何が言いたいかと言えば、この捜査は国策捜査で、時の政権の意向を忖度しながら検察は捜査を進めていると思うからである。前から書いてきたことだが、なぜ東京地検特捜部が捜査するのかがまず不思議である。仮に日産の中で絶対権力を握る経営者が不正をして企業に損失を与えたのなら、他の経営者が株主や社員と一体となって断罪すべき話である。

 それを日産は検察に訴えて刑事事件にした。自らの社名に泥を塗る行為で、経営に悪い影響を与える可能性がある。フーテンはフランスのマクロン政権がルノーの筆頭株主である立場を利用し、ルノーと日産の経営統合を狙っていることに経産省出身の日産幹部が危機感を抱き、日本政府が後ろ盾となって統合阻止に動いたと思う。

 だからゴーン逮捕を受けてすぐに動いたのはフランス政府で、安倍総理や世耕経産大臣に話し合いを求めてきた。これに対し日本政府は民間の問題として話し合いを拒む。実は政府が後ろにいるからこそ話し合いを拒んだのである。

 しかしどういう事情があったか知らないが、国策捜査であるにもかかわらず、捜査は初めから実にお粗末だった。最初の容疑である金融商品取引法違反で有罪にできるとフーテンはまったく思わない。しかも検察は拘留期間を長引かせるため時期を2つに分け、同じ容疑で2度逮捕しようとして、検察とズブズブの裁判所もさすがに拘留延長を認めなかった。

 そのためゴーン前会長と共に逮捕されたケリー前取締役はそこで保釈され、ゴーン前会長だけが特別背任容疑で3度目の逮捕となった。この間に「人質司法」に対する批判が海外で高まり、なぜかフランスの捜査当局が、東京五輪の買収疑惑で竹田JOC会長の捜査開始を発表する。

 するとゴーン前会長の弁護人が交代した時期を見計らったかのように、裁判所が保釈を認める決定を行った。それは海外の批判を日本の裁判所が認めざるを得なくなったからだとフーテンは受け止めた。そしてそれはゴーン前会長が無罪になる可能性を高める。

 被告が拘留されたままでは弁護団との打ち合わせも制約されるが、保釈されれば綿密な打ち合わせができる。また拘留されたままでは検察側の情報だけがメディアに流れて国民を誘導する。被告人は裁判が始まる前から巨悪に仕立てられるのである。その意味でゴーン前会長の保釈には大きな意味があった。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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