営業DXでは生産性が上がらない2つの真因 営業目標を絶対達成させる「予材管理」とは?【法人営業大学】
20年以上「組織営業力アップ」の支援をしてきた。その経験をもとに、現在の営業組織がどのような問題を抱え、なぜそのような問題に直面するようになったのかを語ることはできる。そのうえで、昔から手掛けている「予材管理」という考え方が、なぜ今こそ必要なのかを解説していこう。
(予材管理について知りたい方は、後半から読んでもらいたい)
<目次>
■営業生産性がアップしない3つの勘違い
■営業生産性がアップしない2つの真因
■なぜ営業だけがワガママを許されるのか?
■機能性が低い営業組織に若者は定着しない
■「予材管理」と相性がいい営業組織3つの条件
■人生の優先順位がわかる有名な話
■「予材管理」とは何か?
■「予材管理」3つのメリットとは?
■「予材管理」2つのデメリットとは?
■営業生産性がアップしない3つの勘違い
まず、現在の営業組織が抱えている問題についてだ。その問題とは「営業生産性が悪い」こと。これに尽きる。その原因として、多くの人が勘違いしているのは、おそらく以下の3つだろう。
(1)デジタル化が進んでいない
(2)スキルが足りない
(3)意識が足りない
どれも重要な要素だ。しかし心あたりのある経営者、マネジャーは多いだろう。これら3つの対策をして、あまり効果が見られなかったということを。
SFA/CRMを導入して営業活動の見える化を促進したり、WEBやSNSマーケティングを駆使して見込み客発掘に努めたりしても「できる営業」と「できない営業」の差は縮まらない。
スキル開発をしても同じ。意識改革を促しても同じだ。いっこうに変わらない、という営業組織は多いはずだ。
私は25年前から日立製作所でSFA/CRMの設計開発・導入支援をしてきた。システムエンジニアだった私は営業経験がなかった。だから、こういった最新の情報システムが導入されたら、営業活動が見える化し、圧倒的な生産性アップが実現されると信じていた。しかしあれから25年経った今でも、ほとんどの企業で実現できていない。
その理由は、前提が揃っていないからだ。
■営業生産性がアップしない2つの真因
DXも大事だし、スキル開発ももちろん重要だ(意識改革は結果論なので対策はとりようがない)。しかし、その前に前提を揃えておかなければならない。つまりもっと根深いことに意識を向けなければ、安定して営業目標を達成させることはできない。
その前提とは、次の2つだ。
(1)マネジメントルールが統一されていること
(2)組織の機能性が高いこと
ルールというのは「いつ/誰が/何を/どこで/どのように/どれぐらい」やるか。その決めごとである。そのモノサシや基準がなければ、人は何に向かってどのように行動すればいいかがわからない。
前述した通り、私はもともとシステムエンジニアだった。システム設計するときもプログラミングするときも、組織としてルールや基準があった(マニュアルではなくルールである)。
その通りにやらないと仕事を任せてもらえなくなるようなルール、基準である。叱られるだけでは済まされない。だからこそ誰もが自主的にスキルを磨こうとするし、問題発見に努めようとする。
「わかってはいるんですが、なかなか難しくて」
といった言い訳は通用しない。お客様に納品する仕事の質を下げることなど、許されないからだ。
ところが営業には、それがない。もしルールや基準があったとしても、守られなくても許される。そんな営業組織が大半だ。厳しくしろ、ということではない。組織としての機能性を正常化しろ、ということだ。
組織と集団は違う。組織である以上、組織のルールを遵守することは当然である。朝の出勤時間を守ることと同じように、マネジメント指標のKPIがあれば、その指標を基準にやり切ることが前提だ。
そのルールを作らない。作ったとしても守らないという組織なら、どのような最先端のシステムを導入しようが、個人のスキルや意識をアップさせようが、生産性は上がらない。
相変わらず「できる営業」と「できない営業」の差は縮まらないのだ。
■なぜ営業だけがワガママを許されるのか?
組織で決まったこと、上司から指示されたことに合意したにもかかわらず、やり切らない人がいる。これは営業組織特有の問題だ。
製造部、物流部、管理部など、他の部署ではあり得ない。
どのような工程で商品を製造するのか。品質を管理するのか。商品を運び、倉庫で管理し、請求書を出して給与を計算するのか……。こういったすべての作業にはルールがある。どこまでの基準に達しなければならないかのモノサシもある。
だから組織は機能するのだ。しかし営業部だけが、ない。
なぜか?
とても不確実性が高い活動だからだ。営業活動というのは。
・ルール通りにやらなくても、結果が出ることはある
・ルール通りにやっても、結果が出ないことがある
このような特性がある。だからついつい属人的なやり方を許してしまう。まさに昔ながらの(昭和的な)営業活動は職人的であった。性能の高い情報システムを使わなくても、自分たちのやり方で結果を出すことができた。
「営業はそんなもん。他の職種とは違う」
といったワガママが許されたのである。結果を出しているならと、社長でさえ文句を言えないのなら、染みついた文化はなかなか変えられないことになる。しかし時代が変わり、もうそれが通用しない世の中になってきた。
■機能性が低い営業組織に若者は定着しない
無視することができない極めて重要なファクターが「超少子化」である。採用市場は「超超超売り手市場」だ。だからマネジメントルールもない、機能性も低い組織に、優秀な若者は定着しない。
「いつ/誰が/何を/どこで/どのように/どれぐらいやればいいか、まったくわからない」
「やっても褒められないし、やらなくても叱られない。結果しか見てくれない」
「それでいて、『最近の若者は何を考えているかわからない』とか言われる」
声には出さなくても、優秀な若者ほど成長できないような組織には、すぐ見切りをつけるだろう。すぐ転職しても欲しがる企業は山ほどあるからだ。その結果、「できる営業」と「できない営業」の差が激しい営業組織には、ルールや基準を求める若者は定着せず、自由で属人的にやらせてほしいと思う若者だけが残ることになる。そうして「できる営業」と「できない営業」の差は凄まじく広がることになるのだ。
そういった若者が上司になったら、今後の営業組織はどうなっていくのか。ぜひとも未来を想像してほしい。一度定着した組織文化はそう変えられない。
新しく台頭してきたライバルの新興企業にすぐ抜かれるはずだ。新しく設立した組織のほうが、正しい文化を定着させやすいからだ。
■「予材管理」と相性がいい営業組織3つの条件
もちろん、統一されたマネジメントルールがあり、組織の機能性が高い会社も多い。読者の中には、
「わが社の営業組織は、かなり統率されている。営業DXの恩恵もあって、生産性は極めて高い」
と思われる方も多いだろう。では、どんな会社の営業組織は機能性が高くなるのか? 考えてみたい。20年以上のキャリアの中で、言えることは一つだ。それは、
事業の独自性が足りない
ことである。
事業や扱っている商品に差別化要因が足りないと、待っていても仕事は来ない。ライバルが多いからだ。だから「待ち」の姿勢から「攻め」の姿勢に転じる。
創業期の会社もそうだ。独自性があったとしてもマーケットの認知度が低い場合は、キャッシュを稼ぐためにも死に物狂いで営業しなければ生き残っていけなかった。
したがって、独自の技術力があり、歴史があって顧客基盤がすでにできあがっている企業は、どうしても「待ち」の営業スタイルになってしまう。
なぜなら「引き合い」が多いからだ。それでは、なぜ引き合いが多いと問題なのか? そのことを説明するのに、有名な「大きな石、小石、砂」の話を使って解説したい。
■人生の優先順位がわかる有名な話
図を見てもらいたい。このボトルに「大きな石」「小石」「砂」をそれぞれどの順番で入れたらいいだろうか?
正解は、
(1)大きな石
(2)小石
(3)砂
の順番だ。初めに「大きな石」を入れることで、その隙間を「小石」で埋めることができる。さらに小さな隙間には「砂」が入る。
順番を考えず、場当たり的に入れてしまうと、次のような図になる。最悪なのは「砂」から入れてしまうことだ。「砂」から入れてしまうと、後から入れる「小石」や「大きな石」がうまく入らなくなる。
同じ労力をかけたのに、順番を間違えただけで大きく異なる成果となった。
私どもが重要視しているのは「マネジメント」である。マネジメントとは、目標達成させるためにリソースを効果効率的に配分することだ。したがって、正しくマネジメントができている営業組織は、この「大きな石」「小石」「砂」を入れる順番を間違えない。おさらいすると、次の2つだ。
(1)ボトルに入れる順番が決まっている = マネジメントルールが統一されている
(2)その約束事を営業が守っている = 組織の機能性が高い
技術力が高く、歴史のある企業は大きなアドバンテージがある。しかし、そのアドバンテージゆえにマネジメントルールを統一しづらいという欠点がある。なぜなら「引き合い」が多いからだ。「攻め」の営業ではなく「待ち」の営業スタイルだと、ボトルに思い通りの順番で石や砂を入れることができない。
しかも昨今は「働き方改革」「ワークライフバランス」が求められる時代だ。ボトルの大きさは昔よりも小さくなっていると考えよう。リソースを効果効率的に配分できないと、労働時間を減らした分だけ業績が悪化していくことになる。
それだけではない。バタバタしている割に目標が達成しない状態が続くと、若い営業はやる気を失っていくのだ。そんな若者たちにスキル開発や意識向上を訴えても、関係がこじれるだけだ。リソースの配分を間違えているのだから、解決しようがない。
■「予材管理」とは何か?
「予材管理」は目標の2倍の予材をあらかじめ仕込んで、目標を絶対達成させる営業マネジメント手法だ。
「引き合い対応」が発生型だと考えると「予材管理」は設定型だ。営業がみずから仮説を立てて、あらかじめ仕込むから設定型になる。
・引合い対応 → 発生型(受動的)
・予材管理 → 設定型(能動的)
「予材管理」の詳しい解説は割愛する。重要なことは、予材ポテンシャルのあるお客様を探し、そのお客様と接触を繰り返して関係を築き、お客様のタイミングでお仕事をいただくことだ。
日ごろから能動的に営業活動をしていれば、潤沢な予材資産を蓄えることができる。そうすれば年間目標の2倍の予材を設定することは必ずできる。
■「予材管理」3つのメリットとは?
「予材管理」は、インデックスファンドを「つみたてNISA」で買い続けるようなものだ。いつのタイミングで株を買い、いつ売り抜ければ儲かるのか? そんなことはプロでも予測できない。だから淡々とインデックス型の投資信託を毎月買い続ける(積み立てる)。選んだ市場が長期的な視点で上がり続けると考えるなら、確実なリターンを得ることができるだろう。
営業活動も似ている。
どのお客様に、どのタイミングでアプローチをすれば確実に商品を買ってくれるのか? そんなことは予測できない。無理やり売ろうとしたらお互いが傷つく。だから中長期的な視点で、予材ポテンシャルのあるお客様に淡々と接触し、関係を築くのだ。年間目標の2倍の予材を仕込むのは、リスク分散するためである。
予材管理には3つのメリットがある。
(1)シンプル
(2)再現性
(3)複利効果
まず何より、方法がシンプルだ。先述した「つみたてNISA」と同じ。決めたことを淡々とやり続けるだけだ。あまりにシンプルであるがゆえに、会議好き、資料作成好きの営業マネジャーは不満を覚えるだろう。やることがなくなるからだ。
次に強調したいのが再現性である。目標の2倍の予材をあらかじめ仕込まなければならないため、経験の浅い営業は仮説を立てられない。上司や先輩たちの協力が必要だ。自然と組織内コミュニケーションが活発になり、当然「できる営業」と「できない営業」の差は縮まる。
最後に複利効果である。当社は「予材管理」をはじめて20年近く経つが、もちろん一度も目標未達成になったことがない。もちろん目標を上げ続けても、達成している。何より運用すればするほど安定したリターンが見込めるため、長年「予材管理」をやっていると、期末のずいぶんと前から目標達成が見えてくる。副社長に、
「今期はもう達成するのは間違いないですから、来期の仕込みをしましょう」
と言われるのは、社長にとって快感以外の何物でもない。今期どころか数年後までの見通しがたつと、経営者としてどれぐらい投資をしたらいいか算段できる。だからよけいに事業を成長させられるようになるのだ。
■「予材管理」2つのデメリットとは?
もちろんデメリットもある。デメリットは2つだ。
(1)ロマンがない
(2)マネジャーの忍耐力が必要
最初に紹介するデメリットは、ロマンがないことだ。短期的な視点で一発逆転を狙うなら「予材管理」は合わない。なぜならロマンを求めるなら「再現性」の考えを捨てなければならないからだ。
「再現性のあるロマン」など、この世に存在しない。「ロマンの複利効果」もあるはずがない。近視眼的な経営をしたいのなら「予材管理」という選択はないだろう。
つまり「予材管理」の考え方を採用したがるのは、結局のところ余裕のある企業ばかりなのだ。先述したインデックスファンドもそうだろう。預貯金がほとんどないのに、長期的な視点で投資はできないのだ。
2つ目のデメリットは、マネジャーに忍耐力が求められることだ。たとえ成果が出なくてもコツコツと、淡々と同じことを継続できるか。マーケット感覚を磨き、予材ポテンシャルのあるお客様を探し、そのお客様との関係を築くための接触を粘り強く続けられるか。
歴史があり、技術力のある企業の営業は「引き合い対応」に慣れている。引合いがくれば、短期的に成果が出るのだから、発生型から設定型に思考を切り替えるのに苦労するだろう。
(※引合い対応はもちろん継続すべきだが、設定型の営業活動をよりいっそう意識することが大事)
「予材管理」にはメリット、デメリット両方がある。短期的に成果を求めたい人は、「予材管理」に興味を持たないだろう。ただ不確実性、複雑性が高いVUCAの時代になった以上、長期的な視点でリターンを得るマネジメント手法を取り入れたほうが、経営は安定すると私は思う。
最後にイチロー選手の名言を記して本記事を終わらせたい。
「小さなことを重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道」
<参考記事>