Yahoo!ニュース

ファントークンの新時代。バルセロナファンを熱狂させた会社で働く唯一の日本人のファンエンゲージメント論

上野直彦AGI Creative Labo株式会社 CEO
昨年、FCバルセロナと契約を交わしたChiliz代表Alexandre氏(右)。

チリーズ本社で働く唯一の日本人にインタビューが実現

「FCバルセロナが、ファントークンを発行した! しかも即日完売!!」

昨年、世界のサッカーファンの間に一つのニュースが駆けめぐった。

6月22日、FCバルセロナはファントークン(代替通貨)の初期販売を開始、これがすぐに完売となった。販売した会社はChiliz.Net(チリーズ)、Alexandre Dreyfus氏(以下、アレックス氏)が代表を務める会社である。

チリーズの最大のサービスはソシオズ(Socios.com)というファントークン発行となる。自分のYahoo!記事では今までに2回にわたり“スポーツ×トークン”を扱ってきたが、チリーズの記事ともう一つは日本の株式会社フィナンシェ(FiNANCiE)の記事だが、どちらも大変な反響を得た。記事を読んだ実際のJクラブから自分へ問い合わせがきたのも驚きであった。そのビジネスモデルや今後のビジョンなど上記の記事などを読んでもらいたい。

今後もこのテーマや“スポーツ×ブロックチェーン”“スポーツ×NFT”などの記事も次々予定しており継続的に取材を続けていく。そんななか朗報がある。チリーズで働く唯一の日本人スタッフとコンタクトが取れ今回初めての独占インタビューが実現した。その名前は元木佑輔氏、マルタ島の本社での日々、今後の事業展開やビジョンなどあますところなく語ってもらった。

優れたビジネスマンである反面、東日本大震災から10年の節目となる今年だが、地元・仙台市への貢献を常に考えている一面も垣間見えた。約2ヶ月にわたった取材を通しすっかり親しくなったのは、そんなパーソナリティも一因かもしれない。

また今回はそればかりではなく、取材が進む中で代表であるアレックス氏のお話をうかがうことができた。これも日本のメディアとして本格的には初めての登場となった。

「Be more than a fan(ファン以上になろう)」がチリーズのモットー

元木氏(左)は根っからのサッカーファン・音楽ファンである。代表のアレックス氏からの信頼も厚い。現在マーケティングや事業拡大に向け精力的に活動している。(提供:Chiliz)
元木氏(左)は根っからのサッカーファン・音楽ファンである。代表のアレックス氏からの信頼も厚い。現在マーケティングや事業拡大に向け精力的に活動している。(提供:Chiliz)

元木 佑輔氏。

6年間にわたりローカライズ&翻訳・通訳事務所でプロジェクトマネジメントを担当、その後ブロックチェーン&暗号資産の分野でのローカライズ業務を多方面で請け負うことに。サッカーファン、音楽ファンとしての情熱を胸に、2019年秋からChiliz/Socios.comで働く唯一の日本人として日本市場向けマーケティングを担当している。

ー 初めまして。ここまでのキャリア、チリーズ社との出来い、現職にいたる経緯を教えてもらえますでしょうか。

元木 初めまして、元木と申します。

こうやって取材を受けることを嬉しく思います。これまでのキャリアですが、ローカライゼーション、翻訳、通訳、インバウンド事業でプロジェクトマネージャーとして勤めた後、多言語を請け負うローカライゼーション事業を個人で行っていたんです。その期間にお世話になった知人から紹介を受けた会社が、チリーズだったのです。これが会社との出会いです。

ー ソシオズのビジネスモデルや特徴、POCの成果やユーザーの反応などくわしく教えてもらえますでしょうか。

元木 Socios.comでは、「Be more than a fan(ファン以上になろう)」をモットーに事業展開をしているんです。

スポーツ&エンターテインメント業界のエンティティとそのサポーターを繋ぐビジネスモデルは幾多とあります。ですがSocios.comはそこにブロックチェーン技術を入れ込むことで、ファンとクラブの間に「透明性」「スピーディーさ」をプラスすることができているんです。提携するクラブチーム&団体は、「ファントークン」というデジタルトークンを発行し、発行されたファントークンは「Fan Token Offering」を通してファンに対して初期販売されます。

ー大変面白い仕組みです。数年前から個人的にはこういったコンセプトを日本でも取材していますが、なかなか一般的には伝わりませんでした。

元木 そうだったのですね、くわしく話します。ファンは購入したファントークンを保有することで、クラブチームが開催する投票イベントに参加したり、限定報酬やマーチャンダイズを獲得しながら、「トークンハント」「チャット」「リーダーボード」をはじめとした様々なアプリ機能を楽しむことができるんです。

そして、年会費制が多い従来のファンクラブとは違い、一度購入したファントークンは手放さない限り、使用しても消滅はしません。いわば一度の支払いで半永久的にクラブチームを応援することができる仕組みなんです。ファントークンの販売によって発生する売り上げはクラブチームにとって新たな収益源となり、アプリを通して投票イベントを開催することによって、ファンが求めているサービス等のデータ取りに活用することも可能です。

実際に初期からのパートナーであるユベントスやPSGによって開催されたファン投票イベントはどれも大盛況となりました。クラブ側からの反応も良好です。チームバスのデザインを選んだり、ゴールチャントを決めたりすることで、世界中どこにいても愛するクラブチームの意思決定に参加できることが大きな魅力となっていると思っています。

現在、日本国内のクラブチームとは提携を結んでいませんが、一度採用されれば順調に拡大していける土台は出来上がってきていると思っています。一般のスポーツファンがSocios.comを利用することにより、一般社会でのブロックチェーン技術の普及にも濃く繋がっていくと考えているんです。

ー 素晴らしいと思います。日本ではブロックチェーン≒仮想通貨(暗号資産)となり、過去の流出事件などのイメージがまだ強く残っていて、それを使った新しいビジネス展開に繋がりにくい状態です。チリーズなどがきっかけでもっと広まっていってほしいです。

ブロックチェーンビジネス、新時代の到来

元木氏のスポーツや音楽にかける思いは半端ではない。「スポーツは国境を超えて人々の絆を強固にするすることができる」(提供:Chiliz)
元木氏のスポーツや音楽にかける思いは半端ではない。「スポーツは国境を超えて人々の絆を強固にするすることができる」(提供:Chiliz)

ー さて、ご自身のスポーツにかける想い、このビジネスモデルに感じる課題解決と将来のビジョンについて教えてもらえますか。

元木 現在様々な問題により、世界中でどこか重たい空気があるなかで、スポーツを楽しんでいる間は嫌なことを忘れられるという方は少なくないのではないでしょうか。スポーツだけで平和を目指すことはできませんが、スポーツは国境を超えて人々の絆を強固なものにすることができます。

これはスポーツだけではなく音楽をはじめとしたエンターテインメント分野にも通ずるものがあります。海外フェスの映像を見ると、オーディエンスには様々な国籍の人々が入り混じって同じ音楽を楽しんでいますよね。私は、スポーツ&エンタメ業界に新しいプロダクト&サービスを提案することによって、スポーツとエンターテインメントが持つ力をより強大なものにしたいと考えているんです。

現在の課題としては、まだ一般層が聞き慣れない「ブロックチェーン」や「トークン」といった新しい物に対する壁を壊していくことでしょうか。チームと提携する際には、弊社側だけではなくチーム側からもファンに対する「education」を行います。地道な作業ではあるのですが、ブロックチェーンやトークンを活用することにより既存のファンサービスと何が違って、何がよくなるのかをユーザーに理解してもらうことが重要と考えています。これは今後日本市場で事業を展開する上でもとても重要だと考えています。「ポイント制度」が根付いている日本市場で、いかに「ファントークン」をアピールしていけるか、これについて毎日考えています。

おっしゃる通りで、世界と比べて、やや保守的とみられがちな日本市場ですが一度サービスが浸透してしまえば一般に広がる力はとても高いものがあります。そのためにも、日本市場の特色を理解し、日本のユーザーが求めているようなサービスを研究して、社会全体で取り組んでいく必要があると思っています。

ー 最後にご自身のビジョンを聞かせてください。

元木 私個人のビジョンとしては、地元東北のスポーツ&エンタメ業界を盛り上げたいという気持ちが強くあります。先日も東日本大震災からちょうど10年の節目でした。チームや団体の大小に関わらず、「ファン」が存在するところにはSocios.comとファントークンがある、そんな未来を作っていきたいですね。

代表であるアレックス氏「我々はアジアを目指す」

名門復活を目指すイタリア・ACミランも顧客である。他にもパリ・サン・ジェルマン、マンチェスターシティなど続々と強豪クラブがクライアントとなっている。(提供:Chiliz)
名門復活を目指すイタリア・ACミランも顧客である。他にもパリ・サン・ジェルマン、マンチェスターシティなど続々と強豪クラブがクライアントとなっている。(提供:Chiliz)

今度は代表であるアレックス氏に話を伺った。こちらも日本のメディアでは初めての登場となる。

ー そもそもですが、このビジネスモデルをつくられたきっかけはどのようなものだったのでしょうか?

アレックス 私が考えるに、主要なスポーツ組織とそのグローバルファンベースとの間のエンゲージメントを高めるために、そもそも市場に大きなギャップがあり、それをブロックチェーンの技術やファントークンによってギャップを埋めることができると気付いたからなんです。それも完璧な手段であることに気付いて、この会社の立ち上げを決めたんです。

ー 今後このビジネスモデルをどのように広げていきたいでしょうか?

アレックス 最終的な目標は、このファントークンを主要なスポーツおよびエンターテインメントとそのグローバルファンベースの間の架け橋として確立することです。そうすることでSocios.comはスポーツとエンターテインメントのデジタル通貨として確立された「Chiliz $ CHZ」により、世界最大の顧客プラットフォームに直接基づくブロックチェーン技術になると、私は信じていますね。

私たちの会社は現在世界の24のスポーツ組織と提携しています。現実にはこれは私たちの真の可能性の約1%にすぎません。パートナーシップ、ユーザーベース、アプリ内機能を大幅に拡大することはできると思ってます。

今年は米国の5つの主要スポーツリーグと英国プレミアリーグでのローンチをターゲットにしています。既存の市場でのプレゼンスを拡大し、今後は日本や韓国などの強力なコミュニティを持っているエキサイティングな市場での戦略およびパートナーのローンチをターゲットにしています。それらの市場は私たちをさらに前進させますが、ビジョンの真の可能性を実現するために5年から10年はかかると見ています。

ー 今、お話に出た日本市場やアジア市場への展開はどうお考えでしょうか?

アレックス 日本と韓国はどちらも私たちにとって大きな可能性を秘めた市場です。これらの国でファントークンを立ち上げていないにもかかわらず「Chiliz $ CHZ」は両国で非常に強い支持を築いてきました。なかでも日本は私たちの最大かつ最古のコミュニティの1つを保持していますが、韓国への関心も最近急上昇しています。

ー 最近では日本の暗号資産交換所であるCoincheck株式会社とのパートナーシップを発表されました。

アレックス これによりビジネスパートナーと作成したNFT(非代替性トークン)がプラットフォームを通じて利用できるようになります。また、その他のアジアでさらに多くのパートナーシップが生まれていくでしょう。つまり、フィンテック、ブロックチェーン、eコマース全体にわたる主要な戦略的パートナーシップ、そしてもちろん主要なスポーツおよびエンターテインメント組織とのファントークンの立ち上げを意味しています。アジアの市場などでこれまでに受けた反応から私たちのプロジェクトが日本やアジア全体で大きな成長を遂げるという可能性を感じています。

次は日本からの挑戦が始まる

3つの契約先クラブをデザインしたファンアート。スポーツ×ブロックチェーンは新たなファンエンゲージメント時代の到来となった。(提供:Chiliz)
3つの契約先クラブをデザインしたファンアート。スポーツ×ブロックチェーンは新たなファンエンゲージメント時代の到来となった。(提供:Chiliz)

世界中を精力的に動き回っているアレックス氏、息つく暇もないようであった。

そんななか今回の取材へご協力いただいたお二人には、本当に感謝しかない。

ブロックチェーン技術は長らくそのポテンシャルは語られてきたが、昨年の仮想通貨(暗号資産)の急激な高騰など明らかに次のフェーズへ移った。

それに合わせるかのように新しいビジネスモデルやサービズがDeFiやNFTなども含め続々と誕生している。日本からも新しい事業モデルが今年はローンチされると聞く。このコラムでは以前より注目してきたが、今後も国内にとどまらず海外事例の取材も続けていく。

(了)

AGI Creative Labo株式会社 CEO

兵庫県生まれ/スポーツジャーナリスト/ブロックチェーンビジネス/小学生の頃に故・水島新司先生の影響を受けて南海時代から根っからのホークスファン/野村克也/居酒屋あぶさん/マンチェスターシティ/漫画原作/早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員/トヨタブロックチェーンラボ/SBI VC Trade・Gaudiyクリエイティブディレクター/CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)異例の重版/NewsPicks「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味 フルマラソン、ゴルフ、NYのBAR巡り /Twitter @Nao_Ueno

上野直彦の最近の記事