【オシタカ!】「みんなで成長していく」これが自分の考えの中心。ホークス4軍監督 斉藤和巳が語る
HAWKSベースボールパーク筑後が熱い!4軍を指揮する斉藤監督
今、筑後が熱い。
筑後とは福岡ソフトバンクホークスの2軍などファームの拠点HAWKSベースボールパーク筑後が存在する場所。スタジアムはタマホーム スタジアム筑後(以下、タマスタ)だ。「育成のホークス」と呼ばれて久しいが、まさに"育成の聖地"だ。
近年、開催されるファームの試合ごとに訪れるファンが増えている。それは今年の猛暑の夏においてもである。1軍との"ダブルヘッダー"で応援という強者もいた。
1軍は現在好調でリーグ優勝に向けマジックが点灯している。同時に2軍以下の活躍も目覚ましい。
タマスタのファーム施設の良さは選手との距離が圧倒的に近いこと。いや、近すぎるといってもよく、ファンはお目当ての選手やコーチのサインをもらった後に一緒に写メを撮る。みずほPayPayドーム福岡ではあり得ない光景だ。見学ツアーも充実しており、一人でも、カップルでも、家族全員でも楽しめる施設となっている。
2016年に筑後にファームが移転してきたが、ファンの間に定着してきた。さらに、一昨年には日本プロ野球初の「4軍」も創設された。4軍の監督は斉藤和巳氏(46)、球団を支えた大投手であり、現在も多くのファンに支持されているホークスのアイコンの一人だ。今回のYahoo!ニュースでは4軍の現状や独特の難しさ、ホークスの育成の未来をあますところなく語ってもらった。
(注:記事中の画像はすべて筆者が撮影)
「みんなで成長していく」、これが自分の考えの中心です
ー4軍が創設されてから2年目。実際に指導されてみて他のカテゴリーやコーチとの違いを教えて下さい。
斉藤 監督に就任した頃は当初は4軍がどういう動きをしているのか、どういう組織なのかがすべては理解ができていない部分がありました。
フロントの方々も含めて4軍の運用はイメージ通りにはいってない部分もあるかと思いますが、僕らも指導しているなかでイメージが少しずつ変わってきています。選手自体がそんなに多いわけではなく、基本的に新卒1年目や2年目の選手が多い。体力強化や技術面を集中して鍛える部分において3軍から選手を預かっていることが多いです。
選手たちも毎日一生懸命にやっても上手くいかない日が多いし、ちょっとしたことで一気に良くなったり、ただ、それが続かなかったり...。監督というよりコーチの方がいろいろと頭を使っていかないといけません。あと、やはり時代が違うというところが正直あって、僕らの時代であれば頭ごなしにガッと言われてやっていましたが、今はそういうわけにはいきません。「時代」に合わせる部分と球団自体が求める「自主性」をドンドン引き出して自主的に動く選手を育てていきたいという部分があります。
ただ、監督やコーチはやり方を伝えたとしても最終的にやるのは本人です。もどかしさというのを僕ら含めコーチやトレーナーも毎日持っていますが、そこは大事にしていきたいです。
ー独特の難しさがありますね。今後はどういった監督になりたいというビジョンがありますか。
斉藤 監督という仕事が初めてなので、もう、日々勉強ですね。自分がどうなりたいかという部分を持ちながらも、やらないといけないところがいっぱいあります。
4軍は試合が多くないのですが、監督をやっていて分かることが多くなったのは発見でした。もちろん迷いも出てきますが、周りのコーチの方にもいろいろと聞きながら専門的な分野でサポートをいただいてます。コーチや選手には常に話していますが「みんなで成長していこう」と、これが自分の考えの中心にあります。
完璧なチームというものはありません。コーチはコーチで失敗することもある、選手はもっと失敗することがある。チームが成長するために失敗とどのように向き合っていくか、4軍ではいつも話し合っているポイントです。
1軍から4軍までが連携する「コーディネーター制」
ー1軍の選手と4軍の選手の指導の違いはどこにありますか。
斉藤 全然違うと思います。1軍はもう「勝つため」というのが明確にある。2軍は1軍にいくためにはどうするか。3軍・4軍は1軍にいくためというより、まずは「支配下登録」です。育成選手が多いので支配下登録することが育成選手の中で最大の目標です。
そのためには2軍に上がらないといけないのですが、まず、2軍というところがすごく遠く感じることがあります。そこでこの2024年から「コーディネーター制」を敷いています。まさにコーディネーターの方たちが各ピッチャー各野手にできるかぎり3・4軍で結果を残している選手やホークスが期待している育成選手に2軍でのチャンスを与えています。
ただ、すぐには結果は出ません。
本人が2軍で課題を見つけ4軍に戻ってくる。そのままいってくれたらいいですが、実際に落ちてくる選手の方がやはり多い。課題とどう向き合っていくか。上のカテゴリーにいくと課題が明確になります。コーディネーターの方はそういったことを目指しています。
やはりプロ選手は厳しい世界です。多くのチャンスがないとモチベーションの維持が難しくなってきますが、維持させるために我々が何をすべきか。ただ選手の気持ちを理解ばかりしていても、選手のためにはならない。時には尻も叩かないといけないですが、今の世代の選手たちはただ叩いてばかりいても難しいです。
注)ホークスのコーディネーター制
1軍から4軍の選手に対して一貫した選手強化を実現するため投手・野手のコーディネーター職を新設。各軍をまたいだコーチ間の連携のみならず、データサイエンス部門やハイパフォーマンス部門との連携を強化し、多角的な視点から選手育成を推進。
Z世代特有の難しさとユニフォームを脱ぐ日までの成長
ーZ世代の独特の難しさがありますか。
斉藤 ありすぎるぐらいです(笑) コーチたちも少しは気を使っていますが気を使いすぎても選手のためにはなりません。ダメなことはダメって言ってやらないといけません。コーチも話はしてくれますが、やはり選手はショボっとします(笑) ゙でも、そこは態度に出てもいいくらい「何くそっ!」と思ってほしいんです。
今の子は「あぁ...」と気持ちまで落ちてしまう。今度はフォローに回らないといけません。゚勝負の世界だけが厳しいわけではない。選手たちにも言っていますけど、いつまでもこのユニフォームを着られるわけじゃないので。いつかは別の社会に出ないといけない。そこでも通用して生きていくための「強さ」が必要です。今も昔も変わらないと思うので「プロ野球選手だけでなく、人としても成長してほしい」という話をするようにしています。
ー4軍の采配ではどのあたりがポイントでしょうか。
斉藤 勝ちに行くっていうのは前提に置いていますが、絶対勝たないといけないかというまた別の一面があります。先ほども言いましたが選手は支配下登録されたいというのが一番のポイントです。
チームには支配下選手も何人かいますが、早く上へいきたいというのがあります。ピッチャーなら抑えにいく。バッターなら打つ、打率を残す。明確なところがないと絶対に上にはいけない。だから基本的に作戦を試合の中で前半・中盤の部分ではあまり取らないようにはしています。
攻撃の時は打たせる。ピッチャーのところはある程度投げるイニングが決まっていたりするので、できる限りしっかりと投げさせたい。あと、接戦になってくると終盤は勝ちにいきます。そのあたりはいろいろと考えて采配しています。
基本的には勝ちながら、選手たちのパフォーマンスをどれだけあげられるか。可能性をどうやってこちらが引き出せるか、を常に考えています。
プロ野球の采配に「正解」「絶対」はない
ー具体的には選手のマネジメントはどこに気をつけていますか。
斉藤 いやぁ、それをまさに今勉強中やねん(笑) 指導者になって、まだ2年目。分からないことが多いですが正解が何かというのもあるし、正解を持っている人はいないとも思います。指導の本を出している人たちの本を読んだりもしますが、すべて当てはまるかっていうわけでもないと思います。だから、良いところだけを自分やチームに取り入れています。それでも選手に通用できるかどうかは誰にも分かりません。
その時々の状況もあるし、チームの浮き沈みもあります。監督として選手をちゃんと観察しておかないといけません。観察だけでは足りないので周りの人に聞いたりしてコーチやスタッフから「あいつ最近、どうなんだ?」という僕の問いに答える選手情報が入ってきて一通り頭に入れておきます。その選手を見たりして、いいタイミングの時に声かけます。
結局、「絶対」というのはありません。その時の状況判断をどうするかが重要です。でも、これはずっと勉強し続けないといけません。自分の感覚だけではいけないんだろうなと。だからといって自分の信念がないっていうのも違います。自分の中でしっかりとした考えを持って、それを言葉に変えながら伝えていく。
先ほども言いましたが、監督やコーチがいいタイミングだと思っても、選手にとってのタイミングでその言葉が欲しかったかどうかは違う場合が多い。こちらが「正解」と思ったらいけないのです、正解は常に他人が持っています。話をした後のその人をちゃんと見るように、ちゃんと伝わってるかどうかっていうのは常に意識しています。
ー監督としての活躍も信じていますし、今後も応援しています。最後にファンにメッセージをいただけますか。
斉藤 一度筑後に来てほしいです。4軍だけでなく2軍や3軍の試合も見に来てほしい。
面白さや魅力は実際に見てみないと分からない部分があります。皆さんをタマスタでお待ちしてます!!
<インタビューを終えて>
選手時代と何も変わっていない。
外見、野球への姿勢、ホークス愛。
インタビューを終えると、颯爽と斉藤監督は練習場のあるスタジアムへと移動した。
ファーム取材の初回ではあるが「コーディネーター制」など今後も深掘りしていき、注目の選手などにもフォーカスをあてていく。できれば訪れるファン一人一人にも話を聞いてみたい。
「筑後に来るファンこそ、本物のホークスファン」
スタンドにいた観客から聞いた言葉だ。
その意味も探っていきたい。
◯【タマスタ筑後】9・10月の3軍&4軍試合情報
(了)
【取材・編集・構成】
上野直彦
【取材編集協力】
江藤浩太郎(AGICL所属)
河藤大和(AGICL所属)