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面白法人カヤックがFC琉球に資本参画、新スタジアムの推進も発表。「うむさん」経営で沖縄経済を新時代へ

上野直彦AGI Creative Labo株式会社 CEO
沖縄県庁会見。玉城デニー沖縄県知事(右)とFC琉球OKINAWA代表 柳澤大輔氏

うむさん(面白い)経営で変わるサッカー・FC琉球OKINAWA、新たなステージへ。

沖縄スポーツが、動き出した。

Bリーグ・琉球ゴールデンキングスや卓球プロTリーグ・琉球アスティーダはそれぞれ念願だったリーグ優勝も果たし、市民や県民から熱狂的に支持されている。そして、サッカーJリーグ・FC琉球OKINAWA(以下、FC琉球)もついに動き出す。

昨日6月28日に沖縄県庁において「リーグ規格スタジアム整備に係る沖縄県・FC琉球共同記者会見」が開かれた。これで平成29年から推進してきた奥武山公園内にフットボール専用スタジアムを整備する施策がさらに一歩踏み出す。一言一言は丁寧だが熱のこもった玉城知事の言葉に、この事業への思いがうかがえた。

柳澤氏は面白法人カヤックを率いる経営者だ。旧来の既成概念にとらわれない発想でITやゲーム業界など多種多様なコンテンツビジネスを展開してきたが、スポーツビジネスに乗り出した。新しい舞台は、沖縄。

2024年2月、Jリーグ加盟のプロサッカークラブ「FC琉球OKINAWA」の筆頭株主になり経営に参画。有名なIT企業の参入はサッカー界だけでなはなく、沖縄経済に新風を吹き込む。

何故カヤックは沖縄のサッカークラブ経営に乗り出したのか?スポーツビジネスの可能性をどう見ているのか?そして沖縄の未来は? 記者会見を終えた代表取締役CEOの柳澤大輔氏に話を聞いた。

*2017年から続く筆者の 沖縄スポーツへの長期取材 に興味を持たれた読者は、あわせてこちらの記事も読んでいただければ認識が深まります。なお、記事中の写真・画像はFC琉球提供によるもの。

記者会見で握手する玉城デニー知事と柳澤大輔氏。柳澤氏はクラブ経営だけでなく地域資本主義の発展も視野に入れている。
記者会見で握手する玉城デニー知事と柳澤大輔氏。柳澤氏はクラブ経営だけでなく地域資本主義の発展も視野に入れている。

「カヤック」と「沖縄」の意外な縁が、経営参画のきっかけに

ー 最初にお聞きします。なぜFC琉球に経営参画されたのでしょうか。

柳澤 まず、カヤックの歴史を振り返ると「何をするかより誰とするか」を大切にするところから組織作りや会社を面白くすることにこだわり、クリエイター発信でいろんな事業が生まれ、地域に関わるようになりました。

広告の仕事からスタートし、途中でゲーム会社のイメージが強くなり、ここ5、6年は『地域資本主義』を提唱し、まちづくりのサービスを展開するなど、事業の方向性も変化してきました。

僕自身、とにかく面白い組織づくりに興味を持つなかでスポーツチームという大変魅力的な組織への挑戦は、実は以前から考えていたことなんです。スポーツチームは街や地域に直接関わり、まちづくりにも大きな影響力を持ち、今や欠かせない存在となっています。

カヤックもまちづくり事業を手掛けているので、スポーツ×エンターテイメントの相性は抜群にいいんじゃないかと、数年前から強く感じていました。

ー そんななか、今回のFC琉球のお話をいただいた。

柳澤 そうなんです。以前もいくつかのクラブとの機会をいただいたものの、その地域とカヤックとの接点が薄かったんです。ところが沖縄はまったく違う。カヤックの創業者の1人である久場の出身地でもあり、カヤック起業にも深い縁がある。

実は学生時代に創業を決意したのが旅先で、それが沖縄県の石垣島だったんです。地域との特別な繋がりもあり、「これは面白いことができるんじゃないか」とFC琉球のお話をいただいた時に直感しました。地域を盛り上げることに貢献したいという思いと、ビジネス的な将来性を感じて経営参画を決断しました。


サッカービジネスほど面白い商売はない!

カヤックによるFC琉球の経営は独特だ。ブレスト会議も選手・スタッフ全員参加だ。
カヤックによるFC琉球の経営は独特だ。ブレスト会議も選手・スタッフ全員参加だ。

ー 参画前にサッカービジネスについてかなり勉強されたそうですね。

柳澤 基本的に参入するビジネス領域は、その業界について一通り勉強するようにしています。ただ、今回は面白いチームや組織をつくるだけでなく、地域に貢献することで新たな事業を展開していきたい、この思いが強い。そのためにも、まず基盤となるサッカーにおけるスポーツビジネスを学ぶ必要がありました。

そうですね、参画を決めてからサッカービジネスについての書籍を40〜50冊は読み込んだでしょうか… 約30年前のJリーグ発足の経緯、海外の成功事例、チーム経営の難しさまで体系的に学んでいきました。

ー 他の業種で上場を経験している経営者からみて、スポーツビジネスはどう映りましたか。

柳澤 勉強してみるとサッカーチームの収益は放映権料、スポンサー収入、チケット・グッズ販売の三本柱であることが分かりました。同時に選手とフロントの人件費が最大のコストであると。

ビジネスモデルを組むのがとても難しく、チケットの金額もバスケや野球に比べるとサッカーは安価な設定になっています。世界的にはまだまだビジネス基盤が脆弱なクラブが多数派であるという厳しい現状も理解しました。

一方で、サッカーはサポーターの熱量や地域に根差したコンテンツとしての魅力が圧倒的に高い。ビジネスとしての難しさはあれど、カヤックの強みを活かせる余地は大いにあると考えたのです。

本を読んだ座学だけでなく生きた助言もほしいと考えて、元Jリーグチームの社長やJリーグ関係者にお話を伺いに行きました。


ーどのような助言をもらいましたか。

柳澤 諸先輩からは「沖縄という土地柄は、面白いサッカーチームをつくるとういビジョンには比較的他の地域より相性がいいのではないか」としっかりと背中を押していただきました。「面白いチームを作って、Jリーグ全体を盛り上げてほしい」という期待も込めた言葉もいただきました。

以前、スポーツビジネスの歴史を調べると、サッカーに限らずスポーツが、メディア露出を通じて、さらに放映権料が発生し「お金になるコンテンツ」だと認知されてビジネスとしての循環が生まれるようになったのは割と最近、ここ数十年の出来事です。ただ、このビジネスモデルも過渡期にあると。選手に高額な年俸を払いすぎて経営破綻するチームが後を絶ちません。

一方で課題はありつつも、長い目で見れば確実に市場は拡大傾向にある。衰退産業というわけではなく、まだまだ伸びしろがある。歴史を学んだ上で、僕なりにスポーツビジネスの展望を整理できた部分は大きかった。カヤックがゲーム業界で培ってきた『ファン』を軸にしたマーケティングの知見は、スポーツの世界でも活きるとも仮説を立てられました。

また、スポーツチームの経営は地域密着型のビジネスであると同時に、地域活性化の展開も欠かせません。まさにカヤックが提唱する『地域資本主義』の考え方そのものです。FC琉球への経営参画を通じ、スポーツの本質的な魅力とビジネスの可能性を再確認できました。だから、僕は今は毎日ワクワクしているんです。大変な部分はありますが、スポーツビジネスほど面白いビジネスはない!そんなふうに考えてます。


「J2に昇格すればいい」ではダメ。肌で感じた経営の難しさ

2024年2月、Jリーグ加盟のプロサッカークラブ「FC琉球OKINAWA」の筆頭株主になりカヤックは経営に参画。前社長の倉林啓士郎氏は会長となり引き続きチームをサポートしている。
2024年2月、Jリーグ加盟のプロサッカークラブ「FC琉球OKINAWA」の筆頭株主になりカヤックは経営に参画。前社長の倉林啓士郎氏は会長となり引き続きチームをサポートしている。

ー 実際に経営に参画して数ヶ月が経ちましたが、他のビジネスとは違った面、あるいは手応えを感じられていますか?

柳澤 書籍や諸先輩方の話を聞いたことで気がついたのは、Jリーグのカテゴリーによる構造の違いです。J3はプロリーグの中では下位カテゴリーに位置するので、J2やJ1と比べて観客動員数は少ない。

でも、J2に昇格すれば、そのままの体制で収益を増やせるのではないかと最初は考えていました。実際FC琉球は以前J2に所属していた時期もあり、フロントの運営ノウハウ自体はJ2レベルに達していますし、試合当日のイベントなどもしっかりした企画で運営されています。また、フロントのスタッフもJ2にいってもそれほど増員する必要はありません。なので昇格すればそれだけで収支が改善するという良さはあるのだろうと推測していました。

ところがです。よくよく調べてみると、J2というカテゴリーそのものが経営的に厳しいことがわかってきました。その頃、サイバーエージェントの藤田社長が「J2はリーグからの分配金もスポンサー獲得も集客も一番難しい」と指摘されていると聞きました。藤田さん自身はJ3クラブ経営の経験がないからJ1と比較してのことです。でも、J2でも経営が楽ではないという言葉は衝撃でした。自分はJ2へ昇格したら経営が多少は楽になると考えていたからです。J1へ上がらないと厳しい経営が続くという結論はどうとらえればいいのか、自分がサッカーチームの経営を考えるきっかけとなりました。

では、なぜJ2は苦しいのか?

自分なりに分析して、カテゴリーが上がるほど必然的に選手獲得競争が激しくなり人件費が嵩むという構造だからです。J3からJ2に上がる時点で優秀な選手を獲得しようと急に人件費が跳ね上がる。

J2からJ1を目指す段階でさらに人件費が高騰。つまり勝利を追求する以上に、どこまでいっても人件費コストが先行してしまう。クラブの財政基盤が弱いと企業オーナーの懐具合次第という不安定な経営に陥ってしまいます。

ー ここが難しいところで、海外では昇格をのぞまず、同カテゴリーにとどまる経営をしているチームもあることにはあります。

柳澤 おっしゃる通りで世界に目を向ければ必ずしもタイトル争いに絡まなくても観客動員と収益性を両立させているクラブもあります。だからこそ、FC琉球としてどういう方針で臨むのか?目指すべきビジョンをしっかり定め、それに沿った形でチーム強化と経営の両立を図る。その難しさを今まさに身をもって実感しています。

徹底した現場主義と顧客第一主義。試合には必ず会場へ足を運ぶ柳澤氏。
徹底した現場主義と顧客第一主義。試合には必ず会場へ足を運ぶ柳澤氏。

監督にオリジナルTシャツの制作を依頼。カヤックならではのユニークなブレスト

プレストもカヤック流。選手とスタッフ全員参加の会議、次々とアイデアが生まれる。
プレストもカヤック流。選手とスタッフ全員参加の会議、次々とアイデアが生まれる。


ーそんななか参画後の3ヶ月間、具体的にどのようなことに取り組まれましたか。

柳澤 就任直後にまず取り組んだのが、経営陣全員での合宿です。クラブのビジョン、方針、戦略について徹底的に議論しました。ホームゲームの運営方法から、営業の進め方、マーケティング施策に至るまでです。

理念の言語化は、J1クラブならある程度できているかもしれません。でもJ3では、選手もフロントも入れ替わりが多いので、継続性のある文化を築くのが難しい。だからこそ理念の浸透と、それを支えるチームビルディングにはとことんこだわりたいと考えています。

ー カヤックの得意とするところですね。

柳澤 カヤックの持ち味であるチームビルディングのノウハウを持ち込んでこの数ヶ月間取り組んでいます。スポーツチームという組織の在り方を、言語化して共有、浸透させていく。それ自体がとてもクリエイティブな作業でスポーツビジネスの面白さでもあります。

例えば、経営陣の合宿で定めた方針をチーム全体で浸透させるためのキックオフミーティングを開催しました。選手、コーチ、フロント、グラウンドスタッフ、スクールコーチなど、クラブに関わるすべてのメンバーがほぼ全員で参加。かつてない規模の全体会議で、これからのFC琉球の姿やビジョンを全員で共有しました。

特に注力したのは全社員対象のチームビルディング研修です。研修の中では我々の得意とするブレスト(ブレインストーミング)を中心に展開しました。普段は監督の考えていることを知る機会が少ないフロント、スタッフが入り混じったチームをつくり、お題に沿ってアイデア出しあって競い合うんです。

日頃は自分の仕事に直接関係のない相手の立場に立って考えてみる。そうすることで当事者意識がお互い芽生えて、主体的な行動が生まれていきます。

ースポーツクラブだけでなく、法人や組織でそんな風通しの良いミーティングをつくるところはなかなかありません。

柳澤 例えば「監督の理想のチーム像になるために監督は何をすればいいでしょうか?」というお題を出しました。まず、理想のチーム像を監督から話してもらって、理想のチームに一歩でも近づくためにチーム全員でプレストをしてアイデアを出し合ったのです。自分が意見を求められると監督の立場に立って物事を考えるようになっていきます。

逆に、フロント側からは「スタジアム内でお客さんの満足度を上げる体験アイデアは?」というお題を出して、フロントスタッフと選手や監督・コーチ陣が一緒にアイデアを考える。お互いの仕事への理解が深まる瞬間でしたね。

ー具体的にどんなアイデアが出ました?

柳澤 面白かったのはキン・ジョンソン(金 鍾成)監督を題材にしたブレストでした。ジョンソン監督が選手に求めているのは言われたことをこなすのではなく、自分で考えて動く「アクション」の姿勢です。つまり与えられたプレーを忠実にこなすだけではなく、一人一人の発想力や創造力が問われる。そうした主体性こそが観客を魅了するプレーに繋がる。

そのジョンソン監督の思いを選手とスタッフに浸透させるには何が必要かをブレストのテーマに。ビジョンにそったチームになるために、選手がすることじゃなくて、監督に何をさせればいいのかを選手に問うなんて、タブーにも思えます。でも、蓋を開いてみれば選手たちから斬新な提案が次々出てきたんです…

「選手との面談時間を増やす」

「監督が練習中は"アクション"の文字が書かれたTシャツを着る」

「ジョンソン監督自身が、まずは我慢強くあるべき」(笑)

まあ、大笑いなものもありますが監督の懐が深かったおかげで実現できたブレストでした。結果的に監督が"アクション"の文字が書かれたTシャツを着るというのを選んで、今、実際Tシャツを制作中です。

ジョンソン監督の「Action」Tシャツが完成。チーム全員のアイデアで創ったものだ。監督はこれを着て試合に臨むのだろうか?
ジョンソン監督の「Action」Tシャツが完成。チーム全員のアイデアで創ったものだ。監督はこれを着て試合に臨むのだろうか?

「うむさん(面白い)チームになる!」ー 失敗を許し、応援する組織文化の醸成

ー研修を通じて、クラブのビジョンにも変化があったのでしょうか。

柳澤 FC琉球の最上位のビジョンは「うむさん(面白い・強い)チームになる」ということ。沖縄の方言で「面白い」を意味する「うむさん」という言葉を大切にしています。

当初は「面白いだけでいいのか?」という声もありましたが、でも、カヤックという会社自体が「面白法人」を標榜しつつも、常に成長を求めて挑戦を続けてきました。面白さを追求する姿勢こそがイノベーションの源泉だと信じています。

もちろん、プロスポーツの世界で勝利を度外視していいわけがない。だから「うむさん」の中には「強さ」という意味合いも込められています。チームが地域に根差し、愛され続けるためには、やはりピッチでの結果が伴わないといけない。

正直、最初に「うむさん」というコンセプトを打ち出した時は、腹落ちしなかったメンバーも多いのではないかと感じました。サッカーのビジョンとしては飛躍しすぎていると思われたのかもしれません。

でも「面白いことをやり続ける」と時にはいいことがあると感じてもらえたり、我々が本気で面白いことに取り組んでいると伝わった分岐点が、先日のルヴァンカップでのガンバ大阪との試合だったのではないかと思います。沖縄にとってはJ1の公式試合が初めてだったということもあり、ここは面白要素を投入する最大のチャンスだと思って取り組みました。

具体的には、この試合を盛り上げる面白ポスターをつくって盛り上げました。事前に県民全体が盛り上げてくれて注目された結果、平日としては過去最高の入場者数となりました。

結果として、劇的勝利。

もちろん勝利は面白さだけで成し遂げられるものでは決してありませんが、一つの要員であり、面白さも価値があるなと伝わったのではないかと思います。

SNSでも大盛り上がりとなったルヴァンカップの、ガンバ大阪とFC琉球の一戦を扱ったポスター。
SNSでも大盛り上がりとなったルヴァンカップの、ガンバ大阪とFC琉球の一戦を扱ったポスター。


ー結果もですが試合のプロモーションも最高でした。

柳澤 面白いことにチャレンジするということは、失敗のリスクも背負うこと。ある種の覚悟が問われます。怒られることもあるだろうし、ミスだってつきもの。でも、失敗を恐れずに「よし、またチャレンジしよう!」と前を向けるチームが良いチームだと考えています。そのためにはお互いのアイデアを認め合い、応援し合う文化が欠かせません。だからこそチームビルディングが重要なんです。

「うむさん」経営と名付けましょうか。我々のうむさん経営はまだ緒に就いたばかり。サポーターとの月例ミーティングで「どうすればFC琉球を盛り上げられるか?」をテーマに現在ブレストしています。それを徐々に「サッカーを通じて沖縄に何ができるか」という地域貢献の話に昇華させていきたいと思います。

ビジョンを言葉で語るだけでなく、こうして全員で体現していくプロセスを大切にしたい。失敗を許容する寛容さ、それと新しいことにチャレンジする勇気。その両輪があってこそ、FC琉球OKINAWAらしい「うむさん」な組織は生まれるんだと信じています。


「みんなのFC琉球会議」「うむさんパーリー」ファンマーケティングを後押しする、うむさんな企画

カヤックが最も得意とするファンマーケティング。スタッフ・選手にその思いを伝える柳澤氏。
カヤックが最も得意とするファンマーケティング。スタッフ・選手にその思いを伝える柳澤氏。

ー ファン目線やファン参加の斬新な施策も目立ちます。お話を聞いているだけでワクワクします(笑)

柳澤 カヤックの持ち味を存分に活かせているのがファン参加型の企画です。スタジアムでファンにもっと楽しんでもらえるよう、毎回趣向を変えたホームゲーム施策「うむさんパーリー19連発」の企画を実行に移しました。他にも3月から毎月1回「みんなのFC琉球会議」という場を設けて、サポーターの方々と直接対話しています。ブレストをしながらチームを盛り上げるアイデアや地域貢献の施策も一緒に考えています。

例えば、クラブ通貨「べーにょ(ジンベーニョ)コイン」の導入で、地域おこしにつなげるアイデアなども出していきました。5回目となる7月6日(土)には新エンブレムの方針をテーマに、ファン・サポーターと一緒にブレストをする予定です。

こうした他にはないファン体験を通じて、地域の活性化にも貢献できればと考えています。

ー「みんなのFC琉球会議」は、ファンの方々の声を直接吸い上げる場として機能している感じですね。

柳澤 そうですね。「みんなのFC琉球会議」ではビジョンづくりにも取り組んでいます。例えば「FC琉球が目指すサッカー」について、今まであまり言語化されてこなかった。でも、ファンの方々に聞いてみると「3-1で勝つサッカー」とか「ラスト5分まで攻め続けるサッカー」といった具体的なイメージを持っているファンやサポーターが多かった。

実はこれ、以前ジョンソン監督が発した言葉がファンの中に浸透していたようなんです。改めてFC琉球らしさとは何かを共有する良い機会になりました。そこで出た意見を大切にしながらチーム作りの指針を固めていきます。

他にも「FC琉球が求める選手像」「フロントの理想的な組織文化」なども言語化してみんなで確認し合う。ミーティングの場では経営の難しい話はせずに、もっとファンに近いところで我々は何を目指すべきかを考えています。ファン・サポーターの方も含めFC琉球という一つのチームになっていきたいという想いがあるからです。仲間として共に沖縄の地域活性に貢献していく。そんな「スポーツ経営を通じた地域創生」の実現を僕は本気で目指してます。

ー沖縄の文化ならではのファンコミュニティと、カヤックのカルチャーがうまく融合し始めているような気がします。

柳澤 「ホームゲームのあり方」もテーマに挙がりました。勝っても負けても、最後はみんなでカチャーシー(エイサーの掛け声)を合図に「グー」「パー」のハンドサインを掲げる。それがFC琉球流のゲーム終了の挨拶になればと。

琉球ゴールデンキングスの試合でもラストは似たような雰囲気があるので、沖縄らしさを表現する意味でもいいかなと。本当は、負けた時こそ盛り上がる歌があるのが理想なんですけどね(笑)

海外のチームには、負けた時に歌う歌があるというのを聞いたことがあります。とにかく勝敗に関係なく「また楽しみに来たい」と思ってもらえるようなホームゲームの演出を、ファンの皆さんと一緒につくっていきたいです。


ルヴァンカップでは過去最高収益を記録。柳澤氏の独自の「経営進化論」とは!?

独自の「経営進化論」を語る柳澤氏。
独自の「経営進化論」を語る柳澤氏。

ー 経営者の視点から、どういったチームの変化を感じていますか。

柳澤 J1を目指して、経営も進化のスピードを上げていかなければいけない。経営の進化とは、つまり目指すべき指標が増えていくこと。最初は売上だけ、次は利益、さらには従業員満足度も上げていく、といった具合に様々な要素をバランス良くマネジメントしていく力が問われます。FC琉球としても、スタジアムの集客数をKPIに設定するなど一歩ずつ前進しています。

先日のルヴァンカップでは、平日ナイターにも関わらず7,000人を動員できました。クラブの歴代記録に並ぶ大入りでしたが、これはクラブが誕生して過去21年で最高の収益を記録する結果にも繋がりました。やり方次第では、お客様は着実に増やせる。その手応えを得られたのは大きな収穫です。

ただ、課題もあります。FC琉球は、他クラブと比べると無料招待の比率が高く有料チケットの購入者数は伸び悩んでいます。でも、いきなり有料化を進めると今度は総集客数が落ち込むジレンマがある。集客が減ればスタジアムの雰囲気も悪くなるし、チームの士気にも影響しかねない。だからこそ、まずは、シンプルにとにかく今年はお客様の数をKPIとする。1人でも多くの方に来場していただけるようにと考えています。そして経営を進化させたら、次は有料化比率を少しでも高めるようにKPIを設定する。1歩1歩やっていくしかありません。

先日のルヴァンカップでは面白い施策の効果もあって、目標の集客数をクリアできました。みんなで知恵を出し合った「面白い」アイデアの賜物だと思っています。経営において大切なのは、ただ数字を追うのではなく、ファンの心に響くようなコンテンツを常に提供し続けること、これに尽きます。

そのためチーム全員の頭脳を結集し、我々なりの「経営進化」が始まったところですね。観客数やグッズ売り上げという目に見える変化はもちろん大事ですが、支援者を一人ひとり増やしていくという地道なプロセスにも実は価値がある。長い目で見れば、こういった蓄積が必ずクラブを強化していく。ですから、もっと色んな人を巻き込みながら、FC琉球にしかできない「うむさん」経営のカタチを追求していくつもりです。

ー マスコットキャラクター「ジンベーニョ」の発信力も高いです。特にジンべーニョユニフォームは大きな反響でSNSでまたたく間に拡散されました。

柳澤 ジンベーニョは個人的にはJリーグの中でも愛らしいキャラクターだと思っていて、クラブの大きな財産だと認識しています。カヤックはSNSプロモーションやデジタルコンテンツのノウハウが豊富なので、その強みを存分に活用しています。

最近だとAIツールを使ってジンベーニョが遊ぶ姿をSNSでキャラ監修のオリジナルグッズを展開したり、親しみやすさと独創性を武器にファンをますます広げていきたいです。

キャラクターは非日常的な存在であると同時にファンにとって身近な存在。だからこそ、ジンベーニョを通じてクラブの思いを伝え、ファンとの絆を深められると考えています。Jリーグというフィールドを超えてキャラクタービジネスの新しいモデルケースを示せるよう、今後も磨き上げていくつもりです。

FC琉球ならではの施策で、J2、そしてJ1への昇格を目指す

常に未来志向でアイデアマンの柳澤氏。FC琉球のJ2、J1昇格を目指す。
常に未来志向でアイデアマンの柳澤氏。FC琉球のJ2、J1昇格を目指す。


ー 最後に 今シーズンの目標、そして中長期のビジョンを教えてください。


柳澤 2024シーズンはまずJ2昇格を目指します。そのためにスタジアムへの集客数をKPIに定め、我々の「うむさん」な施策で話題をつくり、一気に動員数を引き上げていく。先日のナイトゲームで、クラブ史上最多7,000人を動員できたのは大きな手応えです。リーグ優勝&J1昇格を勝ち取れるだけの集客力とファンベースを築いていきます。

中期的には3〜5年でのJ1定着、そして将来的にはアジアを視野に世界で愛されるクラブを目指します。Jリーグのゲームチェンジャーとなるべく、沖縄ならではのエンタメ性や地域性を武器に他に類を見ないクラブづくりを追求していく。また、FC琉球がハブとなって県内外のリソースを巻き込んで沖縄を丸ごと元気にする!そんなムーブメントを起こしていきたいです。

なかでも喫緊の課題はサッカー専用スタジアムの建設です。現在のタピック県総ひやごんスタジアムでは、Jクラブライセンスで定められたJリーグスタジアム基準を一部満たせておりません。

昇格に向けてはスタジアム問題は避けて通れません。新スタジアムの建設は早急に進められるように県と一緒に考えていきたいと考えています。
沖縄県が新スタジアムの建設候補予定地として検討を進めている奥武山公園は、モノレール等の公共交通機関が充実しており、空港や那覇市内からのアクセスも抜群の立地です。ここをホームスタジアムにしサッカーを核としたスポーツツーリズムで沖縄をさらに活性化していく。夢を語るだけでなく、県と協力して実現へのロードマップを描いていきます。

ークラブスポンサーを募集されているそうですね。

柳澤 FC琉球という稀有な地域クラブを通じて、沖縄という極めて魅力的な地域をトータルでPRしてくれるスポンサー企業を求めています。費用対効果だけでなく、県民の熱狂を地域活性化につなげる、志の高い取り組みをぜひ一緒につくっていきましょう。

カヤックからも、自社の人気コンテンツやノウハウを活用した面白い企画を積極的に提案して一緒に企画を練り上げていく。単なる広告料の受け取りではない、スポーツビジネスの新しいパートナーシップのモデルを生み出していきたいです。

クラブとファン、企業と生活者、みんなをつなぐ接点になれるように、そんなFC琉球ならではの価値をぜひ広告主の皆さんにも体感していただければと思ってます。


【インタビューを終えて】
新生FC琉球の船出を牽引する面白法人カヤックの新しいチャレンジ。Jリーグにおける新たなケースとして、今後の動向から目が離せない。

「サポーターもクラブも、街もみんな元気になる。結果的にそこから事業も生まれ、県全体の経済が潤っていく。そんな理想的な好循環を描いています」と柳澤氏は最後に熱く語った。

沖縄という独自の歴史と魅力的な文化を持つ地域性と、サッカーという世界最大のスポーツコンテンツの掛け算。そのシナジーを最大化するためにFC琉球は新しい風を受けて無限の大海に乗り出した。

今後もFC琉球OKINAWA、そして柳澤氏に注目していく。



インタビューイ 柳澤 大輔氏
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。
1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を置き、ゲームアプリや広告制作などのコンテンツを数多く発信。SDGsの自分ごと化や関係人口創出に貢献するコミュニティ通貨サービス「まちのコイン」は全国27地域で導入(2024年5月時点)。さまざまなWeb広告賞で審査員をつとめる他、サイコロを振って給与を決める「サイコロ給」など、会社という形の新しい可能性に取り組む。著書に「鎌倉資本主義」(プレジデント社)、「リビング・シフト 面白法人カヤックが考える未来」(KADOKAWA)、「面白法人カヤック社長日記 2015年-2020年愛蔵版」ほか。金沢大学 非常勤講師、淑徳大学 地域創生学部 客員教授。「デジタル田園都市国家構想実現会議」構成員。

(了)



AGI Creative Labo株式会社 CEO

兵庫県生まれ/スポーツジャーナリスト/ブロックチェーンビジネス/小学生の頃に故・水島新司先生の影響を受けて南海時代から根っからのホークスファン/野村克也/居酒屋あぶさん/マンチェスターシティ/漫画原作/早稲田大学スポーツビジネス研究所 招聘研究員/トヨタブロックチェーンラボ/SBI VC Trade・Gaudiyクリエイティブディレクター/CBDC/漫画『アオアシ』取材・原案協力/『スポーツビジネスの未来 2021ー2030』(日経BP)異例の重版/NewsPicks「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載/趣味 フルマラソン、ゴルフ、NYのBAR巡り /Twitter @Nao_Ueno

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