「イスラム国」に引き裂かれたヤズディ教徒(2)拉致女性は「強制結婚」の名でレイプ(写真7枚)
◆戦闘員どうしで転売も
過激派組織「イスラム国」(IS)によるシンジャル襲撃が起きたのは2014年8月。標的となったのは町や村だけでなく、そこに暮らしてきたヤズディ教徒そのものだった。ISはヤズディ教を「悪魔崇拝」と決めつけ、イスラムへの改宗を強要した。受け入れない者は容赦なく銃殺。ヤズディ教を「殲滅対象」としたのだ。
女性と子どもは複数のバスに乗せられ、別の町へと連行された。事前に大型バスが準備されていたことから、襲撃段階から拉致して移送する計画になっていたと推測される。シンジャルから連れ出された女性や子どもたちはどうなったのか。
◆女性は「強制結婚」の名で繰り返しレイプ
のちに命懸けでISのもとから脱出できた女性たちの証言から、拉致の実態と過酷さが明らかになった。
ISが町を攻撃し、主婦(19)は夫と生後8か月の乳児とともに逃げたが、隣町で他の住民たちと一緒に捕まってしまう。夫を含む男性50人ほどが並ばされ、その場で銃殺された。
モスルに移送された彼女は、結婚式場として使われていたような大きなホールに詰め込まれた。そこにはすでにたくさんの拉致女性が収容されていて、監禁部屋にいた同郷の女性2人は自ら命を絶った。一人は首を吊り、一人は手首を切ったという。
イスラムでは姦淫は認められない。だが、ISは一方的に「婚姻関係」を結ぶという形をとることで、強制性交を都合よく「合法」にした。また、第二夫人、第三夫人とされた。戦闘員どうしでの転売も繰り返された。若さや美貌によって取引額が決まり、数百ドルで転売を繰り返された中学生のヤズディ少女もいた。
彼女は子どもの命を考え、50代の男性との強制結婚を受け入れる。
連れて行かれた家には戦闘員らしき男たちもいた。2週間後、子どもを抱えて勝手口から脱出。夜道を数時間さまようなか、地元のイスラム教徒の男性と出会い、匿ってもらう。「ISはイスラムなんかでない」と彼女に同情した住民は知人のクルド人を手配し、他人の身分証を使ってISの検問を抜け、安全なクルディスタン地域に逃れることができた。
◆襲撃の2年前に村の結婚式で出会ったミルザ夫婦
ISのもとから命がけで脱出してきた女性たちの証言、シンジャル山で救出を待つ住民、クルド自治区での避難民キャンプでの過酷な生活など、町や村を回って取材を続けた。
そのなかで、気になっていたのが、シンジャル襲撃の2年前に村で出会ったミルザ夫婦だった。彼の村、シヴァシェヒドルもISに制圧されていた。
親戚を探し出し、話を聞くと、ミルザ夫婦は無事で、トルコ国境近くのザホーのキャンプに避難していることがわかった。シンジャル襲撃から1か月後、ミルザと会うために、私はザホーのキャンプへと向かった。
【関連記事】「邪教」とされ虐殺、女性らを拉致「奴隷」に(写真9枚)
(玉本英子・アジアプレス 第2回了・つづく・全5回)