米国はシリア北西部に対するドローン攻撃でアル=カーイダ幹部を殺害したと発表:犠牲者は実は羊飼い
シリア北西部のイドリブ県で5月3日、無人航空機(ドローン)がミサイル攻撃を行い、1人が死亡した。
英国で活動する反体制組織のシリア人権監視団によると、攻撃を行ったのは米主導の有志連合所属ドローン。シリアのアル=カーイダとして知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)の支配下にある県北部のクールカーニヤー村の養鶏所を狙って複数のミサイルを発射、爆発が複数回にわたって発生し、1人が死亡したという。
シリア人権監視団はこの男性の身元が不明だと付言したが、米中央軍(CENTCOM)は同日、「シリア時間の午前11時42分に、シリア北西部でアル=カーイダの幹部指導者1人を狙って爆撃を実施、作戦の詳細が出たらさらに情報を提供する」と発表した。
米国は、これまでにも度々、米軍が違法駐留を続けるシリア南東部やシャーム解放機構が支配し、「シリア革命」の牙城と目される同国北西部に対してドローンによる爆撃や空挺作戦を実施してきた。2023年に入ってからは、3月23日から24日にかけてのダイル・ザウル県内の「イランの民兵」を狙った爆撃、2月24日、4月3日イドリブ県北部での新興のアル=カーイダ系組織のフッラース・ディーン機構の指導者を狙ったと見られるドローンによる攻撃、4月8日、シリア東部でのイスラーム国のとりまとめ役であるフダイファ・ヤマニーら3人を殺害した空挺作戦、17日のシリア北部でのシリア国民軍(いわゆるTFSA(Turkish-backed Free Syrian Army))に所属する北部の鷹旅団の司令官を殺害した空挺作戦に続いて6回目。
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このうち4月17日の攻撃に関しては、CENTCOMはイスラーム国のシリア人指導者と主張したが、今回の攻撃も米国の発表とは異なる事実が暴露された。
シャーム解放機構に近いホワイト・ヘルメットはフェイスブックで、攻撃によって殺害されたのが、ルトフィー・ハサン・マストゥーという名の60歳の羊飼いで、放牧中に狙われたと発表した。攻撃では羊も多数殺されたという。
反体制系サイトのフッリーヤ・プレス、レバノンのネット新聞のムドゥンも、地元筋の話として殺害されたのが羊飼いだったと報じている。だが、前者は羊飼いの氏名を「アブドゥッラティーフ・ハサン・マストゥー」、後者は「アブー・フダイン・ハッルーフ」と伝えるなど、若干の食い違いも見られる。
なお、「決戦」作戦司令室に所属する「観測者アブー・アミーン80」を名乗る活動家はツイッターを通じて、攻撃が有志連合所属のMQ-9リーパーによるものだったと発表、攻撃の瞬間を撮影した画像を公開している。
米国(有志連合)がシリア北西部で行う爆撃や空挺作戦は、イスラーム国の幹部を標的としていない場合、詳細が発表されることは稀であり、多くの場合は、反体制系サイトや反体制組織が標的の身元などを明らかにしている。今回の攻撃についても、米国が追加情報を開示しなければ、誤爆として認知されることになろう。