世界一にも輝いたシェフによる「日本を救う」おいしいイタリア料理とは?
快挙を果たした「アルマーニ / リストランテ」
昨年12月、Gambero Rossoが発表した「Top Italian Restaurants 2022」で最高ランクの3を獲得した「アルマーニ / リストランテ」。エグゼクティブシェフを務めるカルミネ・アマランテ(Carmine Amarante)氏は世界でただ1人にだけ贈られる「Chef of the Year」を受賞しました。
・日本のイタリアンレストランとシェフが驚きの快挙! カルミネ・アマランテ氏のインタビュー全文を大公開(東龍)/Yahoo!ニュース
実力派のアマランテ氏が今ひときわ関心を寄せているのが食品ロス問題。フードロス食材(食品ロスとなった食材)を主役としたコース「ロスフードメニュー」を2021年春にスタートし、耳目を集めました。
・実力派シェフが廃棄に驚いたフードロス食材とは? 食品ロスを救える画期的なコース(東龍)/Yahoo!ニュース
食品ロス削減にも貢献できる上に、アマランテ氏によるクリエイティブな料理も体験できるということから、「アルマーニ / リストランテ」の進化を語る上で欠かせないメニューとなりました。
そしてこの度、「ロスフードメニュー」をさらに進化させたメニューが登場しました。
メニューがリニューアル
それは、2022年5月10日に開始された「サステナビリティ」(6皿 12,000円、サ別)。
アマランテ氏は「ロスフードメニュー」をきっかけにし、日本の農業や食材、地球環境に対してより深い関心を抱き、食材を扱う料理人としての使命を再考しました。そして、日本ガストロノミ学会代表の山田早輝子氏が代表取締役社長を務めるフードロスバンクと再びタッグを組み、食品ロス削減も含むサステナブルなメニューを生み出したのです。
「サステナビリティ」メニューが掲げている3つのサポートは、日本米のサポート、地方のサポート、フードロス食材のサポート。
最初のサポートは、日本人の主食である日本米です。国内の需要低下によって多くのロスが発生しています。これを救うために、イタリア米ではなく日本米を用いてリゾットを創り出しました。空輸に頼らず、より短いフードマイレージでつくり上げるので、環境問題の観点からも地球にやさしい一皿です。
地方のサポートは、日本の地方を活性化させたいという、アマランテ氏らしい着眼点。今回は北陸地方に焦点を当て、コース内で使用されるメイン食材は全て北陸産で統一しました。
最後はフードロス食材のサポート。見た目の問題で通常ルートでの出荷ができない食材を一部の料理に使用することで、食品ロスの削減に寄与しています。
では、アマランテ氏の新コース「サステナビリティ」をご紹介しましょう。
高農園のサラダ
石川県能登半島にある「NOTO 高農園」は化学肥料を使用せず、畑に無理のない輪作栽培を採用しています。その「NOTO 高農園」から毎朝送られてくる20種類以上の野菜でサラダを紡ぎ出しました。同じ野菜が使われたサラダは二度とないという、一期一会の一品です。
生のままであったり、茹でたり、焼いたりと、野菜によって最適な調理法が施されています。フォークではなく、あえて箸が添えられているのも特徴的。これは、箸の方が食材に対して感覚が鋭くなり、野菜をより深く味わえるという、アマランテ氏のアイデアからです。
スモーク ハマチ
福井県のプライドフィッシュでもあるハマチをスモークし、バトン状に美しく仕上げた前菜。プライドフィッシュは全国漁業協同組合連合会が主導し、各都道府県がそれぞれ、自信をもっておすすめできる「本当においしい魚」。
ハマチの周りには薄くスライスしたラディッシュをまとわせ、上には余すところなく使ったポロネギのフリットをトッピング。酸味の利いたソースが爽やかで、日本の夏は蒸し暑いからコースの前半にスッキリとした味覚を、と考案されました。
スナップえんどうのリゾット
ナポリの伝統的料理「パスタ エ ピゼッリ(パスタとグリーンピース)」と卵かけご飯からインスピレーションを得て創り出されたリゾット。アマランテ氏が試作に2ヶ月半も要した渾身の逸品です。
日本一の生産量を誇る新潟県産米のロスを防ぐため、リゾットに最適な新潟県産米を厳選して配合した「れすきゅう米」を使用しました。一粒一粒の存在感を感じさせていると同時に、日本米らしい、しっとりさと甘味が感じられます。
上にのせられた卵は、45度で温めてから最後に湯通しして、周りだけ固められました。スナップエンドウの淡い味わい、卵の濃厚さ、パルメザン・レッジャーノの香りが重なり合い、妙妙たる食味です。
鰆の炭火焼き クレソンソース
ハマチと同じく、福井県のプライドフィッシュに選ばれているサワラを使用。中はレアに近い火入れなので旬魚の佳味を味わえ、藁焼きしているので香ばしいです。
下には甘味のあるアスパラガス。アスパラガスの端材を用いた出汁にクレソン、ポロネギ、エシャロット、クレソンを合わせたソースは緑が豊かで軽やかです。
とみつ金時
福井県フィールドワークス産のとみつ金時を用いた、プレドルチェ。アイスキャンディになっており、見た目も可愛らしいです。上の部分は優しい甘味のとみつ金時のアイスクリーム、下の部分は爽やかなベルガモットのソルベ。形や大きさの規格によって、出荷できない金時をペーストに使用しています。
いちご 酒粕
石川県の紅ほっぺと、福井県にある黒龍酒造の酒粕を使用したドルチェ。形が理由で規格外になったイチゴをピューレとソルベにし、酒粕のジェラートもしのばされています。イチゴの甘酸っぱさと酒粕の穏やかな甘味が見事に調和。
企画された背景
3つのテーマに沿った素晴らしいサステナブルなコースでした。どういった経緯で提供することになったのでしょうか。
アマランテ氏は振り返ります。
「ロスフードメニューは非常に好評でしたが、1年を迎えるにあたって、さらにステップアップしたいと考えました。昨年10月頃から、次のテーマについてチームでディスカッションして、3つのサポートをテーマに掲げることが決まりました」
日本米のサポートで、日本一の生産量である新潟県産の米を使用することになりました。日本各地の食材を使うとメッセージ性が弱まってしまうので、地方のサポートでは新潟県が属する北陸地方にフォーカスすることにしたといいます。
「地域が決まったので、11月頃から食材を探し始めました。コンセプトへの合致、供給の安定性や季節性などから、『サステナビリティ』に相応しいメニューを考案するのはとても大変でしたね。半年近くかけて、納得いくものを完成させました」
4つ目のサポート
「次は秋くらいにメニューを刷新するので、また苦労しそうです。ただ、苦しみはありますが、サステナビリティに貢献できる喜びも大きいので、やりがいがあります。どうぞ楽しみにお待ちください」
世界のトップシェフにも選出されたアマランテ氏のような料理人が、サステナビリティに強くコミットし、美食を紡ぎ出しています。これによって世界中の料理人たちがSDGsの意識を高めることは間違いありません。アマランテ氏が「サステナビリティ」コースを提供すること自体が重要な「4つ目のサポート」になると、私は考えています。