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交通事故で意識不明の重体だった小学生回復! 母親からの涙のメッセージ

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
休校が続く中、子どもが日中に被害に遭うケースが増えています。十分に注意して下さい(写真:アフロ)

 私にメールが届いたのは、5月14日、夜のことでした。

 書き出しには、こう綴られていました。

『4月9日、川崎区で起こった「8歳、小3男子意識不明の交通事故」の被害者の母です。この度はご心配をおかけしました。また、記事に書いていただきありがとうございました。見ず知らずの方なのに、きっとあのとき、うちの息子のことを思っていただけたのだと思いますと、このままにはできずメールをさせていただきました』

 読み始めて、ハッとしました。

 差出人は、私が約1か月前に執筆した、『新型コロナ休校で、子供の重大事故発生 ドライバーや保護者は今まで以上の注意を!』(2020/4/12)で取り上げた、まさにその被害者のお母さんだったのです。

 

 この事故は、新型コロナウイルス対策で小学校が休校となっていた木曜日の正午頃に発生しました。

 自転車で公園に向かっていた小学3年生の男の子と車が衝突。NHKニュースは、『男の子が意識不明の重体で病院に運ばれた』と報じていました。

 その後、容態はどうなったのか……、私は祈るような気持ちで、お母さんのメールを読み進めました。

『息子が脳挫傷で意識不明になったとき、私の人生はもう終わりだとまで考えておりました。毎日が怖くて、目を覚まして! と、ずっと願っていました。そんな息子は、おかげさまで皆さまのお気持ちを受け取ってくれたのか、目を覚ましてくれました。そして、麻痺していた手足を少しずつ動かしはじめ、今では歩行や会話もできるまでに回復してくれました。本当にありがとうございました』

 メールを読み終えたとき、私は胸がいっぱいになりました。

 意識不明の重体だった男の子は、集中治療室で救命処置を受け、一命をとりとめ、さらに会話ができるまでになっていたのです。

■意識不明で人工呼吸器装着も、コロナの影響で面会できず

 メールには、携帯番号も書かれていましたので、私は早速、お母さんのみどりさん(仮名)と電話でお話をしました。

「息子さん、意識が戻られたのですね。本当によかったですね」

 私がそう言うと、

「ありがとうございます。皆さんに守られたのだと思います。正直、事故直後はニュースも見られませんでした。我が子が事故に遭ったことを信じたくなくて……。でも、最近やっと見られるようになり、柳原さんの記事を見つけたのです。そして、記事を読み、初めて息子の事故の現実と向き合うことができました」

 みどりさんは電話口の向こうで、そう言って声を震わせながら、当時のことを振り返りました。

「事故後、救急病院に運ばれた息子は脳挫傷で意識がありませんでした。すぐに人工呼吸器を装着し、集中治療室に入れられました。搬送直後、処置をされているときに少しだけ姿は見たのですが、それ以降は新型コロナの影響で、私たち家族は息子に面会をすることが一切できず、一週間、ただ自宅で待機し、病院からの連絡を待つことしかできませんでした。電話が鳴るのが本当に怖くて、辛い時間でした」

 新型コロナウイルスの影響は予想以上に大きく、市民病院の集中治療室はすぐに満床になってしまったそうです。

 そんな中、息子さんが人工呼吸器をつけ、手厚い治療を受けることができたのは、幸運だったと言えるでしょう。

「おかげさまで人工呼吸器は1週間くらいで外すことができました。でも、目が開くまでには少し時間がかかりました。一般病棟に移されてからも、コロナの影響で面会は厳しく規制されていて、会えるのは1日に1名のみと限定されていました」(みどりさん)

 その後、息子さんは手足を少しずつ動かし始め、最近になって会話もかわせるようになったそうです。

 しかし、事故から35日が経過した今もまだ入院生活は続いています。

 この先はリハビリ病院への転院が検討されており、機能回復の訓練を行いながらの治療が行われる予定とのことです。

「リハビリ病院の方は現在、新型コロナの影響で家族の面会は一切受け付けていないそうです。息子はまだ8歳ですが、そちらに転院したら24時間一人で過ごさなければなりません。でも、少しでもよくなるために頑張ろうねと、今、本人に話をしているところです。息子が当事者になるまでは、交通事故はどこか他人事だという感覚がありました。でも、今回のことでそれは違うのだということがはっきりわかりました。特に、感染症が拡大している今のような時期にケガを負うと、本当に大変なことになるのだと改めて痛感しています」(みどりさん)

■ウイルス感染だけではない、身近に迫っている交通事故という危険

 みどりさんのご家族が住む神奈川県は、今も「緊急事態宣言」が継続し、子どもたちの学校も休校中です。

「緊急事態宣言を受け、学校は今もお休みです。そんな中、新型コロナのことばかりに目が向き、私自身、子どもが道路へ出たときの危険についての認識がおろそかになっていました。子供たちを守らなければならないと思いながらも、『外で遊びたい』という彼らの欲求を抑えることができず、公園なら……という思いで、自転車での外出をつい許してしまいました。今では、他の兄弟も外には絶対に一人では出さず、交通ルールを教えこんでおります」

 5月14日の夕方には、富山市でも休校中の小学3年生が交通事故で重傷を負う事故が発生しています。

『自転車の男子児童が車にはねられ大けが』(2020.5.15/富山テレビ)

 みどりさんは、立て続けに発生している休校中の子どもの事故をなくすため、身近に迫っている危険について知ってほしいと言います。

「こうした事故が次々と起こっている今、運転をするドライバーさん、そして、休校中の子どもさんがいるご家庭では、ぜひ、家族、親戚、身の回りの人達で、交通事故の危険性を再確認してもらいたいと思います。事故が起こってからでは遅いのです」

 休校中の子どもたちがこれ以上交通事故の被害に遭わないよう、コロナ禍の今、それぞれが、それぞれの立場で最上級の注意を払うことが必要です。

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ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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