日本がドイツ戦で歴史的な勝利。森保ジャパンの「反撃の狼煙」とフリックの失策。
歴史的な勝利だった。
カタール・ワールドカップが幕を開けた。日本代表はグループE第1節でドイツ代表と対戦。2−1と勝利を収めている。
■最大のトピックス
日本戦のドイツの敗北、そしてサウジアラビアのアルゼンチン撃破は今大会の最大のトピックスとなっている。
では、なぜそのような出来事が起こり得たのか。今回は、その点を検証する。
「シャビと10人の日本人選手がいれば、試合に勝てる」
かつて、スペインの名将、ルイス・アラゴネス監督はそのように語った。シャビ・エルナンデスを中心にチームビルディングを行おうとした時、突出したプレービジョンを備える選手とハードワークができる選手をミックスさせれば、最強のチームが作れると考えていたからだ。
ハードワーク。規律。連携力。ルイス・アラゴネスが「日本の選手」を比喩として用いた際、イメージにあったのは、そういった言葉だ。
そのアラゴネスの言葉は、カタールW杯という大舞台で、体現される。
日本は【4−2−3−1】を基本布陣としてカタールに乗り込んだ。
日本は6月に行われた強化試合で、パラグアイ、ブラジル、ガーナ、チュニジアと対戦した。ここまでは、アジア最終予選で固めた【4−3−3】がベースのシステムだった。しかしながら、この6月シリーズで出た課題を選手同士で話し合い、森保監督にぶつけたところ、次の9月シリーズでシステムチェンジが断行される運びとなった。
ドイツとの一戦には、【4−2−3−1】を起点に、【4−4−2】へと可変する布陣で臨んだ。
だがドイツはビルドアップの形を複数用意していた。最終ラインを3枚にする型で日本の2トップのプレスを無効化。前半、日本のプレッシングは機能していなかった。
また、イルカイ・ギュンドアン、ジャマル・ムシアラといった捕まえ辛い選手への対応が難しかった。特に、ギュンドアンのところは、度々マークが甘くなった。
ドイツはギュンドアンを起点に日本のプレスの「第一ライン」を剥がしていく。すると、日本の選手たちは帰陣せざるを得ない。走らされ、スタミナが消耗する。
前半32分にPKで失点するまで、いや、前半は全体を通じて完全にドイツのペースだった。
■後方から整える策
0−1で折り返したハーフタイムに、森保監督は選手交代とシステム変更を決断する。久保建英アウト、冨安健洋イン。5バックにして、攻守のバランスを整えようとした。
日本は鎌田大地、伊東純也を両翼に【5−4−1】を形成。1点ビハインドでありながら守備を厚くするプランに、疑問を憶えた人もいただろう。しかしながら日本は守備が安定してペースを取り戻した。アーセナルで活躍する冨安の存在も大きかった。反撃の狼煙が密かにあげられたのは、その瞬間―システムチェンジと冨安の投入―だったのだ。
日本はペースを取り戻した。一方で、ドイツがそれを失った。森保監督は57分に浅野拓磨と三笘薫を投入する。左サイドと前線に「スピード」という武器を送り込んだ。
対して、ハンジ・フリック監督は67分に動く。トーマス・ミュラーとギュンドアンを下げて、ヨナス・ホフマンとレオン・ゴレツカを入れた。
だが、これはハンジ・フリック監督の失策だった。
ギュンドアンが不在となり、ドイツは中盤で起点を作れなくなった。ハードワークが売りのゴレツカでは、ミドルゾーンでボールを受けて捌くというプレーは期待できない。そこでキミッヒが孤立した。他方で日本は中央を圧縮しての守備でボールを奪い、すかさずサイドの三笘や伊東に展開するというやり方を徹底した。
「僕たちのチームには、あまりボールを受けたがらない選手がいた。そういう感覚があった」とは試合後のギュンドアンのコメントである。
ギュンドアンが明かしたように、ドイツはW杯初戦で日本をリスペクトし過ぎていた。自滅してしまった、と言っても過言ではない。狂った歯車は戻らず、74分に途中出場の堂安律、82分に浅野がネットを揺らして逆転劇を演出した。
■ドイツが迷い込んだ袋小路
ドイツが、自分たちで迷路に迷い込んでいったのは明らかだ。
ただ、日本もフォーメーションの変更と選手交代で変化を起こした。終盤には南野拓実、堂安がピッチに送り込まれ、5バックから【3−4−2−1】にシステムを変えた。
両ウィングバックに三笘と伊東がいて、ハーフスペースを南野と堂安が使う。相手のサイドバックの裏をうまく突いて、ドイツに後手を踏ませた。
日本にとって、大きな一勝だった。
だが、まだ勝ち点3を挙げたに過ぎない。本当の戦いは、ここから始まる。
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