東京が4度目の緊急事態宣言へ突入 飲食店経営者のリアルな叫び(前編)
4度目の緊急事態宣言が発出された東京
東京は7月12日から8月22日まで、4度目となる「緊急事態宣言」に突入した。すでに緊急事態宣言が発出されていた沖縄も延長となり、埼玉・千葉・神奈川・大阪の4府県に適用していた「まん延防止等重点措置」も延長となった。緊急事態宣言の対象地域では酒類の提供が禁止され、まん防措置の地域でも原則として酒類の提供停止を要請している。政府はこれらの施策によって、夏休みやお盆の人流を抑えて感染拡大を防ぐ狙いだ。
長引くコロナ禍によって、飲食業界では閉店や廃業が相次ぎ、雇用も守れなくなっている。さらに時短営業などに対する協力金の遅配も目立ってきた。また政府は酒販業者に対し要請に従わずに酒類を提供している飲食店への取引中止を促したり、利用客に飲食店のコロナ対策をグルメサイトを通じてチェックさせるなど、飲食店にとってさらに厳しい環境となっている。
このような状況下において、飲食店経営者はどういう思いで日々の営業を行っているのか、これまでも飲食店経営者からリアルな声を聞いてこの場で公開してきたが、今回は緊急事態宣言にまた突入した東京で飲食店を営む経営者に率直な意見を聞いてみた。今、飲食店を営む人たちは何を思い、何を考えて日々の営業をしているのだろうか。前編、後編の二回に分けて飲食店経営者のリアルな声をお伝えしたい(後編はこちら)。
『伊蔵八 本店』:説明がなければ賛成も反対も出来ない
都内に複数の業態を展開するラーメン店『伊蔵八 本店』(本店:東京都荒川区西日暮里5-21-2)。人気店『つけめんTETSU』を創業し、『伊蔵八 中華そば』をはじめ数々の飲食店を運営、プロデュースしている小宮一哲さんは、今回の緊急事態宣言の発出をどう考えているのだろうか。
「緊急事態宣言が解除されたのはついこの前です。その時点で既にリバウンド傾向が確認されていたにもかかわらずです。こうなることは国民誰もが分かってたと思います。過去の緊急事態宣言で時短営業や酒類販売中止の要請に従っても、感染者数は下げ止まっています。つまり飲食店とは関係の無いところで感染が広がっていると言えます。現にウチのスタッフで感染者は出ていません。根拠や十分な説明もされずに『飲食店が諸悪の根源』かのような雰囲気を作られることに怒りを覚えます」
小宮さんの経営する店では、コロナ対策はもちろんのこと東京都が要請することには全て従ってきた。しかしながら、その効果については疑問を持っている。
「飲食店が感染者数を増やしてるなんて全く思っていません。これまでも要請に応じてきましたし、これからも要請には応じますが、その理由は『万が一にでも自店でクラスターを発生させてしまったら袋叩きにあいそう』だからです。東京都の『感染拡大防止宣言』などの感染拡大防止施策に関しても全て承認を受けている、もしくは申請中ですが、これらの効果は全くないと思います。こんなことをやらなくても1年半も前から飲食店はお客様に安心してもらえないとご来店頂けないのでとっくに対策済です。個人的には振込み作業が追い付かないので、飲食店に申請を遅らせる為の施策だと思っています」
時短営業や酒類販売中止に対する協力金に関しても不満を語る。
「『○月○日から時短営業や酒類販売禁止』などの要請が出るわけですが、その時点では協力金の金額や支給条件は明確な提示がされず、規制内容だけが提示されます。そして協力金の申請日が近づくと支給条件がホームページに掲載されるのですが、支給条件から外れていることもあります。つまり、協力は強いておきながら払う段階になって『あなたは条件外です』と言われるのです。今回政府は『協力金の先渡し』を言っていますが、先渡しを受けられる飲食店なんて本当に僅かしかないと思います」
小宮さんは政府や自治体への複雑な思いをこう語る。
「過去のことをとやかく言うつもりはありませんが、政府には過去の経験を活かして対策を打って欲しいと思います。過去の経験を活かすことなく同じ失敗ばかりを繰り返し、その責任を我々に押し付けているような気にもなってきました。これ以上我々に出来ることはありません。とにかく政府には説明をして頂きたいです。説明がなければ賛成も反対も出来ません。つまり、意見が言えません。そして今の日本はこのようなインタビューに答えただけで『見せしめ』にされる恐怖を感じるような国になってしまいました」
イタリアン経営者:規制が厳しく脅迫的になってきた
都内でイタリアンなど複数の業態の飲食店を経営するオーナーシェフにも話を聞いた。
「今回緊急事態宣言が出た事や、お酒の提供禁止など、はっきり言って呆れています。出ると思っていましたが、やっぱりかぁという思いです。さらに今回は何の為?誰の為の緊急事態宣言なのかが、本当に分からないです。コロナを抑え込む事に対して、誰もが一生懸命にやっていると思います。自分達も1年以上いろいろな対策をして、より良くする為に努力しているはずなのに、政府は上から押し付ける要請しかしないという状況には、ちょっとガッカリしています。政府も段々と規制を厳しく、そして我を忘れて脅迫的になって来ていると感じます」
オーナーシェフの営む店では、政府や東京都の要請に100%従うのは、経営上正直厳しいと語る。
「商業施設に出店している店舗に関しては、施設側の要望もあるので要請に従う方向です。しかしながら、弊社の中にはオープンして1年も経っていない店もあり、色々振り回されて1年間まともな営業も出来ずにいました。ワクチン接種なども進み少しずつですが軌道にのって来たところに、さらに今回の緊急事態宣言は本当に厳しいです。協力金などでは到底まかなえない部分もあるので、店舗によって様々ではありますが、通常営業や時短営業を考えております。協力金についても、現状申請自体はスムーズですが、入金は本当に遅いと思います。申請に関してもまだ4月〜5月の申請なので、本当に『先渡し』が出来るのかは疑問です。1年以上経ってもこのスピード感でやっているのに、先渡しが先行してしまって、今までの協力金が遅れるのではないか?とも思ってしまいます」
とは言え、東京都が要請する取り組みには積極的に協力してきた。それでも飲食店は悪なのか?オーナーシェフは納得がいかないと語る。
「東京都が要請する全ての取り組みに申請、チェックなどして来ましたし、1日も早くコロナが終息するようにと、プロジェクトにもしっかりと取り組んで来ました。そんな中で、今また緊急事態宣言が出てしまうと、何の為の感染対策だったのか?何の為のコロナリーダーだったのか?なぜ食事、お酒がダメなのか?となってしまいます。東京都の感染対策も全て守って来たはずなのに、あれは一体何の為の証明書?一体いつ使うモノなのか?と疑問に思います」
この一年間、全く変わっていない国のコロナ対策にも憤りを隠せない。
「完全に飲食店、酒が悪い、会食が悪いなどと思っている方々もいます。では22:00まで営業して感染はどうなのか?23:00まで通常に営業して感染者は出たのか?お店に50%〜70%のお客様を入店させてどうなのか?など、この1年間でいろいろ検証や対策は打てたはずです。結局何もせず、20:00までは密状態を作り、それ以降は外飲みをして街に人が溢れ街も汚くなっていく。そして満員電車に乗って帰る。もう最悪です。こんな状況も見ずに、飲食店が悪いとか酒業者に販売中止を要請などの施策はあまりにもおかしな話です」
現在の時短営業や酒類禁止に意味はあるのか?オーナーシェフは疑問を感じている。
「このままきっと緊急事態宣言が終わってもパラリンピック中なので、まん延防止に戻るだけな気がします。飲食店全般、アルコールも含めてですが、本当にこの感染防止対策がいいのか?昼間のカフェなどには人がいっぱいいて、奥様のランチや会社のミーティングなどで会話しているのはいいのか?など、改めて感染対策は見直して欲しいですが、今の日本の状況だと、ずっとこのままの感染対策で変わらない気もします」
今後の見通しや展望について、オーナーシェフはこう語る。
「結局、自分自身で行動するしかありません。チャレンジを恐れず、テイクアウトやECサイトなど、いろいろな取り組みも含めて、さらにチャンネルを増やしていかないといけないと思っております。食の未来がどこに向かって行くのがわかりませんが、美味しいモノを食べた時の幸福感はずっと変わらないと思います。時短に追われてちゃんと食事が出来ないような状況ですが、食を通して少しでも幸せな気持ちになれる店作りを今以上に目指していかないといけないと考えています」
※写真はすべて筆者によるものです。
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