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緊急事態宣言前倒し解除2週間 京都・福岡の飲食店経営者のリアルな叫び

山路力也フードジャーナリスト
28日で緊急事態宣言が前倒し解除となった府県の飲食店経営者は今何を思うのか

緊急事態宣言前倒し解除から2週間

 新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、1月から続いている緊急事態宣言。当初は1ヶ月間の予定だったが、東京や大阪など10都府県に関して解除が見送られてさらに期間が延長されていた。しかし、各知事の解除要請に応じる形で岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の6府県については、2月28日をもって宣言が解除された。1ヶ月延長した3月7日までの期限を1週間早めたことになる。

 長引くコロナ禍によって、飲食業界では閉店や廃業が相次ぎ、雇用も守れなくなっている。さらに食材の生産者をはじめとする取引業者や流通業者にもダメージを与えており、その経済的損失は膨大だ。この状況下において、飲食店経営者はどういう思いで日々の営業を行っているのか、これまでも飲食店経営者からリアルな声を聞いてこの場で公開してきたが、今回は東京などよりも早く前倒し解除となった京都府と福岡県で飲食店を営む経営者に率直な意見を聞いてみた。緊急事態宣言が解除されて2週間経った今、飲食店を営む人たちは何を思い、何を考えて日々の営業をしているのだろうか。

『うずら屋 京都』(京都):雇用確保のためには営業を続けるしかない

京都祇園で人気の『うずら屋 京都』は、品質を落とすことなく経営の効率化を目指していく
京都祇園で人気の『うずら屋 京都』は、品質を落とすことなく経営の効率化を目指していく

 京都祇園で人気の鶏料理店『うずら屋 京都』(京都府京都市東山区川端通四条上ル東詰)を営む大島将吾さんは、国や自治体の要請にしっかりと応じて営業を続けてきたが、納得のいかない部分もあると語る。

「昨年の要請も今回も従って、加湿器、空気清浄機、換気、アルコールスプレーなど対策を万全にした上で時短営業を続けています。その中でも特にお客様との『対面接客』を極力少なくするように心がけていますが、政府から『ランチも気を付けろ』などと言われてしまうと、何のためのガイドラインなのかと思ってしまいます。それならば『体調の優れない人は外出を控えるように』と言ってもらうだけで良いと思いますね」

 緊急事態宣言は明けても営業時間短縮の要請は続く。大島さんは今回の時短要請に関しても受け入れて営業を続けている。

「一時間の営業時間延長は当店にとっては大変ありがたいです。前回の21時までの時短要請の時は売り上げ25%減程度に収まりましたので、今回もある程度の見通しはたっております。20時まで営業の時はおよそ50%減でしたが、デリバリーなどはせずに、仕入れコストを限りなく落として、およそ一回転分の仕入れのみにして、18時営業開始を一時間早めて17時からにしてます。週末は15時からのご予約もあったりするので、5時間営業でなんとかやっていってます」

 行政の補償や対応については一定の評価をしつつも、複雑な思いを口にする。

「今は休まず営業しておりますが、一番の理由は雇用確保のためです。当店の場合は補償によって存続出来ていますが、正直休業する方が良いです。一律の補償はやはりお店の規模により不満が出ると思いますので、納税額などから補償額を決める方が公平だとは思います」

 観光都市である京都。これから桜の時期になって人出が増えることが予想されている。

「京都は3月後半から桜のシーズンに差し掛かり、おそらく人は増えてくると思います。コロナとの共存は避けられないですし、私たちもですが、来られるお客様自身も体調の管理をしつつ、外出や食事をしていかないといけないと思います」

『博多一双』(福岡):あと一週間ならば我慢しても良かった

豚骨ラーメンの聖地、博多で人気のラーメン店『博多一双』はピンチをチャンスと捉えている
豚骨ラーメンの聖地、博多で人気のラーメン店『博多一双』はピンチをチャンスと捉えている

 2012年の創業以来、福岡市内に3店舗を構え、いずれも連日行列を作る博多ラーメンの人気店『博多一双』を運営する『株式会社EVORISE』(本社:福岡県福岡市博多区)。代表取締役の山田晶仁さんは、今回の宣言解除に対して複雑な想いを語る。

「国や県が早く宣言を解除する事で、経済を動かしていこうという配慮はありがたいと思いますが、あと一週間の我慢であればそこまでは皆で我慢しても良かったのではないかと感じてもいます。営業時間短縮の要請も1時間緩和されましたが、当社では当初の予定通り3月7日までは20時までの時短営業を続けました。急に営業時間を変更することで、スタッフたちが戸惑うことを避けたい狙いもあります」

 飲食店が感染源として名指しされている事に関してはどう感じているのだろうか。

「飲食店だけではなく、あらゆる場所やあらゆる場面で感染のリスクはあると思いますので、正しい情報を得て正しく恐れる事が大事ではないかと思います。感染対策をしっかりと行なっている多くの飲食店については、安心してご来店頂けるかと思います。マスクの着用や換気については、お客様に安心して食事をして頂く上で、飲食店の新たな基準になったのではないでしょうか」

 今回のコロナ禍では売上も減少したが、ピンチをチャンスとも捉えている。

「確かに売上は落ち込みましたが、感染者数が落ち着いて来てからは回復をしています。今回のコロナ禍以降を踏まえて、体制を整えるべく今一度調理工程や接客オペレーションの見直しに着手しています。現在の来客や売上に慣れたままではコロナ以前の売り上げに戻すことは困難です。たくさんのお客様が来ても大丈夫な体制を構築するために、基本をもう一度見直して準備することが重要かと思います。コロナ禍でたくさんの方たちが悲しい思いをされたかと思います。微々たる力ではありますが、飲食店として少しでも皆様に活力を与えられるようにこれからも頑張って参ります」

『魚と肴 いとおかし』(福岡):福岡の新たな食のトレンドを創出したい

福岡の人気居酒屋『魚と肴 いとおかし』では、新たに朝食ニーズの開拓を始めた
福岡の人気居酒屋『魚と肴 いとおかし』では、新たに朝食ニーズの開拓を始めた

 個性的な居酒屋がしのぎを削る福岡で、連日人気を集める『魚と肴 いとおかし』『博多華吉』を展開する『株式会社HANAYOSHI』(本社:福岡県福岡市中央区)。代表取締役の泊信志さんは、今回の宣言解除については戸惑いを感じているという。

「今回の緊急事態宣言に関しては、開始も解除も突然で私も現場スタッフも戸惑っています。せっかく感染拡大が鈍化している中で、早々に解除してしまうとまた3度目の緊急事態宣言が発出されてしまうのではないかと危惧しています。やるならば徹底して欲しいと思っていますが、営業中にマスクを着用し、換気も積極的に行い、アルコール消毒も徹底するなど、感染拡大対策をしっかりやることが飲食店にとって当たり前の時代になっている中で、飲食店の営業を抑えても結果は変わらないとも思っています」

 ただ、今回のコロナ禍によって新たなビジネスチャンスが生まれたとも考えている。

「緊急事態宣言が出た3日後には新たな業態を作り差別化。これまでは夜営業のみでしたが朝の営業を始めました。時差出勤で朝の時間がある方や、夜勤明けの看護師さんなどのキーワーカーの方たちなどに笑顔で食事をして欲しいという思いと、政府による『昼も夜もダメ』という謎な見解を打開したいと思い、朝7時からの朝食を開始しています。おかげさまで1ヶ月経ちましたが、好評で売り上げもしっかりと確保出来ています。コロナのおかげで新しい客層が発見出来たのは大きかったですね。おいしい食事を提供してお客様に笑顔になってもらい、お客様の免疫力を上げていければ良いですね」

 緊急事態宣言が明けてからの客の動向に変化が見られたと泊さんは語る。

「お客様で女性のお客様が増えてきたことと、客単価が上がったのが特徴です。伊勢海老などの高単価な料理を注文される方が増えている印象です。リモートや自粛疲れの反動なのか、ストレス発散のように特に朝食の時間帯で高単価のメニューを頼まれています。また、時差出勤の合間需要も多く朝食の可能性を強く感じています」

 この朝食営業から、コロナと共存する時代の新たなビジネスモデルが見えてきたと泊さんは考えている。

「飲食店は強い業態だと思います。皆外食したいと思っていますし、人とコミュニケーションを取りたいと思っています。今後は昼飲み需要が増えていき、いずれは飽和状態になると考えています。弊社では魚業態の強みである市場や漁師さんとの直接ルートがありますので、それをさらに強く打ち出し『朝食』という部分をさらに育てていくことで、福岡の新たな食のトレンドを作り上げていきたいと考えています」

 東京、神奈川などの首都圏一都三県では21日の宣言解除が濃厚になってきたが、飲食店への客足がすぐに戻るとは考えにくく、しばらくの間は厳しい状況が続いていくだろう。一日も早く新型コロナウイルスの感染が収まることを祈りつつ、今後も飲食店の取り組みを継続して見守りながらこの場でも伝えていきたい。

※写真はすべて筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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