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【パリ】18歳以上のワクチン接種が可能に。戻りつつあるかつての日常と確実な変化

鈴木春恵パリ在住ジャーナリスト
サン・ジェルマン・デ・プレ界隈のカフェ(写真はすべて筆者撮影)

カフェのテラスがある日常

日曜の朝、カフェのテラスに座って道行く人を眺めながらクロワッサンをほおばる。

アポイントの前に、近くのカフェでエスプレッソを一杯。

そんな、以前はごくごく当たり前だったことがいかに貴重なことか…。なくなってみてはじめて気づく日常の幸せがあります。パリに暮らしていると、その最たるものが、カフェの風景かもしれません。

フランスでは昨年3月からこれまで3回のコンフィヌモン(外出制限)が行われ、そのたびにパリは眠ったような状態になりました。象徴的なのはカフェやレストランの営業停止。カフェが毎日全部閉まっているという光景は、1年3ヶ月前まで、誰ひとり想像できないものでした。

直近3度めの制限がいま段階的に解除されつつあります。その第2段階めとして5月19日からはすべての商店の営業が始まり、カフェやレストランも屋外の営業に限って再開され、パリっ子たちは待ってましたとばかり外に出るようになりました。

カフェのテラス再開初日、マクロン大統領とカステックス首相がエリゼ宮(大統領府)近くのカフェで朝のコーヒータイム(5月20日『ル・フィガロ』)
カフェのテラス再開初日、マクロン大統領とカステックス首相がエリゼ宮(大統領府)近くのカフェで朝のコーヒータイム(5月20日『ル・フィガロ』)

カフェのテラス再開の翌日、新聞『ル・フィガロ』をはじめ様々なメディアに、マクロン大統領とカステックス首相がまるで「普通の人」のように、仕事場、つまりエリゼ宮(大統領府)近くのカフェで朝のコーヒーを飲むという写真が掲載されました。

もちろん、これは彼らのごく普通の日常というわけではなく、多分に演出されたものだろうと想像できますが、「ふたたび手に入れた自由のひとときは、わたしたち全員の努力の成果」というコメントとともに発信されたこの光景は、「かつての日常を取り戻しつつある」という象徴的なものです。

筆者もさっそくテラスの席を埋めるひとりになりましたが、コーヒーの味も、小さなカップの厚みも、テラスで食べるクロワッサンの香りも、(コレコレ)と、思わずニンマリしてしまう感覚です。

通りに面したカフェのテラス席。コーヒーとクロワッサンで始まるとある日曜の朝。屋外でもマスク着用が義務づけられてはいるが、テラスで着席中はマスクを外していられる
通りに面したカフェのテラス席。コーヒーとクロワッサンで始まるとある日曜の朝。屋外でもマスク着用が義務づけられてはいるが、テラスで着席中はマスクを外していられる

手指消毒液もカフェのテーブルの定番になる?
手指消毒液もカフェのテーブルの定番になる?

一方でコロナ前とは確実に変わったところもあります。それは、テーブルに手指消毒液が置かれていたりするところ。そして、テラス席が道に溢れんばかりに広がっている光景です。

数ヶ月間、カフェやレストランはまったく営業できず、今回ひとまず再開されたとしても、テラスのみでの営業(6月9日からは店内営業も再開予定)ですから、できるだけ席数を増やして挽回したいところ。そのため、かつてないほどの規模でテラス席を広げています。

普段ならば、歩道など公共の場所に席を設けて営業するにはさまざまな制約があり、タダではありません。しかし、この状況下ですから、パリ市は特例として当面6月30日まで無料で、テラス席を拡張することを認めています。結果、ようやく人がすれ違えるくらいのスペースを開けて、道の両側にテーブルと椅子を並べ、さらに車道にもテーブルが。つまり路上駐車スペースをつぶしてテラスに転用しているのです。

飲食店が立ち並ぶ通りには、テーブルと椅子がずらり
飲食店が立ち並ぶ通りには、テーブルと椅子がずらり

サン・ジェルマン大通りの車道に現れたテラス席。そもそも配達車両の停車ゾーンだったところに床板、腰板などを張って拡張店舗にしているところが少なくない
サン・ジェルマン大通りの車道に現れたテラス席。そもそも配達車両の停車ゾーンだったところに床板、腰板などを張って拡張店舗にしているところが少なくない

サンルイ島のカフェ・レストラン
サンルイ島のカフェ・レストラン

サンルイ島の橋の袂のスペースもテラス席に
サンルイ島の橋の袂のスペースもテラス席に

パリ6区、シェルシュミディ通り。レストランの前の車道だけでなく、横の建物の壁際にもテラス席が。21時の夜間外出制限までのあいだに戸外で夕食を楽しむ人たち
パリ6区、シェルシュミディ通り。レストランの前の車道だけでなく、横の建物の壁際にもテラス席が。21時の夜間外出制限までのあいだに戸外で夕食を楽しむ人たち

急ピッチで進むワクチン接種

1年前、1回目のコンフィヌモン(外出制限)が明けたときにも、カフェやレストランがある日常をありがたく思ったものです。ただし、あのころと決定的に違うのはワクチンがあることです。6月1日現在、フランスで1回でもワクチンの接種を受けが人の数は2,544万人。これは人口のおよそ38%という数字です。

フランスのワクチン接種は昨年末から、まずは要介護高齢者施設入居者を対象にスタートしました。1月18日からは一般の75歳以上が対象になり、徐々に年齢を下げていき、5月半ばからと予定されていた55歳以上の接種が約1ヶ月前倒し、4月には接種できるなど、春先から急ピッチで進んできています。そして5月31日からは、18歳以上の希望者全員が受けられるという状態になりました。

政府発表のワクチン接種状況。左は18歳以上全体、右は65歳以上の接種割合を示した図。濃い青色が完全接種、水色が1回でも接種を受けた人。65歳以上の図では、79%の人が1回以上接種を受けている
政府発表のワクチン接種状況。左は18歳以上全体、右は65歳以上の接種割合を示した図。濃い青色が完全接種、水色が1回でも接種を受けた人。65歳以上の図では、79%の人が1回以上接種を受けている

ワクチンの種類は「ファイザー・ビオンテック」、「モデルナ」、「アストラゼネカ」、「ジャンセン」の4種類で、年齢によって、また接種場所によって接種できるものに違いがあります。

政府の公式サイト(5月31日時点)によれば、「ファイザー・ビオンテック」はすべての年齢層が対象。区役所、スタジアムや見本市会場などを利用して設けられたワクチンセンターで接種することができます。「モデルナ」は18歳以上対象で、医師のもとや薬局で接種できるほか、2回めの接種にかぎりワクチンセンターでも可能。「アストラゼネカ」と「ジャンセン」は、55歳以上対象で、医師、薬局のほか、看護師らの診察室と在宅でも接種ができます。

薬局でワクチン接種ができるというのは、日本人には意外に思えますが、かくいう筆者も、薬局での注射を初体験しました。ワクチンセンターではそれなりに待ち時間があるようですが、筆者が体験した街の薬局では、前日に空きがあることがわかってその場で予約。翌朝アポイントの時間に来店すると、問診票を記入してから店の奥のコーナーへ。人がふたり入ればいっぱいになるくらい小さなスペースで、薬剤師さんが接種してくれるというもので、接種後の経過観察のための待機時間を入れても、20分ほどですべてが完了というものでした。

国民の65%がワクチン接種に好意的

そもそも、ワクチン接種は義務ではありません。とはいえ、コロナ禍から脱出するために現時点でもっとも有効な手だてがワクチン接種、という考えは政府だけでなく、一般の人々にとっても大勢になってきています。

以前、【フランス】早ければ12月末に無料でワクチン接種開始という記事のなかで、フランス人はほかの国民に比べるとワクチンに懐疑的な人が多いという調査結果を紹介しました。その10月の調査で、ワクチン接種に好意的なのは54%というものでしたが、5月21日、『ル・モンド』に掲載されていた記事によると、65%のフランス人がワクチン接種を受けるつもり、もしくは接種済みとのこと。

この調査は、前回の世界比較とは異なり、フランスのSciences Po(シアンスポ) の研究機関が1834人の成人を対象に5月3日から11日まで行ったものですが、数ヶ月前よりも10ポイント以上増加と、世の中の風潮がワクチン接種に好意的に傾いてきていることを示しています。

マスク着用、夜間外出制限はまだまだ続いています。とはいえ、昨年は5ヶ月延期になって小規模に開催されたテニスの全仏オープン「ローラン・ギャロス」が、今年は予定どおり始まるなど、1年前に比べるとだいぶ明るいニュースも聞かれるようになった初夏のパリです。

政府主導のスマホアプリ「AntiCovid(アンティコヴィッド)」では、新規感染者数、ワクチン接種数などが毎日更新されている。これはICUの占有率の推移を示す6月1日の画面
政府主導のスマホアプリ「AntiCovid(アンティコヴィッド)」では、新規感染者数、ワクチン接種数などが毎日更新されている。これはICUの占有率の推移を示す6月1日の画面

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

パリ在住ジャーナリスト

出版社できもの雑誌の編集にたずさわったのち、1998年渡仏。パリを基点に、フランスをはじめヨーロッパの風土、文化、暮らしをテーマに取材し、雑誌、インターネットメディアのほか、Youtubeチャンネル ( Paris Promenade)でも紹介している。

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